2024年8月14日、株式会社インフォステラは、イギリスのArchangel Lightworks社と共同で取り組む光通信技術の研究開発プロジェクトが、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の公募「ディープテック・スタートアップ支援基金/国際共同研究開発」に採択されたことを発表した。
この共同研究開発では、次世代の衛星通信を支える商用光衛星通信に向けた、地上側のデータを受け取る設備・システムに関するサービスを開発しており、世界初の商用化を目指している。
本記事では、このプロジェクトの詳細についてご紹介する。
目次
衛星通信における光通信への期待
衛星通信の変化と現在の課題
衛星通信は、地球上のどこにでも情報を届けることができる重要な技術だ。
これにより、インターネットが届かない地域にも情報を届けたり、地球観測データをリアルタイムで取得することが可能となっている。
しかし、近年は衛星の多機能化や衛星観測画像の高精度化を背景に、衛星が生成・収集するデータ量が増加しており、衛星通信の高速化のニーズが高まっている。
一方で、現在の衛星通信は主に電波を利用して行われているが、衛星打ち上げ機数の急激な増加を背景に利用できる電波の周波数帯域は不足しつつある。
このような状況から、高速で、かつ周波数問題を解決するための新たな衛星通信技術が求められているのだ。そこで、将来の衛星通信方式として期待が高まっているのが光衛星通信である。
光通信技術への期待と必要な技術
光通信は、レーザー光を利用して情報を伝送する技術で、従来の電波による通信と比較して、データを高速かつ大容量に送信できる能力を有している。
それに加え、光通信は信号の妨害や傍受が困難であるなどセキュリティ面でも優れている。
現在では、光通信機器を搭載しての実証実験や光通信衛星サービスの開発・運用を行う企業もでてきているが、衛星に搭載する光通信に必要な技術と、地上側で光通信によりデータを受信するための地上局(アンテナ等)に必要な技術は異なるものであり、1社もしくは1組織で両方を実施しているところはほとんどないのが現状だ。
光衛星通信の地上局は地上から400~600㎞程離れている上空を約7㎞/秒もの高速で移動する衛星を捕捉・追尾し、非常に細いビームを正確に受信する必要がある。
また、雲や雨などの天候条件によって信号の品質が低下するリスクがあるため、その影響を最小限に抑えるための対策も必要だ。
これらの技術開発は決して容易ではない。
光通信に向けた地上局サービスの概要
インフォステラとArchangel Lightworksは、光衛星通信に向けた、地上側のデータを受け取る地上局設備・システムに関するサービスの実現を目指して共同で研究開発を実施する。
このプロジェクトでは、インフォステラが開発したクラウドベースの地上局プラットフォーム「StellarStation」に、Archangel Lightworksが開発する光通信地上局「TERRA-M」を搭載。
光衛星通信を活用する事業者はStellaStationに登録することで、TERRA-Mを使用して衛星データを地上に下ろすことができるようになる。
StellarStationとは
StellaStationは、衛星運用者が一度のセットアップで世界中の地上局にアクセスできるようにするクラウドベースのシステムだ。
世界中の登録されている地上局を必要なときに必要な場所で利用できるため、地上局を複数所持または契約する場合よりもコストを削減しつつ、通信を確保することができる。
また、地上局オーナーにとっても、非稼働時間を他の衛星運用者に貸し出すことで収益を得る機会を増やすことができる。
StallaStationが開発された背景には、地上局のアンテナが、電波のやり取りが可能な衛星の範囲に限界があることにある。
特に近年打ち上げ数が多い地球低軌道を周回する小型衛星が1つの地上局と通信できる時間は1回あたりわずか10~20分程しかなく、通信可能なエリアが限られる上、受信可能なデータの総量も少なくなってしまうのだ。
StellaStationはこのような通信の課題を解決できるサービスなのである。
【※参考:アンテナのAirbnbインフォステラ、初めて地上局サイトを開設!?】
TERRA-Mとは
一方、Archangel Lightworksが開発するTERRA-Mは、現場での調整を必要としない、自律的に衛星を捕捉・追跡する小型の光衛星通信用の地上局(OGS: Optical Ground Station)である。
TERRA-Mは、衛星からの大量データを、光通信技術を利用して迅速かつ安全に、低コストで地上へ受信できるように設計。
必要な場所に柔軟に配置可能で、回復力・耐久性のある接続を提供する。
世界初の光通信地上局サービスに必要な技術
現在、StellaStationは電波による衛星通信の地上局専用となっているが、光通信地上局「TERRA-M」を搭載することで、世界初となる光通信地上局サービスの開発を目指している。
衛星事業者に提供可能なサービスを実現するには、光通信地上局の開発を進めるとともに、衛星と地上局との通信を効率的に管理・計画できることが必要だ。
例えば、複数の衛星が同じ地上局を使いたい場合にそれぞれの衛星が干渉することなく順番に地上局と通信できるように時間の割り当てを行う。
また、悪天候などにより光通信が成立しなくなった場合に待機システムを切り替え、通信が成立しないリスクを回避する(フェイルオーバー管理)などの高度な運用機能を実装することも必要となる。
インフォステラとArchangel Lightworks社は共同でこの研究開発に取り組み、世界初の光通信地上局サービスの商用化を目指す予定だ。
さいごに
いかがでしたか。
株式会社インフォステラの代表取締役である倉原直美氏は、「Archangel Lightworksと光通信地上局サービスを共同開発することにより、衛星通信の高速化へのニーズや周波数資源の枯渇という課題の解決に対応し、衛星運用者様のミッションの成功に貢献したい」と述べている。
今回のプロジェクトが今後どのように進展していくのか注目だ。