将来宇宙輸送システム、日本初のエンジン燃焼試験に3カ月で成功。その理由とは?
©将来宇宙輸送システムの画像を使用

2023年12月25日、将来宇宙輸送システム株式会社は、エンジンシステムにおいて3種類の燃料を用いる「トリプロペラント方式」の燃焼試験に日本で初めて成功したと発表した。

同社は独自の研究・開発プラットフォームを開発しており、燃焼試験の企画から約3カ月という短期間で準備を進め、予定通りの試験結果を得ることができたという。

本記事では、将来宇宙輸送システムが開発するエンジンシステムはどのようなものであるのか、そして同社が燃焼試験に短期間で成功した要因についてご紹介します。

将来宇宙輸送システム株式会社について

将来宇宙輸送システムは、地球と宇宙の往復を可能とする輸送システムの実現を目指す企業である。

最終的なゴールは、全ての部品を再使用可能な、1つのエンジンシステムのみを持つ宇宙機を用いた高頻度な宇宙輸送サービスを2040年代に行うことだ。

現在、ほとんどのロケットは複数のエンジンを持ち、宇宙に到達するためには使用済みのエンジンを切り離して機体の重量を軽くする。

多くの場合、これらの切り離されたエンジンは海に廃棄され、宇宙に到達した部分は地球に戻らない。

将来宇宙輸送システムが目指すのはこのような従来のロケットではなく、1つのエンジンで宇宙へ行き地球に戻る、いわば宇宙版のタクシーのようなロケットだ。

同社はこの目標に向けて、まずは今後5年程度で、機体の一部を再使用可能な宇宙輸送機の開発を目指している。

【※将来宇宙輸送システムの事業について詳しくはこちら

日本で初めて燃焼試験に成功したエンジンシステムとは?

“宇宙版のタクシー”を実現するためには、通常のロケットのように使用済みのエンジンを切り離すことをしない代わりに、機体全体を軽量化する必要がある。

その手段の1つとして同社が挑戦しているのが、エンジンシステムに3種類の燃料を使用する「トリプロペラント方式」だ。

同社が使用するのは水素・メタン・酸素。燃料である水素・メタンが酸化剤である酸素と反応することでエネルギーが生み出される。

この例のように複数の種類の燃料を使用する場合、一般的なエンジンが複数あるロケットであればそれぞれのエンジンに異なる燃料を積むことができるが、エンジンシステムが1つしかないロケットの場合にはトリプロペラント方式を採用するのが一般的な解決策となるのだ。

トリプロペラント方式で軽量化が可能な理由

では、なぜトリプロペラント方式で機体の軽量化が可能なのか。

同社は、密度が小さく比推力の高い水素燃料の使用を大気圏外に集中させ、大気圏内の推力を水素燃料に加えてメタン燃料も同時に使用することで、液体水素タンクをサイズダウンし、機体の軽量化を目指すとしている。

大気圏外の移動では移動距離が非常に長いため、燃料の比推力の高さ(1㎏の燃料が消費されるまでの時間の長さ)が特に重要だ。

一方、地球の大気圏内では重力や空気抵抗に対抗するため、力(推力)の大きさもしくは機体全体の軽さも重要となる。

液体水素は酸化剤に液体酸素を使用することで比推力が非常に高くなり、これまでスペースシャトルを始めとする様々なロケットで使用されてきた。

しかし、水素燃料は密度が小さく、燃料1㎏あたりの体積が大きい。そのため、水素燃料を大量に積載すると燃料タンクのサイズが大きくなり、機体が重くなってしまうという側面もある。

一方、メタンは近年注目が高まっている燃料であり、SpaceXやBlue Origin、インターステラテクノロジズなどがメタンロケットの開発を進めるほか、2023年7月に中国の民間企業であるLand Spaceが世界初のメタンロケットの打ち上げを行った。

