
2026年4月28日、株式会社獺祭(以下、獺祭)と三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)は、月面での清酒製造を目指す「獺祭MOONプロジェクト」の第一弾ミッションを完了したと発表した。
今回のミッションでは、宇宙空間で人類史上初となる清酒のアルコール発酵過程を確認することに成功した。
本記事では、今回の実証で確認された成果と、月面での発酵技術が宇宙産業にどのような意味を持つのかを解説する。
目次
獺祭MOONプロジェクトとは
「獺祭MOONプロジェクト」は、将来の月面生活における生活の質の向上を目的に、月面での酒蔵建造と獺祭の醸造を目指す取り組みである。
第一弾となる今回のミッションでは、2025年10月に清酒の原材料と、獺祭および三菱重工が共同開発した醸造装置をISSへ打上げ、同年11月から実証を開始。
試験では、ISS「きぼう」日本実験棟にあるJAXAの実験装置内で、月面重力を模擬した環境を用いて約2週間にわたって発酵を進めた。
その後、発酵を終えたもろみはISS内の冷凍庫で保管されたのち、2026年2月に地球へ帰還。同年3月に獺祭の本社蔵で清酒へと仕上げられ、「獺祭MOONプロジェクト」第一弾ミッションは全て完了した。

第一弾ミッションの注目ポイント
重力条件が発酵速度に影響か
今回の実証で注目されるのは、月面重力を模擬した環境下でアルコール発酵が進んだことに加え、その進み方が地上とは異なる可能性が示された点である。
発表によると、ISS「きぼう」船内で得られたもろみを地上で分析した結果、アルコール度数は12%に到達していた。これにより、月面重力を模擬した環境下でも、清酒製造に必要なアルコール発酵が成立し、地上と同様の製造プロセスで清酒を製造できる可能性が実験的に示されたとしている。
一方で、軌道上のデータでは、発酵の進み方が地上に比べて緩やかになることも確認された。つまり、宇宙空間でも発酵そのものは進むものの、重力条件の違いによって発酵速度が変化する可能性がある。

この結果は、将来の月面で清酒や発酵食品を製造するうえで、発酵時間や温度管理、攪拌方法などの設計に影響する可能性がある。詳細なメカニズムについては今後の研究課題となるが、今回の実証は、宇宙環境における発酵制御を考えるうえで重要な手がかりを示したといえる。
オールジャパンの技術で成功
今回のミッションは、日本の技術や運用体制を中心に進められた点も特徴である。
プロジェクトの策定段階では、高砂電気工業株式会社が関わった。また、宇宙実験やISS「きぼう」の利用については、JAXAの「きぼう」有償利用制度のもと、有人宇宙システム株式会社、Space BD株式会社、株式会社DigitalBlastなどが技術・運用面で支援した。
実験に使用された清酒の醸造装置は、三菱重工が開発・製作を担当。装置は適切に動作し、攪拌機能によって試料の発酵を促しながら、温度やアルコール濃度などを各種センサで確認できたとされている。
醸造装置と原材料は、2025年10月26日にH3ロケット7号機と新型宇宙ステーション補給機HTV-X1によって、種子島宇宙センターからISSへ輸送された。その後、軌道上での醸造試験は、油井亀美也宇宙飛行士の担当のもとで開始されている。
さらに、原材料の加工、ミッションロゴのデザイン、帰還品の輸送などにも、複数の日本企業・関係者が関わった。今回の事例は、宇宙環境を活用した民間研究が、構想や装置開発、打上げ、軌道上運用、帰還後の分析まで、多くの日本企業・機関の連携によって成立することを示したものといえる。
売上は日本の宇宙開発に寄付へ
地球へ帰還した宇宙醸造のもろみ約260gは、獺祭の本社蔵で搾られ、116mlの清酒へと仕上げられた。
獺祭は、得られた清酒のうち100mlをチタン製ボトルに詰め、「獺祭MOON-宇宙醸造-」として1億1,000万円(税込)で販売した。売上金は、日本の宇宙開発に寄付される予定である。
また、本ミッションで得られた酒粕は、東北大学東谷研究室の協力のもとで精密な成分解析が行われる。宇宙空間における酵母の遺伝的変化や、地上で製造した発酵食品との差異を検証し、今後の宇宙産業の発展に役立てるとしている。

発酵技術は宇宙産業にどう関係するのか
一見すると、日本酒づくりと宇宙産業は離れた分野に見える。しかし、発酵は食品だけでなく、医薬品やバイオ素材、化学品などの製造にも応用される技術である。
宇宙で人が長期滞在するようになると、必要な物資をすべて地球から運び続けることは難しくなる。月面基地や火星探査を見据える場合、食料や飲料に加え、医療・生活・研究に必要な物質を現地または宇宙空間で生産する技術が重要になる。その中でも発酵は、微生物の働きを利用して物質をつくる技術であり、将来の宇宙生活を支える生産技術の一つになり得る。
また、発酵食品は、保存性や栄養だけでなく、風味や文化とも深く結びついてきた。将来の宇宙生活では、生命を維持するだけでなく、食の楽しみや文化をどう持ち込むかも課題になる。
獺祭MOONプロジェクトは、日本酒づくりという身近なテーマを通じて、宇宙環境で発酵を制御する可能性を示した実証であると同時に、月面での暮らしに文化的な豊かさを持ち込む試みとしても位置づけられる。
さいごに
獺祭MOONプロジェクトの第一弾ミッションは、宇宙で清酒のアルコール発酵過程を確認し、帰還したもろみから清酒を完成させるところまで実施された。
特に重要なのは、月面重力を模擬した環境下でもアルコール発酵が進み、アルコール度数12%に到達した一方で、発酵速度には地上との差が見られた点である。これは、宇宙環境における発酵現象を理解するうえで重要な結果といえる。
宇宙産業は、ロケットや人工衛星だけでなく、宇宙環境を利用した食品、医薬品、材料、生活関連技術へと広がりつつある。今回の実証は、将来の月面生活に向けて、食文化や発酵技術を宇宙へ持ち込むための一歩といえるだろう。
宇宙業界では現在、様々な企業が人材を募集している。興味がある方は、業界特化型の人材マッチングサービス「スペジョブ」をぜひチェックしていただきたい。
参考
獺祭と三菱重工、人類初・宇宙空間での清酒醸造試験に成功。「獺祭MOONプロジェクト」第一弾ミッション完了(株式会社獺祭、2026-05-01閲覧)










