岩谷技研、宇宙に向け前進。気球による宇宙旅行の魅力とは?
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2022年11月30日、株式会社岩谷技研は、2022年11月18日に自社開発の気球を使った有人飛行試験を実施し、目標高度100mを超える102.3mまでの飛行に成功したと発表した。

実施場所は北海道幕別町の大規模農園敷地内。地上との接続のない状況(非係留)での成功であった。

同社は、高高度ガス気球と旅行用気密キャビンを開発・製造し、気球による“NearSpaceからの宇宙旅行”を目指している旅客技術開発会社である。

同年6月には、ハムスターを気密キャビンに入れて、高度23㎞の成層圏まで気球で打ち上げた後、地上に生還させることに成功している。

気球は確かに空を旅する乗り物だが、果たして本当に宇宙まで行くことができるのだろうか?

本記事では、そんな疑問を解決するとともに、気球による宇宙旅行の魅力をご紹介する。

気球ってどこまで行けるの?

気球は、一体どこまで行けるのか。

回答としては、「空気のある限りはどこまでも高く上がれる」だ。

無人気球では、2013年にJAXA到達高度53.7㎞を記録し、当時の世界記録を更新した。

有人気球でも、2014年にアメリカのアラン・ユースタスが高度41.4㎞の到達に成功している。

岩谷技研が目指しているのが高度約25㎞

飛行機の高さがおよそ高度10㎞であるので、その2倍以上の高度ということである。

学術的には、大気圏のうちの成層圏にあたる。対流圏から外気圏までのことを大気圏と呼ぶのだ。

気象学での高度の範囲分け
気象学での高度の範囲分け

しかし、国際航空連盟では、大気がほとんど無くなる高度100㎞から上を宇宙と定義。

また、NASAでは、宇宙から地球に帰還するとき、高度120㎞に達すると大気圏再突入と呼ぶ。これは、大気による機体の加熱が始まるあたりだ。

ということで、成層圏は厳密には宇宙とはいえないが、宇宙に近い、“NearSpace”ということができるだろう。

景色としても、青い地球の姿や、「宇宙」を眺めることができる。

気球による宇宙旅行の魅力とは

気球による宇宙旅行では、気球内の空気を温めることで上昇する熱気球ではなく、高高度気球を用いるのが一般的だ。

高高度気球は、空気よりも軽い気体である水素やヘリウムガスをバルーンの中に充填することで上昇する。

ロケットやスペースプレーンを用いて、宇宙空間といえる熱圏まで行き、無重力を体験するサブオービタルの宇宙旅行よりも気球の方が到達高度は低いが、現状として、長時間宇宙を楽しめる傾向にある。

サブオービタルの宇宙旅行は、今のところ宇宙空間に10分もいられないが、気球は数時間遊覧を楽しむことが可能。

岩谷技研の気球旅行では、1時間ほど遊覧を行う計画だ。

気球による宇宙旅行の魅力は他にもまだまだある。

その1つは、安全性である。

100分の1から1000分の1気圧という非常に空気の薄い近宇宙圏の高度まで行くにも関わらず、キャビンやカプセルによって守られているため、安全・快適に過ごすことができる。

また、気球はロケットと違い墜落しないため、事故の可能性も低い。万が一不測の事態が起こったとしても、パラシュート等で対応することが可能だ。

次に、誰でも訓練せず乗れること。

ロケットで宇宙に行く場合は、発着時の衝撃や、無重力状態により、肉体的にも精神的にも大きな負荷がかかるため、乗客は事前のトレーニングが欠かせない。

気球の場合は、事前のトレーニングも必要なければ、年齢制限体重制限までも必要としないのだ。

つまり、家族での宇宙旅行も可能となるのである。

最後は、低コストで楽しめるところだ。

使用するエネルギーが少なく、打ち上げ頻度を増やせる気球は、運用コストも下げることが可能。

岩谷技研は、将来的には、100万円台で宇宙旅行を提供することを計画している。

気球による宇宙旅行ビジネスを行う企業

岩谷技研の他、気球を用いた宇宙旅行を計画する企業をいくつか紹介する。

Space Perspective

気球宇宙旅行業界の先頭を切るSpace Perspective

既に有人飛行試験に成功しており、チケットの予約も開始している。

高度約30㎞の旅であり、約6時間程飛行。遊覧時には軽食の提供も予定されている。ラグジュアリーな船内も魅力的だ。

料金は1名あたり12万5000ドルとのこと。

© Space Perspective

World View

World Viewも負けていない。

早ければ2024年に旅行客を宇宙に飛ばすことを計画している。

同社は、1席あたり5万ドルで販売。総飛行時間6~8時間で、高度37㎞まで上昇する。

予約は既に1000件以上。The Chainsmokersとコラボし、彼らを宇宙で演奏する最初の音楽アーティストにすることも計画している。

© World View

スペース・バルーン

日本の企業も紹介しておこう。

スペース・バルーンは2020年に設立したベンチャー企業。

気球による有人宇宙旅行の他にも、茨城県でのスペースポート(宇宙港)の立ち上げや、宇宙映像撮影、ビックデータの収集・解析など、スペースバルーンを軸とした様々な事業に取り組んでいる。

飛行するスペース・バルーン社のロゴ画像
飛行するスペース・バルーン社のロゴ画像 ©スペース・バルーン

岩谷技研の今後

今回高度100mの有人自由飛行に成功した岩谷技研は、次は12月中旬500m自由飛行試験を計画している。

また、来春までには高度4,000mへの自由飛行試験を実施予定とのこと。

世界中の競合が既にチケットを販売する中で、どれだけスピード感を持ちながら信頼できる結果を得ていくかが勝負である。

参考:

“気球による宇宙遊覧旅行” を目指す岩谷技研、有人飛行試験で目標高度100mの飛行に成功

岩谷技研 HP

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