ソニーはなぜ世界初の衛星プロジェクトに、水エンジンを搭載したのか
©Space Connect株式会社

ソニー株式会社が手掛けるプロジェクト「STAR SPHERE」で開発された超小型衛星「EYE」が2022年12月に打ち上げられた。

STAR SPHEREは世界で初めて「宇宙からの撮影体験」を提供する予定の、話題のプロジェクトだ。

EYEは10×20×30㎝という超小型の衛星である。

現在、このような比較的安価に開発・運用できる超小型衛星が注目を集めており、それに伴い小型化が可能な、新たな衛星エンジンの開発が求められている。

様々なエンジンが開発される中で、EYEに搭載されたのが、Pale Blueが開発する水を推進剤に使用したエンジンである。

水エンジンは世界でも今勢いのあるエンジンで、1月27日には、NEDOが実施するスタートアップの研究開発を支援するプログラムに同エンジンが採択されたことも発表された。

Pale BlueとしてはEYEが初めての水蒸気式推進機の宇宙実証となったのだが、今回STAR SPHEREプロジェクトに同エンジンが登用された理由について、本記事では言及する。

ソニーが手掛ける世界初のプロジェクト「STAR SPHERE」とは

最初に、水エンジンが搭載された衛星のプロジェクト、「STAR SPHERE」について軽く紹介しよう。

STAR SPHEREは、“科学”ではなく“エンタメ”を重点においた、これまでにない、新たな衛星ビジネスである。

映画や音楽、ゲーム、カメラなど、テクノロジーとエンターテインメントに関する事業を展開するソニーグループ株式会社が、JAXA・東京大学とタッグを組み挑戦。

宇宙を通してものごとを捉え、考える「宇宙の視点」により、新たな価値観感動体験、さらには地球・環境について学ぶ機会を提供する。

メインプロジェクトの「宇宙撮影体験サービス」は実は世界初。ユーザーが自分で人工衛星を操作し、宇宙を撮影できるのだ。

その人工衛星「EYE」に、Pale Blueの水エンジンが搭載されている。

Pale Blueの水エンジンが採用された理由とは

水エンジンが採用された理由は、同エンジンが世界で最も「環境に優しい」エンジンであるからである。

前章でも述べたが、STAR SPHEREは、地球・環境について学ぶ機会の創出に取り組むプロジェクトだ。

環境に優しいエンジンの存在は人々が環境問題について考えるきっかけの1つとなり、同プロジェクトにとって水エンジンの使用はとても意義のあることと言えるだろう。

宇宙開発において、これまでエンジンの推進剤には人体や環境に毒性のあるものが多く使用されてきた。

例えば、ヒドラジンは環境汚染物質とされており、大量に放出されると土壌や水質に悪影響を及ぼす上、大気中で崩壊すると空気中の汚染物質となる。

そのため、現在は様々な環境・人体への安全性に重点を置いたエンジンが開発されているが、その中でも水エンジンは環境に完全に無害なエンジンである。

水エンジンを開発する会社は、インドのBellatrix、アメリカのBradford Space、Tethers Unlimitedなどいくつか存在するが、Pale Blueはそのような同業メーカーの中でも今、勢いのある企業だ。

