
2025年3月13日、官民によるスタートアップ支援プログラム「J-Startup」の新たな選定企業31社が経済産業省から発表された。
本記事では、今回J-Startupに選定された宇宙スタートアップ企業8社について、企業の特徴や最近の注目ニュースをお届けする。
目次
J-Startupとは
「J-Startup」とは、官民挙げて潜在力のある有望スタートアップを「推す」プログラムである。
日本で約2万社のスタートアップが日々新しい挑戦をするなかで、革新的な技術やビジネスモデルで世界に新しい価値を提供するスタートアップを創出するため、2018年6月に立ち上げられた。
経済産業省、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が事務局となり、運営を行っている。
プログラムの流れは下図の通り。

実績あるベンチャーキャピタリストや大企業の新事業担当者等の外部有識者からの推薦に基づき、潜在力のある企業を選定。
海外・国内イベントへの出展支援、海外展開支援、研究開発支援、規制改革対応、入札機会拡大、民間企業「J-Startup Supporters」との連携支援などの官民一体となった集中支援を継続し、世界で戦い、勝てるスタートアップの創出を目指すのだ。今回選定された宇宙スタートアップ
「J-Startup」では設立からの7年弱で計239社が選定されてきた。そして、今回の第5次選定では31社のスタートアップが新たにJ-Startup企業として選ばれたという。
ここからは、今回選定された31社のうち、宇宙スタートアップ企業8社について企業概要や最新ニュースをご紹介する。

株式会社アークエッジ・スペース

アークエッジ・スペースは超小型衛星コンステレーションの企画・設計から量産化、運用まで総合的なソリューション提供を行う東京大学発のスタートアップ。高レベルかつ幅広い技術を発揮している。
まず、同社は汎用性があり、かつ量産できる衛星バスシステム(電力供給、通信など全ての衛星が動作するために共通で必要な基盤部分)を開発している。
このシステムには標準搭載のIoT通信機能を持つ基本モデルのほか、リモートセンシング対応モデル、大型アンテナ対応モデル、光通信対応モデルの4つのモデルがあり、これらは互いに連携することも可能。
現在、これらのシステムを利用した7機の衛星からなる多目的衛星コンステレーションの実証中で、現時点で3機を宇宙で運用している。
その中の1機は大型アンテナ対応モデルで、同社が展開する海洋向け通信(VDES)事業向けの技術実証が行われる予定だ。
次に、2025年2月には台湾宇宙センター(TASA)がミッション部を、東京大学と同社が衛星バス部を開発した超小型地球観測衛星「ONGLAISAT」が、キューブサットにおいて世界最高レベルの地上分解能(2.5~3.0m)を達成。
同社らの衛星バスにおける超高精度な姿勢制御・温度制御技術がこの高精度な地球観測を実現可能にした。
他にも、月測位精度の高精度化をJAXAから受託して検討しているほか、月へ向かう超小型探査機「EQULLEUS」の運用に参画するなど、幅広く活躍している。
また、衛星データを活用した新事業創出・アプリ開発に向け、データ解析サービスを提供する株式会社New Space Intelligenceとの協業体制を構築しているほか、30年以上の衛星運用実績、幅広い顧客との信頼関係を持つスカパーJSAT株式会社と業務提携するなど、「事業化」にも注力している。
株式会社ElevationSpace

ElevationSpaceは、宇宙環境を生かした実証・実験を無人の小型衛星で行い、それを地球に帰還させて顧客のもとに返す国内初のサービスを開発する企業。
2030年に退役予定である国際宇宙ステーション(ISS)で行われている宇宙実験・実証機能の代わりとなる宇宙実験プラットフォームとして期待されている。
宇宙に打ち上げた小型衛星を安全に地球に帰還させるためには様々な「大気圏再突入・回収」技術が必要となるが、同社はそれらの技術を東北大学やJAXAと連携しながら自社で開発。
2024年3月には、世界的に技術発展が進んでいない小型衛星用ハイブリッドエンジンの軌道離脱に必要な推力の測定に成功。また、同年中には実験が行われるカプセル部分を衛星本体から適切に分離させる技術や、カプセルが落下中に減速し、安全に着水するための技術の実証にも成功している。
そして、2025年3月4日にはドイツに本社を置くロケット打ち上げ会社であるIsar Aerospaceと打ち上げ契約を締結したことを発表。
2026年後半に宇宙実験プラットフォームの初号機「あおば」の軌道投入を目指している。
株式会社Orbital Lasers

