上場間近、QPS研究所の衛星は何ができるのか

2023年11月28日、東証グロース市場に上場を控えた九州大学発の宇宙ベンチャー企業「QPS研究所」の株式の売り出し価格と売り出される株数が、それぞれ390円、10,256,300株と公開された。

同社の上場は12月6日を予定されている。

本記事では、上場を控えたQPS研究所の技術並びにその技術が社会にどのように還元されることになるのかについて紹介する。

QPS研究所とは

QPS研究所は小型SAR(合成開口レーダー)衛星の開発・製造並びに、衛星により取得した地球観測データ及び画像の提供を行う宇宙ベンチャー企業である。

SAR衛星とは

SAR衛星とは、通信・測位、観測等、いくつかある衛星の種類の中でも地球観測のために用いられる人工衛星だ。

観測地点に対して電波(マイクロ波)を発射し、反射した電波によって対象物の大きさや表面の性質、距離等を測定する。

一般的に、衛星写真と呼ばれている色のある画像は、光学衛星と呼ばれる人工衛星によって撮像されているが、この衛星は、可視光線と近赤外線を活用しているため、雲がかかる悪天候時や夜間は地球を観測できない。

一方で、SAR衛星は電波を活用することによって、悪天候時でも地球を観測できるのが特徴だ。

6号機が撮影した横浜市の衛星画像 ©QPS研究所

QPSの実績と今後の展望

同社はこれまで小型SAR衛星の開発に取り組み、3基の衛星の打ち上げに成功。

2019年12月に実証試験機である1号機(愛称「イザナギ」)を、続いて、2021年1月に同じく実証試験機である2号機(愛称「イザナミ」)を打ち上げた。

2021年5月には2号機イザナミで地球観測画像の取得に成功し、2021年12月から画像の販売を開始。

3号機及び4号機はロケットの打上げ失敗により損失を被ったものの、2023年6月に6号機(愛称「アマテル-Ⅲ」)の打ち上げを成功させ、2号機及び6号機による2機の衛星の連携を実現した。

加えて、5号機も近々ニュージーランドから打ち上がる予定で、既に衛星を射場に輸送している。さらに7号機、8号機の開発も進んでいるのが現状だ。

同社は現時点では、年間4機までの衛星の製造が可能だが、工場を新設することで2024年には年間10機に拡大する予定だ。

将来的には、36機の衛星を宇宙空間に配置して連携させることにより、地球上のほぼどこでも平均10分間隔で観測できる世界の実現を目指している。

QPS研究所の衛星の特徴

同社の衛星の強みとなっている1番の特徴は、衛星が小型で、かつ高い解像度の画像(より滑らかな画像)を撮像できることだろう。

SAR衛星は電波の送受信に大量の電力消費と大きなアンテナを必要とするため、これまで衛星の小型化と画像の解像度はトレードオフの関係にあった。

しかし、QPS研究所は自身が特許を保有する展開式の軽量アンテナを搭載することでこの課題を解決。

衛星全体の重さは従来の10分の1以下となる100㎏。小型かつ軽量のため製造や打ち上げにかかるコストを低く抑えることができ、かつ短期間での開発が可能となる。

そして、分解能(どれだけ小さな物体を見分けることができるかを示す値)は6号機(アマテル-Ⅲ)時点で46㎝を実現。これは日本の中では最高クラスかつ、世界でもトップクラスの性能だ。

また、他の特徴として、6号機以降、地上で行う観測データの画像化を軌道上で実施するための装置を搭載しており、データの撮影から提供できるまでの時間を短縮している。

今後は、衛星の投入軌道も工夫していく予定で、北緯45度から南緯45度の間を周回する軌道への打ち上げを増やすことで日本近辺や先進国の大都市圏を多く撮像、他者との差別化を図っていく予定だ。(地球観測衛星は通常、北極・南極の上空を通過し、地球全体を観測できる軌道に打ち上げられることが多い。)

アンテナを展開したQPS研究所のSAR衛星 ©QPS研究所

QPS研究所の衛星データで何ができる

では、QPS研究所のSAR衛星の衛星データはどのようなことに活用できるのか。

現時点で、同社は既に防衛省向けのサービスを開始している他、スカパーや九州電力など様々な民間企業とも実証実験等のプロジェクトを開始しており、民間ビジネスの開拓を進めている。

とりわけ、衛星の数が増加し、高解像度のデータを10分間隔で入手できるようになれば、人や車などの「動き」や「変化」を把握することができるようになるため、下記のようなサービスを生み出すことが考えられる。

  • 人の数や動きを分析(ヒートマップ等)して、土地や建物の『価値』を算出
  • 店舗のカメラと連携して、街全体のセキュリティシステムを構築
  • 自動運転の実現に必須である高頻度・高精度3Dマップを作成
  • 物流や交通量からその国や地域の経済を予測
  • 人、クルマの行動パターン、建物の変化の蓄積を判断し、交通渋滞予測、最適ルートの判断、更には事故・危険の予測を行う
  • 地盤の変化を測定し、地震や土砂崩れ、火山の噴火、道路の陥没を予測

上記の例はあくまでほんの一部に過ぎない。

QPS研究所の衛星データを活用することによって、今後は私たちの生活を支える新しいサービスが生まれることになるだろう。

宇宙産業への追い風とSAR衛星の重要性

現在、産官学が一体となり、日本の宇宙業界の国際競争力を高めるための機運が高まっている。

例えば、日本政府は2020年に4兆円となっていた宇宙業界の市場規模を2030年早期に2倍の8兆円に拡大することを計画している。

実際に、今年度の宇宙関係予算の合計額も前年度から17%増加の6,119億円となっており、経済産業省は、小型光学衛星や小型SAR衛星ミッションの高度化を目的とした補助金を公募。

採択企業の1つにQPS研究所が入っており、最大41億円の補助も決定している。

その要因の1つに、近年の国際状況の悪化に伴い、宇宙から海外の動向監視などが可能であるSAR衛星に対する安全保障分野での需要が高まっていることも関係しているだろう。

実際に2022年から続くウクライナに対する軍事侵攻に対し、ロシア軍の動向監視に国外のSAR衛星事業者による画像が活用され注目を集めたのは記憶に新しい。

他にも台風や水害等が起きた場合のリアルタイムハザードマップの作成など、SAR衛星はありとあらゆるところで活用されるようになるだろう。

さいごに

いかがでしたか。

QPS研究所の技術は地球観測の分野で新たな可能性を開き、防災、安全保障、経済予測など、多岐にわたる分野に貢献することが期待される。

同社の上場とその後の展開は、生活や社会にどのような変化をもたらすのだろうか。

今後の動向に期待だ。

参考

新規上場申請のための有価証券報告書

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