
2026年8月7日、株式会社ispace(以下、ispace)は、2027年3月期第1四半期の決算を発表した。
本記事では、ispaceの連結業績と、ミッション3・4の開発状況、月周回衛星やSpaceXのStarshipを活用した新たな事業展開について解説する。
ispaceの概要
ispaceは、月着陸船「ランダー」や月面探査車「ローバー」を開発し、顧客の機器や物資を月周回軌道や月面へ輸送する日本の宇宙企業である。
主なサービスは、顧客のペイロードを月へ運ぶペイロードサービスと、ランダーやローバー、衛星を通じて取得した情報を提供するデータサービスである。日本、米国、欧州を中心に事業を展開している。
2022年にはミッション1、2025年にはミッション2を実施した。いずれも月面への軟着陸には至らなかったものの、深宇宙航行や月周回軌道への投入などを実証し、後続ミッションに向けた技術的な知見を蓄積している。

現在は、日米で開発していたランダーを統合した新型モデル「ULTRA」を開発しており、2028年のミッション3、2029年のミッション4などで月面着陸を目指す。
また、月周回衛星を用いた通信・測位サービスや、SpaceXのStarshipを活用した大容量の月面輸送サービスなど、ランダー以外の事業領域も強化している。

ispaceの決算内容|2027年3月期第1四半期
ispaceは、会計上の売上高に、経済産業省のSBIR補助金やJAXAの宇宙戦略基金などの補助金収入を加えた数値を「プロジェクト収益」として開示している。
補助金収入は年度末に営業外収益として計上されるため、四半期ごとの開発進捗と、損益計算書に表れる業績には時間差が生じる点に注意が必要である。
2027年3月期第1四半期の決算概要
ispaceの2027年3月期第1四半期における売上高は、前年同期比85.5%減の1億6,800万円となった。
営業損益は63億9,700万円の赤字、経常損益は63億3,500万円の赤字、親会社株主に帰属する四半期純損益は63億3,600万円の赤字となり、前年同期から赤字幅が拡大した。

前期はミッション2と、米国で進めていたCP-12契約から売上を計上していた。一方、今期はミッション3・4の開発進捗に応じた売上が本格化する前であり、同社は第1四半期を売上の「端境期」と説明している。
第1四半期相当分として約4億8,000万円の補助金を7月に受領しており、会計上の売上高と合計した実質的なプロジェクト収益は、計算上約6億4,000万円に相当する。ただし、補助金は第4四半期に営業外収益として一括計上される予定である。
端境期(はざかいき):季節や商品の切り替わりなどで、品物が少なくなる時期
米国事業の減損で売上総損失46億円
売上総損益は、前年同期の2億3,100万円の黒字から、46億2,700万円の赤字へ転じた。
主な要因は、米国事業におけるランダーモデルの統合とエンジン変更に伴い、約37億円の減損を売上原価へ計上したことである。
販売管理費は前年同期比28.5%減の17億7,000万円となった。R&Dミッションとして実施したミッション2の完了により、研究開発費が同64.9%減の4億3,400万円となったほか、米国子会社の人員構成を見直したことで給与及び手当も減少した。
そのため、今回の赤字拡大は販売管理費の増加ではなく、売上の端境期と、米国事業の見直しに伴う減損の影響が大きい。
現預金は257億円、純資産は86億円
2026年6月末時点の現金及び預金は257億300万円となり、2026年3月末から13.4%減少した。

