
衛星通信や宇宙インフラの重要性が高まる中で、日本企業の中でも大きな存在感を持つ企業の一つが、スカパーJSAT株式会社(以下、スカパーJSAT)である。
本記事では、スカパーJSATの衛星ビジネスの概要、今後の打ち上げ予定、保有する通信衛星17機の一覧について解説する。
スカパーJSATの衛星ビジネス
スカパーJSATは、日本を代表する衛星通信事業者であり、航空機や船舶向けのインターネット回線、災害時のバックアップ回線、放送など、幅広い用途に衛星通信サービスを提供している。
国内外の衛星メーカーから通信衛星を調達・取得し、自社で保有・運用することで、日本をはじめアジア太平洋や北米などに通信網を展開してきた。直近では、2026年6月に英国Avanti Communicationsとの間で、同社が保有・運用するKaバンド通信衛星「HYLAS 3」の売買契約を締結した。HYLAS 3は引き渡し後、「JSAT-144D」として2027年度初頭を目途に運用を開始する予定である。既存のKuバンド通信衛星と組み合わせ、大容量通信や安全保障分野を含む多様な通信需要への対応力を高める狙いがある。
近年は低軌道(LEO)を含む新たな事業領域にも展開している。地球観測分野では、Planet Labsが開発する光学衛星「Pelican」10機を調達し、自社保有の低軌道地球観測衛星コンステレーションを構築する計画を進めている。また、QPS研究所が構築する小型SAR衛星コンステレーションの保守運用も担うなど、他社の低軌道衛星を支える事業も拡大している。
さらに、衛星データの提供・解析、宇宙状況把握(SSA)、衛星の追跡・管制などにも取り組んでいる。これまで培ってきた衛星運用の技術や地上インフラを生かしながら、通信だけでなく、地球観測や衛星運用を含む宇宙事業へと領域を拡大している。

スカパーJSATの今後の打ち上げ計画
スカパーJSATは、既存の静止軌道通信衛星に加えて、新たな通信衛星や地球観測衛星、宇宙状況把握(SSA)に関する宇宙機器の打ち上げを計画している。ここでは、直近の打ち上げ予定と中長期的な打ち上げ計画を整理する。
直近の打ち上げ予定
スカパーJSATの直近の打ち上げは、宇宙状況把握(SSA)を目的とした「宇宙設置型光学望遠鏡」である。※スカパーJSATが調達
この光学望遠鏡は単独の衛星ではなく、JAXAの技術試験衛星9号機(ETS-9)に相乗りペイロードとして搭載される。ETS-9は、次世代の静止衛星通信技術や衛星バス技術を実証する技術試験衛星で、2026年度以降にH3ロケットで打ち上げられる予定である。
スカパーJSATはJAXAからETS-9の衛星運用を受託するとともに、同衛星に搭載する光学望遠鏡を活用し、静止軌道上の宇宙物体を観測するSSAサービスの提供を計画している。
なお、ETS-9本体の開発・実証にはJAXAをはじめ、三菱電機やNICTなど複数の機関・企業が関わっている。
| 衛星名 | 目的・種類 | 打上げ予定 |
| ETS-9(宇宙設置型光学望遠鏡) | 宇宙状況把握・SSA | 2026年以降 |
今後の打ち上げ予定
スカパーJSATは、2026年以降も複数の衛星関連打ち上げ計画を進めている。
通信分野では、JSAT-31、JSAT-32、Superbird-9の次世代通信衛星3機を2027年から順次打ち上げる予定である。JSAT-31とSuperbird-9は、打ち上げ後も通信エリアや伝送容量を柔軟に変更できるフルデジタル通信衛星で、JSAT-32はKaバンドの通信容量を大幅に増強する計画となっている。
また、地球観測分野では、Planet Labsが開発する光学衛星「Pelican」10機を調達し、自社保有の低軌道地球観測衛星コンステレーションを構築する。2026年度後半から順次打ち上げ、段階的にサービスを開始する予定である。
さらに、NTTとの合弁会社Space Compassでは、観測衛星などのデータを静止軌道衛星経由で高速に地上へ伝送するGEO光データリレー衛星の開発を進めている。2026年3月には1号機の調達契約を締結しており、今後、衛星の打ち上げと軌道上での光通信実証を予定している
| 衛星名・フリート名 | 目的・種類 | 完了予定年月 |
| Pelican 低軌道地球観測衛星コンステレーション(10機) | 地球観測衛星・低軌道 | 2026年度後半から順次 |
| 通信衛星「JSAT-31」 | 通信衛星・静止軌道 | 2028年予定 |
| 通信衛星「JSAT-32」 | 通信衛星・静止軌道 | 2027年予定 |
| 通信衛星設備「Superbird-9」 | 通信衛星・静止軌道 | 2027年予定 |
| Space Compass 光データ中継衛星 | 光データ中継・静止軌道技術実証 | 未定 |
スカパーJSATの保有衛星一覧
スカパーJSATは、2026年8月時点で以下17機のGEO通信衛星を保有している。

Horizons-1
Horizons-1は、スカパーJSATとIntelsatが共同で所有する通信衛星で、西経150度に配置されている。2003年10月1日にSea LaunchのZenit-3SLで打ち上げられ、衛星バスにはBoeing 601HPが採用された。