同社は、推力(パフォーマンス)が劣るという水エンジンの弱点を克服し、小型衛星を運用するのに十分なほどの推力を達成。

さらに研究開発により水エンジン業界でトップの推力を実現した。その推力の大きさは、競合他社の約10倍にも及ぶ。

STAR SPHEREプロジェクトにおいて、Pale Blueの水エンジンを使用することはサービスの利用者に環境問題に対する想いを育むきっかけを与え、

また水エンジンの有用性が示されることで、同エンジン使用の拡大に貢献することができるだろう。

「環境に優しい」だけではない水エンジン

また水エンジンは環境に対して無害なだけでない。水は、入手性・貯蔵性・安全性のすべてを兼ね備えた推進剤なのだ。

従来から使用されてきたヒドラジンなどの推進剤の毒性については上記でも指摘したが、他にも爆発性が高い、希少性が高いため高額、小型化しにくいなど、様々な課題がある。

対して、水エンジンは安全で取り扱いコストが低く地球上に豊富に存在するため安定供給が可能となり価格も低い。

さらに、推進剤の高圧での貯蔵が不要なため超小型化が可能である。

近年開発が進む、ヨウ素硝酸ヒドロキシルアンモニウムなど他の物質を利用した推進剤と比較しても、水エンジンは総合的に優れている。

ヨウ素は貯蔵水密度に優れており超小型衛星に適しているが、人体に有毒で、かつ他の衛星に使用される他の物質と反応しやすいため安全性が低い。

硝酸ヒドロキシルアンモニウムは、毒性がヒドラジンの約1/10000で、凝固点が低いため貯蔵性に優れる上、比推力も高い推進剤であるが、入手性・安全性の点で水エンジンには劣る。

さらに、水は地球以外の天体にも存在する可能性が示唆されており、宇宙探査を行う上で現地調達可能な推進剤としても期待が高まっている。

さいごに

宇宙開発技術は、地球の環境問題の解決に大きく貢献し得る。

本記事で述べたSTAR SPHEREプロジェクトでは、「人」へのアプローチによって環境問題に取り組む。

他にも様々な企業が、大気中の二酸化炭素量を可視化するなどと、衛星データ解析技術を用いたアプローチによって環境課題を解決する手助けをしている。

一方で、ロケットや衛星のエンジンによる大気汚染など、宇宙開発には環境汚染に対する懸念もある。

「SDGs」が意識されている昨今では、宇宙開発・宇宙ビジネスにおいても環境問題への意識も今後ますます高まっていくだろう。

従って、水エンジンの存在感もより一層高まっていくと考えられる。

今後、Pale Blueは大電力化に対する研究開発を実施し、より大きな50-100kg級衛星に向けた推進機の提供を拡大していく予定だ。

参考:

Pale Blueの「水エンジン」が、ソニーの宇宙を自由に撮影できる人工衛星に搭載!

補足:宇宙体験サービスの紹介

本記事に登場した、STAR SPHEREのメイン事業、「宇宙撮影体験サービス」がとても魅力的なため、ここで2つのプランの詳細について紹介する。

宇宙撮影体験ツアー

宇宙撮影体験ツアーでは、著名人などの特別ゲストソニーがおすすめの衛星軌道をツアー形式でご案内。

その衛星軌道の魅力や見どころなどの説明を含め、コンテンツ毎のシナリオに沿って、宇宙旅行に参加しているような体験ができる。

撮影条件となる衛星軌道やカメラワークはあらかじめ決められており、ユーザーは10分間の中から好きなタイミングでシャッターを押すことにより静止画を撮影。

撮影した写真は、宇宙で1枚限りの、あなただけの宇宙写真に。著作権は自分になるため、飾るだけでなく、商品を作って販売したり、Tシャツにプリントしたりすることも可能。

価格は、1万~2万円程度となる見込みだ。

プレミアム宇宙撮影体験

プレミアム宇宙撮影体験は、「EYE」が地球を一周する約95分間の中からユーザーが選んだ10分間、好きなカメラ設定で静止画や動画を撮影できるサービスだ。

「どんな軌道で」「どんな被写体を」「どのようなカメラワークで」「どのように表現するか」、すべてユーザーが自由に決定する。

写真の場合はRAW30枚もしくはJPEG50枚、動画の場合は30秒、データを地上にダウンロードすることが可能。

価格に関しては50万円と予定されている。

サービスの開始はいつ?

サービスの開始は、2023年春頃に予定されている。

現在は、連載企画「宇宙の視点」や現代芸術家の対談動画の他、メタバース空間などが公式サイトにて公開。

登録すると様々な特典をゲットできる「クルー」も募集中だ。

ぜひ覗いてみてはいかがだろう。

[STAR SPHERE公式サイトはこちら]

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