有利子負債は297億5,800万円で、前期末比1.1%増となった。2026年4月に朝日信用金庫から10億円を借り入れたことで、短期借入金が増加している。
純資産は86億6,300万円となり、前期末の151億7,300万円から42.9%減少。米国事業の減損などを背景に63億3,600万円の四半期純損失を計上したことが、純資産を押し下げた。
ispaceは、手元流動性は比較的安定していると説明する一方、財務安定性の強化を引き続き課題に挙げている。
ミッションの進捗状況
CP-12契約が終了、米国ミッションを再構築
NASAとDraperのCP-12契約が終了することを受け、Draperとispace U.S.の契約も終了する見込みとなった。
契約終了に伴う返金などは想定されていないものの、未計上の契約残高約45億円は解消される見通しである。
一方、ispaceはミッション5の月面着陸計画そのものは継続し、2029年の実施を目指すとしている。米国法人では、政府機関や民間宇宙企業での経験を持つブレットン・アレクサンダー氏を事業開発担当EVPに迎え、[maker]NASAの新たな商業月面輸送サービス「CLPS 2.0」などへの参画[/marker]を目指す。
CP-12契約の終了によって失われる売上を、新たな政府・民間案件の獲得によって補えるかが、米国事業の焦点となる。
ミッション3はH3ロケットで2028年に打ち上げ予定
ミッション3は、新型ランダー「ULTRA」を使用し、日本発の商業的な月面輸送サービスの確立を目指すミッションである。
ispaceは2026年7月、三菱重工業とH3ロケットによる打ち上げ輸送サービス契約を締結した。国産ランダーのULTRAと、日本の基幹ロケットであるH3を組み合わせ、日本の自律的な月面輸送システムを構築する。
当初は2027年内の打ち上げを計画していたが、現在の開発計画では2028年内の打ち上げを見込む。
開発面では、ULTRAランダーの構造モデルを用いた振動試験と音響試験が完了しており、今後、基本設計審査と詳細設計審査を経て、実際に打ち上げるフライトモデルの製造を開始する予定である。
ミッション3のプロジェクト収益総額は187億円を見込んでおり、経済産業省のSBIR補助金120億円に加え、東京科学大学、台湾宇宙機関、韓国UEL、JALUXなどの案件が含まれている。
ミッション4で最大200億円の宇宙戦略基金が交付決定
2029年に打ち上げ予定のミッション4では、月の南極近傍への高精度着陸と、通信中継衛星を用いた月極域でのペイロード活動支援を目指す。
ispaceは、JAXAの宇宙戦略基金第二期「月極域における高精度着陸技術」について、補助金の交付決定通知を受領した。
支援上限額は最大200億円で、このうち2026年4月から2028年3月までの当初補助事業期間における交付決定額は116億円である。残りの金額は今後のステージゲート審査などによって変動する可能性があり、200億円全額の受領が確定したわけではない。
また、ispaceの欧州法人は、欧州宇宙機関(ESA)と月極域の氷を探査する「MAGPIE」フェーズ2の契約を締結した。契約総額は6,500万ユーロ、約120億円である。
ispace EUROPEはESA向けの小型ローバーを開発し、ミッション4で月面へ輸送する。英国国立レスター大学との契約約6億円を含め、ミッション4のプロジェクト収益総額は326億円を見込む。
月周回衛星を最速2027年に打ち上げ
ispaceは、月面輸送だけでなく、月周回軌道における通信・測位などのインフラ事業への参入も進めている。
ミッション2.5では、最速2027年に自社のリレー通信衛星1基を月周回軌道へ投入する予定であり、月面と地球間の通信や測位、観測、宇宙状況把握などのデータサービスを検討している。
2030年までに少なくとも5基の自社衛星を月周回軌道へ展開する計画で、通信・測位サービスについてはKDDIと共同検討を進めている。
月面開発が本格化すれば、月周回軌道における通信や測位の需要も増加する。ispaceは、月周回衛星などを活用したサービス市場について、2040年代に少なくとも年間4,500億円の規模になると試算している。
Starshipを活用した月面輸送サービスを開始
ispaceは2026年7月、SpaceXのStarshipを活用した月面輸送サービスの提供開始を発表した。
最速2030年の月面着陸を目指すStarshipのペイロードスペースのうち500kgを確保し、500kg未満のペイロードを輸送したい顧客へ搭載枠を販売する。
ispaceは専用の「モバイル・カーゴ・システム」を開発し、複数の顧客ペイロードの統合、Starshipとの接続調整、月面着陸後の展開や移動、運用支援までを一体で提供する計画である。
自社ランダーのULTRAは、打ち上げ時期や着陸場所など顧客ごとの要望に対応する高付加価値な輸送を担う。一方、Starshipは大容量・低価格の輸送需要に対応し、両サービスを使い分ける。
ただし、Starshipを活用したサービスは現時点では将来の成長構想という位置付けが強い。今後は、具体的な顧客契約の獲得と収益化の時期が焦点となる。
さいごに
ispaceの2027年3月期第1四半期は、売上高1億6,800万円、営業損失63億9,700万円、親会社株主に帰属する四半期純損失63億3,600万円となった。
売上高は前年同期比85.5%減となったが、ミッション3・4からの売上が本格化する前の端境期に当たるとしており、利益面では、米国事業の見直しに伴う約37億円の減損が赤字拡大の主因となった。
一方、事業面では、ミッション3におけるH3ロケットの打ち上げ契約、ミッション4における最大200億円の宇宙戦略基金の交付決定、ESAとの約120億円の契約などが順調に進展している。
今後は、2028年へ変更される見込みのミッション3の開発スケジュール、ミッション4の補助金とESA契約の収益計上、数百億円以上の未計上案件の収益化が業績を左右することになるだろう。
宇宙業界では現在、さまざまな企業が人材を募集している。興味のある方は、業界特化型の人材マッチングサービス「スペジョブ」をチェックしていただきたい。

参考資料
※本記事は、ispaceが公表した「2027年3月期Q1 決算説明資料」などをもとに、同社の事業動向を整理することを目的としたものです。特定の銘柄の売買を推奨するものではなく、投資助言を目的としたものでもございません。