Orbital Lasersは、2024年1月に設立したスカパーJSAT発のスタートアップ企業。宇宙用レーザー(光)を活用した宇宙ゴミ(スペースデブリ)の除去や地球観測を行う技術の開発を進めている。
宇宙ゴミ除去事業では、小型衛星から宇宙ゴミに向けて遠隔からレーザー照射することで宇宙ゴミの軌道を変え、ゆっくりと地球大気圏に落下させる方法を検討。実現すれば世界初の技術となる。
地球観測事業では、宇宙ゴミ事業で得たレーザー技術をさらに発展・活用。衛星からレーザーを照射し、地表で跳ね返ってきたレーザーをとらえて分析することで高精度な地表面情報を取得する。
レーザーを使用した地球観測は、レーダー(電波)を使用して地表面の情報を取得するSAR衛星よりも小さなものを観測でき、距離の精度を高められるという特徴をもつ。建設工事やハザードマップに利用される3次元地図の高精度化、森林の量(木の面積×高さの総和)を求めることによるCO2吸収量の正確な計測技術として期待されている。
2024年12月には、宇宙ゴミの捕獲技術を開発するインドのInspeCity Space Laboratoriesと協業推進に向けた覚書を締結しており、レーザーと近傍運用技術を組み合わせた宇宙ゴミ除去事業の実現を目指している。
Orbital Lasersの宇宙用レーザーは遠隔で宇宙物体の回転運動を抑えられるため、回転運動を伴う宇宙ゴミやターゲットに接近する際の安全性向上に貢献する。
同社は将来的な事業提携の発展に向けて、日本、インドおよび対象市場における規制や法的枠組みの整理、そして課題解決に向けた対応およびビジネスモデルの構築等を推進している。
InspeCityと当社の技術を組み合わせたスペースデブリ除去のコンセプトイメージ(PRTIMESから引用)
将来宇宙輸送システム株式会社

将来宇宙輸送システムは、宇宙往還を可能とする輸送システムの実現を目指すスタートアップである。
同社の開発するロケット(宇宙往還機)の主な特徴は、「単段式」と「完全再利用」の2つ。
現状、多くのロケットはエンジン部分を数段階に分け、使い終わったエンジンを切り離すことでロケット全体の重量を軽くしながら宇宙に向かう「多段式」。そして、機体の一部もしくはすべてを「使い捨て」する。
一方、同社が最終的に目指すロケットは途中で機体の一部を切り離さない単段式で、宇宙を往還し、再利用することができる。
上記のようなシステムを実現するには、高推力・高効率で十分に軽量なエンジンなど、今までにないような技術を開発する必要がある。
そこで同社は、独自の研究開発プラットフォーム「P4SD」によって研究・設計から試験結果まで開発にかかわるすべての過程をデータ化し、一元管理することで、アジャイル型開発を実現し、開発スピードを加速している。
さらに、世界で戦える宇宙輸送技術の確立に向けて国内40社以上と連携して開発すると同時に、米国にも子会社を展開し、現地の企業と連携しつつ打ち上げ試験の準備も進めている。
同社は、2025年2月に文部科学省による中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)宇宙分野(事業テーマ:民間ロケットの開発・実証)のステージゲート審査により、予算の追加配分を受けることになったことを明らかにした。
低コストかつ高い信頼性を持ち、国際競争力のある技術として期待されているのだ。
スペースワン株式会社

スペースワンは、キヤノン電子株式会社と、株式会社IHIエアロスペース、清水建設株式会社、株式会社日本政策投資銀行等の共同出資により設立された、小型衛星用の宇宙輸送サービスの開発・事業化を行う企業である。
専用の固体燃料ロケットと打ち上げ射場「スペースポート紀伊」で、宇宙へのアクセスコストを下げ、宇宙ビジネスのさらなる拡大への貢献を目指している。
強みは、同社を設立した異業種4社の知見とノウハウによる高い経営安定性と技術力。
IHIエアロスペースは基幹ロケット開発・運用経験を持ち、キヤノン電子は精密機器技術や光学技術を人工衛星等にうまく活かして実績を積み上げてきた。
また清水建設は宇宙輸送サービスに必要となるインフラ関連の知見・ノウハウを持ち、日本政策投資銀行は会社運営に必要なエクイティファイナンスの知見・ノウハウを持つ。
同社はこれまでに2回打ち上げ試験を行っており、衛星の軌道投入には至っていないものの、データを取得して確実に前に進んでいる。
そして、同社もまた文部科学省による中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)宇宙分野(事業テーマ:民間ロケットの開発・実証)のステージゲート審査により、予算の追加配分を受けることが決定している。
株式会社BULL