Kuバンドを利用し、北米や北太平洋地域をカバーしている。太平洋をまたぐ国際通信や北米向けの衛星通信サービスに利用されている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | Horizons-1 |
| 打ち上げ日 | 2003年10月1日 |
| 打ち上げロケット | Sea Launch Zenit-3SL |
| 軌道位置 | 西経150度 |
JCSAT-9
JCSAT-9は、東経132度に配置されている通信衛星で、2006年4月13日にSea LaunchのZenit-3SLで打ち上げられた。衛星バスにはLockheed A2100AXが採用されている。
KuバンドとCバンドを利用し、日本やアジア太平洋地域をカバーしている。同じ東経132度にはJCSAT-5Bも配置されており、複数の衛星によって同軌道位置の通信サービスを支えている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | JCSAT-9 |
| 打ち上げ日 | 2006年4月13日 |
| 打ち上げロケット | Sea Launch Zenit-3SL |
| 軌道位置 | 東経132度 |
JCSAT-3A
JCSAT-3Aは、東経128度に配置されている通信・放送衛星で、2006年8月12日にArianespaceのAriane 5で打ち上げられた。衛星バスにはLockheed A2100AXが採用されている。
KuバンドはJCSAT-4Bと連携して「スカパー!プレミアムサービス」を支えるほか、企業の通信ネットワークにも利用されている。また、Cバンドはパキスタンからハワイまでの広い地域をカバーし、アジア太平洋地域の国際通信に活用されている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | JCSAT-3A |
| 打ち上げ日 | 2006年8月12日 |
| 打ち上げロケット | Arianespace Ariane 5 |
| 軌道位置 | 東経128度 |
Horizons-2
Horizons-2は、スカパーJSATとIntelsatが共同で所有する通信衛星で、西経74度に配置されている。2007年12月22日にArianespaceのAriane 5で打ち上げられ、衛星バスにはOrbital STAR2が採用された。
Kuバンドを利用し、北米地域をカバーする通信衛星として運用されている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | Horizons-2 |
| 打ち上げ日 | 2007年12月22日 |
| 打ち上げロケット | Arianespace Ariane 5 |
| 軌道位置 | 西経74度 |
JSAT-136E
JSAT-136Eは、東経136度に配置されているKuバンド通信衛星で、2008年8月15日にArianespaceのAriane 5で打ち上げられた。衛星バスには三菱電機のMELCO DS2000が採用されている。
現在は東経136度から通信サービスを提供しており、100W級のKuバンド中継器を搭載している。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | JSAT-136E |
| 打ち上げ日 | 2008年8月15日 |
| 打ち上げロケット | Arianespace Ariane 5 |
| 軌道位置 | 東経136度 |
JCSAT-5B
JCSAT-5Bは、東経132度に配置されている通信衛星で、2009年8月22日にArianespaceのAriane 5で打ち上げられた。衛星バスにはLockheed A2100AXが採用されている。
Kuバンドは企業内ネットワークのほか、日本国内を移動する航空機や船舶向けの通信に利用されている。また、Cバンドはパキスタンからハワイまでの広い地域をカバーし、アジア太平洋地域の多様な通信サービスに対応している。
同じ東経132度にはJCSAT-9も配置されている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | JCSAT-5B |
| 打ち上げ日 | 2009年8月22日 |
| 打ち上げロケット | Arianespace Ariane 5 |
| 軌道位置 | 東経132度 |
JCSAT-85
JCSAT-85は、Intelsatが保有する通信衛星「Intelsat 15」のKuバンド中継器の一部をスカパーJSATが区分所有し、「JCSAT-85」として運用しているものである。東経85度に配置され、2009年12月1日にSea LaunchのZenit-3SLで打ち上げられた。衛星バスにはOrbital STAR2が採用されている。
Kuバンドでアジア、インド洋、中東をカバーしており、特に船舶など海上を移動する通信需要に対応している。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | JCSAT-85 |
| 打ち上げ日 | 2009年12月1日 |
| 打ち上げロケット | Sea Launch Zenit-3SL |
