
2026年7月6日から9日までの計4日間、今年で11回目を迎えるアジア太平洋地域最大級の国際宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE 2026」が、東京・虎ノ門で開催される。
本記事では、SPACETIDE 2026の概要や注目プログラムについてご紹介する。
目次
SPACETIDE 2026とは
SPACETIDE 2026は、一般社団法人SPACETIDEが主催する国際宇宙ビジネスカンファレンスである。SPACETIDEは2015年から、宇宙産業に関わる企業、政府機関、研究機関、投資家、異業種企業などをつなぎ、宇宙ビジネスの発展を後押しする活動を続けてきた。

今回のテーマは、「Unlocking Space for All Humanity(すべての人のために宇宙を拓く)」である。宇宙技術や宇宙サービスを一部の専門領域にとどめず、社会や幅広い産業で活用できるものへ広げていく考え方を掲げる。
会期中は、宇宙政策、AI、地理空間情報、安全保障、資金調達、低軌道経済圏、異業種連携、人材など、宇宙ビジネスを成長させるうえで避けて通れないテーマを横断的に扱う。技術や市場の最新動向を知るだけでなく、自社の事業や新規参入に関わる課題を、政策・資金・連携先といった複数の視点から捉えられる点が特徴だ。
2025年のSPACETIDEには2,000人以上が来場しており、2026年はそれを上回る規模の来場が見込まれている。各国の企業・団体による展示スペースを拡大するほか、個室商談スペース、ネットワーキング、サイドイベントも予定されている。
国内外の宇宙産業関係者が東京・虎ノ門に集まるSPACETIDE 2026は、最新の議論に触れるだけでなく、海外を含む企業・団体と直接対話し、協業先や事業展開の可能性を具体的に探れる機会となる。宇宙分野で次の一手を考える企業にとって、次の協業や事業展開につながる出会いを得られる4日間となりそうだ。

SPACETIDE 2026の注目プログラム
SPACETIDE 2026では、日本政府の成長戦略や総額1兆円規模の宇宙戦略基金、地政学的リスク下における安全保障とビジネスの関係、成長が期待されるインドをはじめとするAPACの宇宙産業など、宇宙産業の持続的な成長を左右する重要なテーマを議論。
政策や市場、技術の変化を担う国内外の関係者が一堂に会し、事業に直結する一次情報に触れることができる。ここでは、数あるプログラムの中から注目すべき4つのセッションを紹介する。
1. AIの台頭は宇宙産業に何をもたらすのか

NASA科学局のKevin Murphy氏を迎えたセッション「AI時代に宇宙開発はどこに向かい、革新していくのか?」では、AIと宇宙開発の融合がもたらす変化をテーマに、膨大な観測データの解析から自律的な宇宙探査まで、AI活用が新たなビジネスモデルや市場の創出にどうつながるのかを議論する。
衛星や探査機が取得するデータは増え続けており、その価値を迅速に引き出すためには、AIによる解析や判断の仕組みが重要になりつつある。また、月面や深宇宙のように地上との通信に時間がかかる環境では、周囲の状況を認識し、自律的に判断・行動する技術も欠かせない。
AIは、宇宙機の運用やデータ活用を効率化するだけでなく、従来は人手や時間を要していた業務のあり方を変える可能性を持つ。宇宙産業においてAIがどの領域で競争力となり、どのような事業機会を生み出していくのかを考えるうえで、注目したいセッションである。
2. 『宇宙兄弟』が宇宙産業に与えたインパクト

