国家レベルの機密な情報の盗聴も防ぐ!?スカパーJSATらが開発した高セキュリティな衛星通信システムとは

2024年4月18日、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、東京大学、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所、次世代宇宙システム技術研究組合、およびスカパーJSAT株式会社が、低軌道上の国際宇宙ステーション(ISS)から地上のアンテナへの光通信において、非常に高いセキュリティを持つ通信システムを開発したことを発表した。

本記事では、同通信システムがどのような技術なのかについてご紹介します。

通信におけるセキュリティ技術の課題

通信では、外部の第三者による情報の読み取りを防ぐ方法として、データを読めない方式(暗号文)に変換する「暗号化」がよく用いられる。

しかし近年、高い計算能力を持つ量子コンピューターの研究が急速に進展しており、複雑な暗号も解読できる可能性がある。

これが実現すれば、従来の暗号技術で守られていたデータが全て解読されてしまう事態が懸念されている。

したがって、個人・国家レベルの重要な機密情報を将来にわたって安全にやり取りするために、いかなる計算機によっても解読が不可能な暗号技術の導入が喫緊の課題となっているのだ。

高い安全性を持つ量子暗号通信

上記の課題に応えるべく、NICTでは、高セキュリティの通信を可能とする技術として「量子鍵配送」と「量子暗号通信」の開発を進めてきた。

量子鍵配送は、元のデータを暗号化したり、暗号文を解読して元のデータに復元したりするための情報である「鍵」を送信側と受信側で非常に安全に共有するための手段の1つ。

暗号鍵を分割して、その情報を量子の一種である「光子(光の粒)」に載せて送る技術だ。

光子が何かに触れると必ず状態が変化するという量子力学の性質を利用することで、鍵の任意の部分が盗聴されるとその事実をすぐに検知。影響を受けた部分の鍵は使用しないようにすることができる。

また、量子暗号通信は量子鍵配送を使用して暗号化された情報を安全に送信する通信手法である。

暗号化されたデータは、適切な鍵を持つ受信者だけが元のデータに戻すことが可能だ。

量子暗号通信は発展途上の段階にあるが、現在の暗号方式よりも圧倒的に高い安全性を提供するため、軍事通信や政府機関、金融機関など、重要な情報がやり取りされる分野での需要が高まっている通信システムである。

量子暗号通信の現在

現在、NICTでは、地上の通信を担う光ファイバー網における量子暗号通信のさらなる高速化・長距離化に取り組んでいる。

しかし、量子鍵配送をグローバル規模に拡大するには数千㎞にわたる量子暗号通信を行う必要があり、地上光ファイバー網では信号の大きさや正確性、安全性を保ちながら送受信するための技術の発展を待たなければいけない状況なのだ。

一方、地上での中継が不要な、衛星を用いた量子鍵配送の可能性も模索されており、2017年に中国での衛星量子鍵配送の実験成功を機に、衛星通信における量子暗号技術の開発が世界各国で進められた。

しかし、低軌道衛星は地球の上空を速いスピードで周回しており、1台のアンテナとの通信時間は1回の上空通過あたり十数分。

したがって1度に共有できる鍵の量が限られていたり、また大型の地上アンテナが必要だったりと、その実用には課題が残っていたのだ。

高効率な衛星量子暗号システムを開発

今回、NICT、スカパーJSAT、次世代宇宙システム技術研究組合ら5機関の研究開発チームは、短時間で大容量の暗号鍵情報を共有できる衛星量子暗号通信の研究開発を進め、その宇宙実証を実施した。

この研究開発では、まず低軌道の衛星に搭載可能な高セキュリティの光通信装置「SeCRETS(シークレッツ)」を開発。

ここで用いるレーザー光は信号の広がりが狭く、ほぼ直進するため、受信アンテナ周辺の限られた領域のセキュリティを確保することで、盗聴者による信号の受信を防止することができる。

それをISSの日本実験棟きぼう船外実験プラットフォームに搭載し、その後、SeCRETSから鍵のデータを載せたレーザー光を地上に向けて発射した。

実験の結果、NICT本部に設置した移動可能な地上アンテナで信号光を受信することを達成。

そして、送信側と受信側で共有した鍵データの誤りの訂正や盗聴者に漏れた情報を除去する鍵蒸留処理を行うことで、衛星が1回地上アンテナの上空を通過する間に、実用レベルに必要となる100万ビット以上の安全な暗号鍵の生成に成功

さらに、宇宙にある写真データを生成した暗号鍵を用いて暗号化、ISSからの電波による通信を通じて地上に送信、地上で暗号鍵を用いて写真データを取得という、衛星量子暗号通信に必要な一連のプロセスにも成功した。

今回開発されたSeCRETSはそのほとんどの部分を民生部品で構成しているが、耐真空環境、耐放射線被ばくに関する試験を行い、過酷な宇宙環境下でも問題なく動作することが確認されている。

また、地上アンテナはトラックに搭載することで移動を可能とし、さらに信号の方向を検知してアンテナの向きを極めて微細に調整可能な追尾システムを導入しているという。

これらの開発により、衛星に搭載する暗号装置の低コスト化および開発期間短縮の可能性を高め、様々な状況で使用できる移動可能な地上アンテナをを用いた高速光通信を実証。

衛星量子暗号通信の社会実装に向けて大きな一歩を踏み出したのだ。

さいごに

いかがでしたか。

NICTらは今後、ここで得られた結果の検証を進めることで、暗号装置に組み込む機器等の開発を更に進め、衛星搭載用の量子鍵配送装置の製作を加速させるとのこと。

また、量子鍵配送実証に適する衛星システムの開発を視野に入れた研究・開発を加速させ、実用化への足掛かりに。

さらに、ISSと地上局間での通信実験を更に進め、日本独自の衛星量子暗号を実現するための基本データの収集を実施する予定だという。

通信におけるセキュリティは不可欠であり、特に、国家の機密情報等に関しては、国の安全保障と主権を守るために極めて重要である。

そのような中で、実現すれば非常に安全性が高いと言われているのが今回の量子暗号通信だ。

日本が世界に先駆けてこの技術を獲得することは、情報の漏洩防止に繋がるだけでなく、経済的利益や政治的立ち位置、など様々な面で重要となる。

日本の研究開発チームの今後の活躍に期待したい。

参考

国際宇宙ステーションと地上間での秘密鍵共有と高秘匿通信に成功

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