| 軌道位置 | 東経85度 |
JCSAT-110R
JCSAT-110Rは、放送衛星システム(B-SAT)との共同衛星「BSAT-3c/JCSAT-110R」のCS部分を構成する放送衛星で、東経110度に配置されている。2011年8月7日にArianespaceのAriane 5で打ち上げられ、衛星バスにはLockheed A2100AXが採用された。
日本初のBS・CSハイブリッド衛星として開発され、B-SATがBS部分、スカパーJSATがCS部分の専用使用権を持つ。東経110度におけるCS衛星放送サービスの安定的な提供や、バックアップ体制の強化を担っている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | JCSAT-110R |
| 打ち上げ日 | 2011年8月7日 |
| 打ち上げロケット | Arianespace Ariane 5 |
| 軌道位置 | 東経110度 |
JCSAT-4B
JCSAT-4Bは、東経124度に配置されている通信・放送衛星で、2012年5月16日にArianespaceのAriane 5ECAで打ち上げられた。衛星バスにはLockheed A2100AXが採用されている。
Kuバンドを利用し、JCSAT-3Aと連携して「スカパー!プレミアムサービス」の配信を支えるほか、企業内ネットワークにも利用されている。また、日本や東南アジアをカバーする複数のビームを備え、地域の通信需要に対応している。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | JCSAT-4B |
| 打ち上げ日 | 2012年5月16日 |
| 打ち上げロケット | Arianespace Ariane 5 |
| 軌道位置 | 東経124度 |
JCSAT-2B
JCSAT-2Bは、東経154度に配置されている通信衛星で、2016年5月6日にSpaceXのFalcon 9で打ち上げられた。衛星バスにはSSL 1300が採用されている。
KuバンドとCバンドを利用し、日本やアジア太平洋地域を広くカバーしている。国内向け通信に加え、アジアやオセアニアなどを含む広域通信にも対応する衛星である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | JCSAT-2B |
| 打ち上げ日 | 2016年5月6日 |
| 打ち上げロケット | SpaceX Falcon 9 |
| 軌道位置 | 東経154度 |
JSAT-144C
JSAT-144Cは、東経144度に配置されているKuバンド通信衛星で、2016年8月14日にSpaceXのFalcon 9で打ち上げられた。衛星バスにはSSL 1300が採用されている。
もともとは「JCSAT-16」として運用されていた衛星で、現在は「JSAT-144C」に名称変更されている。Kuバンドを利用し、日本向けの衛星通信サービスに活用されている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | JSAT-144C |
| 打ち上げ日 | 2016年8月14日 |
| 打ち上げロケット | SpaceXのFalcon 9 |
| 軌道位置 | 東経144度 |
JCSAT-110A
JCSAT-110Aは、東経110度に配置されている通信・放送衛星で、2016年12月22日にArianespaceのAriane 5で打ち上げられた。衛星バスにはSSL 1300が採用されている。
Kuバンドを利用し、日本向けの衛星放送「スカパー!」サービスを支える日本ビームに加え、南インド洋向けのビームも搭載している。南インド洋では、船舶向け通信サービスにも活用されている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | JCSAT-110A |
| 打ち上げ日 | 2016年12月22日 |
| 打ち上げロケット | Arianespace Ariane 5 |
| 軌道位置 | 東経110度 |
Superbird-B3
Superbird-B3は、東経162度に配置されている通信衛星で、2018年4月6日にArianespaceのAriane 5で打ち上げられた。衛星バスには三菱電機のMELCO DS2000が採用されている。
KuバンドとKaバンドを搭載しており、Kuバンドでは日本向けの固定ビームに加えて、カバーエリアを変更できる可動ビームも備えている。これにより、用途や通信需要に応じた柔軟な衛星通信に対応できる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | Superbird-B3 |
| 打ち上げ日 | 2018年4月6日 |
| 打ち上げロケット | Arianespace Ariane 5 |
| 軌道位置 | 東経162度 |
Horizons 3e
Horizons 3eは、スカパーJSATとIntelsatが共同で所有するHTS通信衛星で、東経169度に配置されている。2018年9月26日にArianespaceのAriane 5で打ち上げられ、衛星バスにはBoeing 702MPが採用された。
