2023年8月30日、ユーグレナ、IDDK、高砂電機工業は、宇宙用の小型細胞培養装置を共同開発したと発表した。
この装置は、2025年にはElevationSpaceの人工衛星に搭載され、宇宙でのミドリムシ培養実験に使用される計画である。
今回の装置の最大の特徴は、重さと、各社の技術力の高さ。200g以下という驚異的な軽さで、細胞培養のための高度な技術を盛り込んでいる。
では、一体どのようにしてこの革命的な装置を実現したのだろうか。本記事では、超小型細胞培養装置の開発の秘密に迫る。
目次
小型実験装置開発の経緯
まずは、宇宙用小型細胞培養装置の開発の経緯から説明。
そのきっかけとなったのは2022年。
宇宙実験を可能とする小型衛星サービス「ELS-R」の開発を手掛けるElevationSpaceと、食用として利用可能なミドリムシの屋外での大量培養を世界で初めて成功させた株式会社ユーグレナが、ミドリムシの宇宙培養実験を目指し共創を開始。
実は、ミドリムシは微細藻類というワカメや昆布と同じ藻の一種。有人宇宙開発において食料源や、酸素供給源(光合成をおこなうため)としての可能性が期待されているのだ。
ただし、ELS-Rを利用して、宇宙での培養実験を行うためには、実験装置を含め、総重量200g以下という厳しい制約をクリアする必要があった。
そこで、この要件をクリアするために、IDDKと高砂電気工業を加えた最強の技術チームが誕生。ミドリムシの宇宙培養を実現すべく、超小型装置の共同開発プロジェクトが始動したのだ。
小型化成功の秘密とは?
ユーグレナとElevationSpaceが共創の覚書を結んでからわずか1年後、寸法103×57×27mm、重量175gという、超小型の細胞培養装置が実現。なんと、リンゴより軽い。
では、なぜこのように実験装置を小型化できたのだろうか。そこには、4社の優れた技術がある。
顕微観察の最先端技術:IDDK
IDDKは、最新の顕微観察技術で注目されている企業。
従来の顕微鏡が光学系技術を使用して物体を拡大するのに対し、IDDKは、光感受素子の高密度配列を利用した半導体イメージングを行う。
なんと、指先サイズのチップの上に乗せるだけで微細なものを観察できる。
※IDDKについて詳しくはこちら:【宇宙×バイオの新領域】IDDKの顕微観察技術がビジネスの覇権を握る!? / 顕微観察がなぜこれから熱いのか / MIDは日本で生まれたイノベーション
小型ポンプ等のパイオニア:高砂電気工業
細胞を培養するには、必要な栄養成分を含む培地を、培養する細胞に供給する必要がある。
その制御を行うために必要なのが超小型バルブ。
高砂電気工業はこの分野の専門家として、60年以上専門技術を積み重ねてきた企業。
さらに、宇宙用製品の開発の知見も持っており、JAXAやNASAからの依頼を受けるほど信頼性が高い。
これらの経験を活かし、培地のタンク・バルブ部分の小型軽量化を実現した。
ミドリムシ培養のユーグレナ×小型人工衛星のElevationSpace
ElevationSpaceは東北大学発の宇宙スタートアップ。
東北大学の研究室で開発してきた15機以上の小型人工衛星の知見・技術を生かし、無重力環境を生かした実験や実証などを無人の小型衛星で行うサービス「ELS-R」を開発。
今回の細胞培養装置は、ElevationSpaceから宇宙用機器開発に係る知見の提供を行い、ミドリムシ培養の知見を持つユーグレナが設計と制作を行った。
宇宙での細胞実験費用が10分の1に!?
これまで、宇宙で細胞実験を行うためには国際宇宙ステーションを利用する他なく、機会が少ない上に費用は数千万円規模。
しかし、今回の新技術によって、小型衛星内で細胞培養実験を行うことができるようになると、費用は数百万円へと大幅ダウンする見込みである。
また、医療分野など多岐にわたる研究分野での活用も期待されるなど、宇宙だけでなく、地上での応用も楽しみだ。
さいごに
いかがでしたか。
宇宙ステーションや月面など、人間が宇宙で生活するためには、バイオ関連の研究は欠かせないものである。
この革命的な超小型細胞培養モジュールの開発により、宇宙と地上の間の技術の壁が大きく縮まったのではないだろうか。
今後、多くの研究者や企業がこの実験装置を活用することで、新たな発見や革命的な技術が生まれることを期待したい。
参考
IDDK、高砂電気工業、ユーグレナが共同で宇宙空間向けの超小型細胞培養モジュールを開発。ElevationSpaceの人工衛星に搭載し、微細藻類の宇宙培養実現を目指す