2024年11月27日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、種子島宇宙センターにおいてイプシロンSロケット第2段モータの地上燃焼試験中に、燃焼異常により第2段モータが爆発する事象が発生したと報告した。
2022年10月のイプシロンロケット6号機打ち上げ失敗、2023年7月のイプシロンSロケット第2段モータの地上燃焼試験における燃焼異常と、イプシロン/イプシロンSロケット開発に関して不調が続いているが、そもそもこれらのロケットはどれほど重要なのだろうか。
本記事では、イプシロンSロケットが開発された目的や、H3ロケットとの違いについて簡単に解説する。
イプシロンS 開発の目的
イプシロン/イプシロンSロケットは燃料と酸化剤を混ぜて固めた固体燃料を使用する、固体ロケットである。
日本の前世代の固体ロケット「M-V」は、固体ロケットとして世界で唯一惑星探査に活用できるなど、性能面で世界最高水準の技術を保持。しかし、機体と打上げの費用が高額で、運用性・整備性・耐候性の面で最適化されていないという課題を抱えていた。
そこで、日本は自律的な宇宙開発能力を維持しつつ、機動的かつ効率的な小型衛星の打ち上げ手段を確保するとともに、日本が培ってきた固体ロケットシステムという戦略的技術を継承・発展させ、世界最高の運用性を持つ小型固体ロケットの開発を目指して、イプシロンロケットの開発がスタートした。
開発は2段階で進められており、第1段階では運用改善に重点を置き、M-VロケットとH-IIAロケットで培った技術を最大限に活用することで、強化型イプシロンロケットとして以下を実現した。
- 発射管制、点検などをコンパクト化し、ロケットの即応性を向上
- 世界トップレベルの衛星搭載環境(音響、振動、衝撃)
- 打ち上げ需要の高い太陽同期軌道への投入および高い軌道投入精度
- 複数衛星の同時打ち上げ
そして、第2段階として、打ち上げコスト低減、高い信頼性との両立や、衛星の運用性向上等による国際競争力の強化を目指して開発されているのがイプシロンSロケットである。
イプシロンSロケットは、H3ロケットと技術・部品・機器等を共通化し、そのシナジー効果により開発の効率化、打上げ価格低減等を目指している。
イプシロンSとH3の違い
イプシロンSロケットとH3ロケットの違いは下図の通りだ。
※太陽同期軌道:衛星と太陽の位置関係が常に一定になるように設計された軌道
※静止トランスファー軌道:静止軌道に衛星が移行するための軌道
液体ロケットであるH3ロケットは大型衛星から小型衛星まで対応可能であるのに対し、固体ロケットのイプシロンSは小型衛星の打ち上げに特化したロケットとして開発された。
近年、民間宇宙ビジネスの拡大や衛星コンステレーションの需要増加により、世界中で小型衛星の打ち上げニーズが急速に高まっている中で、イプシロンSロケットは小型衛星の低コストでの打ち上げを実現するだけでなく、打ち上げ頻度も大幅に向上させる。
具体的には、H3ロケットが年間6機程度、イプシロンSが3か月に2機以上の打ち上げ能力を持つことで、月1回以上の打ち上げ機会が確保できる計算となる。
現在、日本の商業衛星の大半は海外のロケットで打ち上げられており、衛星開発事業者は海外への輸送コストを負担。さらに打ち上げ費用として日本からの資本流出を招いている。この課題を解決するうえで、イプシロンSロケットは日本にとって必要不可欠な存在なのだ。
さいごに
いかがでしたか。
日本がこれまで培ってきた固体ロケット技術を継承・発展させ、世界最高の運用性を実現することは日本にとって戦略的に重要だ。また、イプシロンSは打ち上げ需要が増している小型衛星や超小型衛星の打ち上げ手段としても重要な役割を担う。
イプシロンSは、日本の宇宙産業の国際競争力を高め、民間衛星事業者のニーズに応えながら、宇宙開発の未来を切り開く重要な存在だ。
今回の燃焼試験はイプシロンSロケット実証機かつイプシロンロケット7号機の打ち上げを行うための試験である。搭載予定であった衛星を含め、多くの衛星の事業者がイプシロンSロケットの成功を待ち望んでいるだろう。
イプシロンS試験中に発生した異常の原因が正確に突き止められ、早急に安定した打ち上げが実現することを願う。