メタン燃料は比推力は水素に劣るが密度が高く、同じ1㎏の燃料あたりの体積は水素のおよそ6分の1に抑えられる。

従って、水素燃料の使用を大気圏外に集中させ、大気圏内においてはメタン燃料でカバーすることで、液体水素タンクのサイズを小さくすることが可能。

これにより、機体の重量を軽くすることで、1つのエンジンシステムのみを使用するロケットの実現を目指しているのだ。

燃焼試験の詳細

実際に、燃焼試験では以下のような試験結果が得られたという。以下の説明にあるモード1は大気圏内、モード2は大気圏外でのエンジン状態だと考えられる。

  • 水素・メタン・酸素による「トリプロペラント方式」での燃焼(モード1)から、水素・酸素による(モード2)へ燃焼モードを切り替え、連続燃焼させることに成功(燃焼時間はモード1、2ともに各5秒。計10秒)
  • 独自開発した制御センサーを用いて、試験データを無線でクラウド上にアップロードすることに成功
「トリプロペラント方式」の燃焼試験の様子 ©将来宇宙輸送システム株式会社

3カ月で燃焼試験に成功した理由とは

しかし、なぜ同社は日本初という事例にもかかわらずたった3カ月で燃焼試験に成功できたのか。

その理由の1つは、今回の燃焼試験で有効性が確認されたという同社独自の研究・開発プラットフォーム「P4SD」にあるだろう。

P4SDは、アジャイル型の開発を実現させることで、開発効率を飛躍的に向上させるツールである。

研究や設計から試験結果まで、開発に関わる全ての過程をデータ化し、クラウド上に集約。その後の分析や改善など、開発に関わる全てを一元管理できる。

P4SDの仕様 ©将来宇宙輸送システム株式会社

従来は、各段階が下の段階に流れ落ちるように進むウォーターフォール型の開発が一般的で、工程ごとの縦割り化などの理由から開発期間が長期化する等のデメリットがあった。

P4SDにより、開発に関わるメンバー誰もが、いつでも、どこでも、同じ情報を得ることが可能になり、柔軟性と効率性のあるアジャイル型の開発が実現できるとのことである。

ウォーターフォール型の開発とアジャイル型の開発の比較 ©将来宇宙輸送システム株式会社

今回の燃焼試験の成功により、このP4SDの有効性が確認された。

また、合わせて一部の試験機体の設計において3Dプリンタを用いることで、製造期間と費用の圧縮を実現。

これらの理由から、検討開始から3カ月という短期間での試験実施に成功できたのだ。

さいごに

いかがでしたか。

今回のプレスリリースについて、将来宇宙輸送システム代表取締役社長兼CEOの畑田康二郎氏は以下のように述べている。

現時点で、同社が開発しているような1つのエンジンシステムのみを用いた単段式の再使用ロケットの開発成功事例はない。

世界との開発競争に勝つためには、アジャイル型の開発で実現されるようなスピードが求められる。同社の活躍に今後も期待したい。

燃焼試験の企画から約3ヶ月という短期間で、順調に準備を進め、当初予定通りの試験成果を得ることができました。豊富な経験を有するベテラン人材から的確な助言を得つつ、宇宙業界未経験者も含む中堅・若手エンジニアが思い切ったチャレンジに挑んでくれたことが、今回の成功に結びついたものと考えます。

当社は創業から約1年半という間もないスタートアップでありながら、緻密かつスピーディーに開発を進められる優秀な人材が結集していることを大変頼もしく感じています。今回の開発を通じて試験運用ノウハウを学んだだけでなく、アジャイルに研究開発を進めるプラットフォーム「P4SD」も始動させることができました。今後、多くのパートナー企業の協力を得ながら、これまでにない加速度で、将来あるべき宇宙輸送システム実現に向けて邁進いたします。

我こそは一緒に働きたい!という個人の方も、事業パートナーとして連携したい!という法人の方も、一緒に夢のような未来を現実のものとする本プロジェクトに挑戦しましょう。人生を賭けるべき仕事が目の前にあります。皆様からのご連絡をお待ちしております。

将来宇宙輸送システム株式会社 代表取締役社長兼CEO 畑田康二郎氏

参考

日本初となる「トリプロペラント方式」の燃焼試験に成功。あわせて、研究・開発プラットフォーム「P4SD」の有効性を確認

将来宇宙輸送システム HP

宇宙旅行実現の鍵は、再使用!? ISCが挑む完全再使用ロケット

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