BULLは、宇宙環境で無人実験を行えるサービス(非回収)と、ロケット向けのデブリ対策装置を開発する企業である。
特に注目なのが、デブリ対策装置だ。
同社のデブリ対策装置「HORN」は、カーボンナノチューブ電子源と導電性テザーを用いた、導電性の長い紐状の装置。ローレンツ力(地球磁場と電流により生まれる力)や空気抵抗によって物体の速度を減速させることで軌道離脱でき、大気圏突入までの時間を短くすることが可能だ。
同社のデブリ対策装置「HORN」は、H3ロケット相乗り打ち上げサービスを通じた初の軌道上実証が決定しているほか、JAXAとイプシロンSロケットへの搭載に向けた共創活動を実施。
また、欧州のロケット開発企業であるArianespaceが運用するAriane6ロケットや、同じく欧州のロケット製造会社かつ打ち上げサービスプロバイダーであるAvioが製造・運用を行うVega-Cロケットへの搭載が検討されている。
株式会社Pale Blue

Pale Blueは、安全無毒で環境にも優しい「水」を燃料とした小型衛星用エンジンの開発および社会実装に取り組む企業である。
従来、小型衛星にはエンジンが搭載されていないことが通常であったが、近年では軌道制御や軌道離脱、デブリとの衝突回避のためにエンジンを搭載する小型衛星が増え続けており、水エンジンは最先端の推進システムとして注目されている。
従来のエンジンのようにキセノン、ヒドラジンといった危険性のある物質を使用しないため取り扱いが容易で、地球上に豊富にある水を使用するため低コスト。
さらに同社は、水エンジンの低推力という弱点も克服しており、小型衛星を運用するのに十分な推力を達成している。
水エンジンには3つの種類がある。
1つ目に、内部にある液体状態の水を蒸発させて水蒸気にして噴き出す水蒸気式エンジンは、低電力で大きな推力を生成できるのが特徴。
同社の水蒸気式エンジンは、ソニーのSTAR SPHEREプロジェクトにおける衛星「EYE」に搭載されるなど、宇宙での実証実績を持つ。
2つ目に、水を水蒸気にしたうえでさらにエネルギーを加えて水のプラズマをつくり、高速で噴き出すことで推進力を生成する水イオンエンジンは大きな推進力を出したり小回りを利かせたりすることは苦手となるが、非常に燃費がよく、効率よくエンジンを動かすことができるのが特徴。
2025年6月にイタリアの宇宙企業であるD-Orbitの小型衛星「ION Satellite Carrier」に搭載され、世界初の宇宙実証が実施される予定だ。3つ目に、700㎏級までの小型衛星に適している水ホールスラスタは大きい電力を要するが、高推力かつ高燃費を兼ね備える高性能システム。現在、2027年の実証に向けて開発中となっている。
Letara株式会社

Letaraは、プラスチック製の固体燃料と液体の亜酸化窒素の燃焼を利用した、人工衛星用小型ハイブリッドエンジンの開発に取り組む北海道大学発の宇宙スタートアップである。
同社のエンジンは高推進力、高安全性、低コストが特徴。
危険性が高いものの高い推進力を持つ液体燃料エンジンと同等の推進力を確保しつつ、材料はプラスチックであるため無毒で安全である。さらに、不燃性および非爆発性であり、取扱いに特別な資格を必要とせず、素手でも扱うことができる。
加えて、非プラスチック成分が混在するプラスチックでも使用できるため、低コストで製造可能かつ環境にも優しい。また、3Dプリンターで製造できるため、必要なときにサイズや形状をカスタマイズして必要な分だけ製造可能である。
さらに、固体のまま長期で安全に保管できるため、保管コストも低い。
同社は現在、「宇宙のどんな場所へも24時間以内に」をビジョンとしてかかげている。
現在、GEO(静止軌道)や月のような遠くの宇宙に到達するまでに数週間、場合によっては数か月を要するが、Letaraは人工衛星用エンジン技術により、低価格+短時間で深宇宙に到達できる未来をつくり、宇宙空間における人類の活動を活発化させることを目標としているのだ。
2025年3月12日はシードラウンドで総額11.3億円の資金調達を実施したことを発表。資金調達により宇宙実証に向けた開発を加速させ、早期の実現を図っている。
さいごに
いかがでしたか。
今回のJ-Startupでは、選出されたスタートアップ企業31社のうち8社、つまり4分の1が宇宙スタートアップという結果となった。これは、宇宙業界の目覚ましい成長と、その重要性が社会的に認知され始めたことを示していると言えるだろう。
近年、宇宙産業は世界規模で急成長を遂げており、日本国内においても市場規模は4~8倍、必要とされる人材は10倍に増加すると予測される。
宇宙産業と一口に言っても、小型人工衛星の開発、民間ロケットの製造、宇宙旅行ビジネスなど、その領域は多岐にわたる。これらの分野が相互に連携し、発展を続けるためには、従来の宇宙業界の枠にとらわれない、多様な人材の確保が不可欠である。そのため異業種からの人材を含めた育成・採用の仕組みづくりが急務となっている。
今回J-Startupに選出された宇宙スタートアップ各社も、事業拡大に向けて積極的に人材を求めている。
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