19年にわたる連載に幕を閉じる漫画『宇宙兄弟』の作者である小山宙哉氏、宇宙飛行士の若田光一氏、宇宙エンジニアの山方健士氏らが登壇するセッション「宇宙の魅力はどれほど次の世代に届いたか?─『宇宙兄弟』が宇宙産業に与えたインパクト」では、作品を軸に、宇宙ビジネスとキャリアの未来について議論する。
『宇宙兄弟』は、宇宙飛行士を目指す兄弟の挑戦だけでなく、宇宙開発を支える技術者や研究者、管制官など、さまざまな仕事を描いてきた。宇宙を遠い世界の出来事ではなく、多様な人が関わる仕事やキャリアの選択肢として伝えてきた点に、同作の大きな意義がある。
宇宙産業の成長には、技術や資金に加え、次世代を担う人材を継続的に呼び込むことが欠かせない。本セッションでは、フィクションが生み出した宇宙への憧れが、現実の進路や仕事にどのような影響を与えてきたのかを作品の様々なエピソードとともにたどる。
3. 商業宇宙と安全保障を含む国家宇宙活動の交差点

欧州宇宙機関のPascal Legai氏、アストロスケールホールディングスの岡田光信氏、東京大学公共政策大学院の鈴木一人氏らが登壇するセッション「地政学の時代に宇宙ビジネスにおけるグローバリズムと国家主権のあるべきバランスとは?」では、商業宇宙と安全保障を含む国家宇宙活動が交わる領域について議論する。
近年、衛星通信や地球観測、宇宙状況監視などの宇宙技術は、民間サービスの基盤であると同時に、安全保障や災害対応、重要インフラの強靭化にも関わるものとなっている。宇宙事業の国際展開が進む一方で、各国は自国の宇宙能力を戦略的な資産として捉え、制度や調達、技術管理を通じた関与を強めている。
本セッションでは、各国が宇宙能力を戦略的に活用するために必要な政策やビジネスモデルの在り方、安全保障や社会の強靭性に貢献する国際的な宇宙の連携基盤について、産官学の視点から考察。国境を越えた事業展開と、自国の安全保障・主権の確保をどう両立させるかは、商業宇宙が成長するうえで避けて通れない論点である。
4. 宇宙挑戦を経験した田村淳氏と語る、民主化への課題と展望

「Atsushi Space Challenge」として宇宙への挑戦を経験したタレントの田村淳氏と、そのミッションを技術面から支援したたすくの大熊隼人氏らが登壇する「宇宙ビギナーの大きな挑戦が伝える宇宙ビジネスの本質とは何か?」は、宇宙業界の外から挑んだリアルが語られるセッション。
宇宙産業が持続的に成長するためには、既存の宇宙企業や専門人材だけでなく、異業種企業や新たな担い手が関わりやすい環境をつくることも重要となる。
本セッションでは、「宇宙業界はビギナーに開かれているか」「宇宙業界の裾野を広げるために考えるべきこと」を軸に、宇宙産業の民主化への課題と展望を議論。宇宙をより多くの企業や人にひらいていくうえで、どのような課題があるのかを考える機会となりそうだ。