KuバンドとCバンドを利用し、アジア・太平洋地域を中心に、北米の一部や南極大陸まで広くカバーしている。複数のスポットビームなどを活用するHTSとして、企業や官公庁向けを含む大容量通信サービスを提供している。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | Horizons 3e |
| 打ち上げ日 | 2018年9月26日 |
| 打ち上げロケット | Arianespace Ariane 5 |
| 軌道位置 | 東経169度 |
JCSAT-1C
JCSAT-1Cは、スカパーJSATとKacificが共同で所有するHTS通信衛星で、東経150度に配置されている。2019年12月17日にSpaceXのFalcon 9で打ち上げられ、衛星バスにはBoeing 702MPが採用された。
KuバンドとKaバンドを搭載し、アジア太平洋地域を広くカバーしている。企業や官公庁向けの通信ネットワークに加え、船舶や航空機などの移動体通信にも対応する大容量通信衛星である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | JCSAT-1C |
| 打ち上げ日 | 2019年12月17日 |
| 打ち上げロケット | SpaceX Falcon 9 |
| 軌道位置 | 東経150度 |
JCSAT-17
JCSAT-17は、東経136度に配置されている通信衛星で、2020年2月19日にArianespaceのAriane 5ECAで打ち上げられた。衛星バスにはLockheed MartinのLM2100が採用されている。
Sバンド、Cバンド、Kuバンドを搭載し、日本を含む東アジアをカバーしている。特にSバンドとCバンドは、日本および周辺海域における移動体通信向けにNTTドコモが長期利用しており、船舶などを含む衛星通信サービスを支えている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | JCSAT-17 |
| 打ち上げ日 | 2020年2月19日 |
| 打ち上げロケット | Arianespace Ariane 5 |
| 軌道位置 | 東経136度 |
Horizons-4
Horizons-4は、スカパーJSATとIntelsatが共同で所有する通信衛星で、西経127度に配置されている。2023年8月3日にSpaceXのFalcon 9で打ち上げられ、衛星バスにはMaxar 1300シリーズが採用された。
Kuバンドを利用し、米国やメキシコ、カリブ海などの北米地域に加え、太平洋上もカバーしている。航空機や船舶などの移動体通信にも対応し、北米から太平洋地域にかけて通信サービスを提供している。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛星名 | Horizons-4 |
| 打ち上げ日 | 2023年8月3日 |
| 打ち上げロケット | SpaceX Falcon 9 |
| 軌道位置 | 西経127度 |
低軌道衛星時代でも静止軌道通信衛星が重要
近年、衛星通信分野では、SpaceXのStarlinkをはじめとする低軌道(LEO)衛星コンステレーションが急速に普及している。
低軌道衛星は地球に近い軌道を周回するため、静止軌道衛星と比べて通信遅延を抑えやすいという特徴がある。そのため、インターネット接続やリアルタイム性が求められる通信サービスで活用が広がっている。
一方、静止軌道(GEO)衛星には、1機で広い地域を継続的にカバーできるという強みがある。地上から見るとほぼ同じ位置にとどまるため、放送や企業・官公庁向け通信、防災通信、航空機・船舶向け通信など、広域で安定した通信が求められる用途で引き続き重要な役割を担っている。
スカパーJSATも、低軌道地球観測衛星など新たな領域へ事業を広げる一方、JSAT-31、JSAT-32、Superbird-9といった次世代の静止軌道通信衛星の整備を進めている。
今後は、低軌道衛星が静止軌道衛星を一方的に置き換えるのではなく、それぞれの特徴を生かして組み合わせる通信網が重要になると考えられる。スカパーJSATも、静止軌道と低軌道をはじめとする複数の通信基盤を活用し、用途に応じて最適な通信サービスを提供する方向へ事業を広げている。
さいごに
スカパーJSATは、17機の静止軌道通信衛星を基盤に、日本国内だけでなく、アジア太平洋や北米、インド洋など幅広い地域で衛星通信サービスを展開している。
今後は、JSAT-31、JSAT-32、Superbird-9といった次世代の静止軌道通信衛星に加え、自社保有の低軌道地球観測衛星コンステレーション、宇宙状況把握(SSA)、光データ中継など、新たな宇宙事業も進めていく計画である。
低軌道衛星の活用が広がる中でも、静止軌道衛星は広域かつ継続的な通信を支える重要なインフラである。スカパーJSATが今後、静止軌道と低軌道を含む複数の宇宙基盤をどのように組み合わせ、事業を拡大していくのか注目される。
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