アルテミス計画で受注!三菱電機製宇宙用リチウムイオン電池の秘密
©Space Connect株式会社

2024年5月10日、三菱電機株式会社が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から、国際宇宙探査計画「アルテミス計画」における月周回有人拠点「ゲートウェイ」向けの宇宙用リチウムイオン電池を新たに受注したことを発表した。

アルテミス計画における同社の宇宙用リチウムイオン電池の受注は、ゲートウェイの一部である宇宙飛行士の居住棟「HALO」、滞在施設や実験・研究設備のある国際居住棟「I-Hab」向けに続いて3例目。

同計画においてこれまで日本が担当した全ての宇宙用リチウムイオン電池の製造を同社が担当している。

本記事では、今回の受注の理由となる、三菱電機製宇宙用リチウムイオン電池の特長について紹介します。

宇宙とリチウムイオン電池

リチウムイオン電池(LIB)とは

リチウムイオン電池は、モバイルバッテリーやスマートフォンから電気自動車に至るまで、多岐にわたる用途で使用されている充電可能な電池である。

基本的な構造は、陽極、陰極、電解質、陽極と陰極を隔てるセパレータで構成。リチウムイオンの移動によって、電気が生成され、機器が動作する。

大きな特徴は、サイズや重量に対して多くのエネルギーを蓄えることができること、長寿命であること、自己放電率が低いこと。

しかしデメリットもあり、過充電や過放電、高温環境、外部からの衝撃等による破損によって電池が過熱し、発火・爆発を引き起こすリスクがある。

また、充放電を繰り返すと電池の寿命が短くなることもあるのだ。

宇宙用LIBに求められる性能

衛星や探査機などの宇宙機においても、リチウムイオン電池は多く使用されている。

宇宙機は、太陽光に照らされる日照期間には太陽電池パネルから必要な電力を供給し、その一部を搭載されたバッテリーに蓄える。そして、日陰期間にはそのバッテリーから電力を得る。

宇宙機用のバッテリーは地球上の用途と比較して遥かに厳しい条件で使用されるため、主に以下のような性能が必要だ。

  • 打ち上げ時の大きな振動に耐えられること
  • 充放電サイクルに強いこと
  • 長期間の信頼性があること
  • 極端な温度変動や放射線、真空といった過酷条件に耐えられること

三菱電機製宇宙機用LIBの特長

三菱電機の宇宙用リチウムイオン電池は、国際宇宙ステーション(ISS)と地球を行き来する新型補給船「HTV-X」の開発・製造で培った技術により、有人用の宇宙機に求められる安全要求を満たす機能を有している。

また、高度な技術と国内外の衛星向けに多くの納入実績を持ち、世界市場シェアは35%以上を保持。

さらに、これまで宇宙空間にある全ての同社の電池が正常に運用されているのだ。

三菱電機製宇宙用リチウムイオンバッテリーの特長は以下の3つ。

宇宙でも機能するための独自設計

リチウムイオン電池では、陽極、陰極、電解質、セパレータからなる電気分解装置(セル)を複数個接続することで全体の電圧や容量を増加させることができる。

三菱電機は、複数のセルを1つのマネジメントシステムで管理するのではなく、1つ1つのセルを個別に実装

これにより、振動・衝撃・熱等によるダメージや、電池内部の特定の領域に電流や温度、化学反応などが集中することによるバッテリーの劣化や破損、発火を防いでいる。

さらに、多くのエネルギーを貯蔵できる長楕円円筒形という独自の形状をしたセルを採用

このセルは容積効率が高い上に、電池内部のフレームとの接触面積を大きく取ることができるため内部の温度均一性に優れているという。

また、宇宙船の搭乗員の安全を守るための有人安全要求を満足する設計により、万が一搭載部品の故障に対応するための保護機能も保有しているのだ。

部品のモジュール化で幅広い需要に対応

各部品が独立したモジュールとして組み立て可能な構造を採用。

複数のリチウムイオン電池セルのラインアップから使用するセルの種類・数を最適化し、衛星が必要とする電力・容量に応じてバッテリーの構成を変更できる。

衛星搭載用バッテリーに要求される大電力、大容量化の需要にも対応可能なのだ。

長期間の衛星運用を可能とする技術

異常があった際に特定の部分を避けて電流を別のルートに流すためのスイッチを独自で開発。

セルが故障して電流の流れが阻害された場合でも、スイッチが自動で作動してバッテリーの充放電経路を確保するため、バッテリー機能を維持することができる。

実際に、同社の宇宙用リチウムイオン電池は2005年以降、海外衛星向けに300台以上の納入実績があり、故障等の報告は一件もないという。

これらの知見や経験を蓄積しているため、高い信頼性を実現しているのだ。

受注した月周回拠点用LIBの概要

同社によると、今回受注した宇宙用リチウムイオン電池の概要は以下の通り。

  • 外形寸法(W×D×H):623×245×359㎜
  • 重量:61.4㎏
  • 主な構成:190Ahリチウムイオンバッテリーセル、バイパススイッチ
  • 設計寿命:15年以上
月周回有人拠点「ゲートウェイ」向けリチウムイオンバッテリー
月周回有人拠点「ゲートウェイ」向けリチウムイオンバッテリー ©三菱電機株式会社

さいごに

いかがでしたか。

三菱電機は準天頂衛星システム「みちびき」や地球観測衛星「だいち」なども含め、世界中で非常に多くの主要な衛星開発・製造に携わってきており、その実績・信頼が今回の受注に繋がったのだろう。

現在は三菱電機製LIBの他にも、小型月着陸船「SLIM」に搭載された古川電池の小型軽量なLIBや、日立造船が開発する発火のリスクがない全固体LIB、JAXAと名古屋大学が開発したLIBの約5倍の性能をもつ宇宙用円筒電池など、様々な宇宙用電池が開発されている。

各社の今後の動向に注目だ。

月周回有人拠点「ゲートウェイ」(右)構想図(左はゲートウェイ補給機)
月周回有人拠点「ゲートウェイ」(右)構想図(左はゲートウェイ補給機) ©JAXA(引用元

参考

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