出展企業ピックアップ
SPACETIDE2026ではセッションだけでなく、企業による展示スペースにも注目である。ここでは、宇宙産業を支える技術、データ活用、素材分野の企業3社をピックアップし、ご紹介する。
1. エイチ・ティー・エル株式会社
エイチ・ティー・エル株式会社(HTL)は、半導体関連装置やソフトウェア、金属3Dプリンタなどを扱う技術商社である。宇宙分野では超小型衛星・宇宙機器も展開している。
超小型衛星向けには、AAC Clyde Space社の製品を取り扱っており、6U CubeSat向けの衛星バス、50〜150kg級の衛星バス、C&DH、電源制御・配電関連のコンポーネントなどを紹介。衛星の目的や仕様に応じた機器選定を支援する。
また、HTLは衛星向け機器だけでなく、金属3Dプリンタなどの製造技術も提供している。宇宙機そのものを開発する企業の背後で、必要な機器や装置をつなぎ、宇宙産業の開発・製造基盤を支える企業である。
2. 株式会社デジオン
株式会社デジオンは、衛星データや位置情報セキュリティの分野で宇宙関連事業に取り組む企業である。
同社は、衛星観測データを活用する取り組みとして「DiXiM Imaging AI」を展開している。これは、SAR画像や光学画像などの衛星データに対して、独自のAIモデルを用いることで、視認性の向上や超解像化を図るものだ。特に、SARデータは夜間や悪天候でも観測しやすい一方、読み取りには専門性が求められる。デジオンは、生成AIを活用してデータをより直感的に扱える形へ変換し、利用場面の拡大を目指している。
準天頂衛星システム「みちびき」を活用した位置情報セキュリティにも取り組む。自動運転やドローン、スマートフォン、重要インフラなどで測位情報の利用が広がるなか、なりすましや改ざんへの対策は重要性を増している。衛星データの利活用と位置情報の信頼性向上の両面から、宇宙利用の社会実装を支える企業である。3. 長谷虎紡績株式会社
長谷虎紡績株式会社は、岐阜県羽島市に本社を置く紡績会社であり、高機能繊維の開発・加工を通じて日本の宇宙開発を支えている。同社は、フェノール系ノボロイド繊維「カイノール」を扱い、耐熱性や耐薬品性が求められる宇宙用途の部材に活用している。
同社のカイノールカーボンは、小惑星探査機「はやぶさ」シリーズの再突入カプセルに使われるヒートシールドのほか、H-II、H-IIA、H-IIB、H3ロケットの固体燃料ブースター、イプシロンロケットの噴射ノズルなどに用いられてきた。これらの部位は高温の燃焼ガスや大気圏再突入時の熱にさらされるため、機体を守る耐熱材の性能が重要になる。
長谷虎紡績の強みは、扱いが難しいカイノールを糸へ加工する紡績技術にある。カイノールは強度が低く伸びにくいため、安定して糸にするには高度な調整と長年のノウハウが必要とされる。素材そのものだけでなく、宇宙機やロケットに使える形へ加工する技術によって、宇宙開発を支えているのだ。
SPACETIDE 2026で考える、宇宙と地上産業の次の成長機会
宇宙産業は長らく、安全保障や科学技術力の向上といった国家戦略と強く結び付いて発展してきた。一方、商業宇宙が拡大する現在は、宇宙技術を保有すること自体ではなく、それを地上の産業や社会の課題解決にどう組み込むかが重要になっている。
衛星通信、測位、地球観測データなどは、通信の安定化、物流の効率化、災害対応、農地やインフラの管理、金融・保険におけるリスク把握など、地上の事業活動を支える基盤になりつつある。宇宙技術の市場が広がるのは、利用する側にも、業務や意思決定を改善する経済的な価値が生まれるためである。
ただし、宇宙技術の導入は、衛星データや通信サービスを利用するだけで完結しない。既存の業務システムや現場の運用に組み込み、判断の速さや精度、コスト、リスクをどこまで改善できるかが問われる。宇宙技術を「新しい情報源」として扱うだけでなく、日常の業務や意思決定を変える仕組みとして定着させられるかが、利用する企業側にとっての重要な論点となる。
宇宙事業では、技術の性能だけでなく、誰のどの課題を解決し、どのような収益につながるのかまで示すことが求められる。SPACETIDE 2026では、宇宙技術を地上の産業や社会の成長にどう結び付け、投資を継続的な収益へどう変えていくかという具体策が議論されるだろう。
さいごに
SPACETIDE 2026は、宇宙技術の最新動向に触れるだけでなく、政策、AI、安全保障、人材、異業種連携といった幅広い視点から、宇宙ビジネスの次の成長機会を考える場となる。
宇宙産業では、技術を開発するだけでなく、それを誰のどの課題に結び付け、持続的な事業へ育てていくかがより重要になっている。国内外の関係者が集まる4日間を通じて、自社にとっての事業機会や連携の可能性を見つめ直す機会になるだろう。
宇宙分野で新たな事業を検討している企業はもちろん、宇宙技術を自社の課題解決や成長戦略に活用したい企業にとっても、注目すべきカンファレンスといえる。











