
2026年7月28日、INCLUSIVE Holdings株式会社(以下、INCLUSIVE)の子会社であるLAND INSIGHT株式会社(以下、LAND INSIGHT)は、中山間地域の農地維持を支援する実証事業を開始したことを発表した。
本実証は、福島県南相馬市、Penguin Labs合同会社(以下、Penguin Labs)と共同で実施。衛星データ等の分析により、「中山間地域等直接支払制度」の対象となり得る農地を可視化し、制度活用の働きかけ支援と行政業務の負担軽減を目指す。
本記事では、中山間地域等直接支払制度が十分に活用されていない背景と、衛星データやAIを用いて制度活用を支援する実証の仕組みを解説する。
なぜ農地支援制度が届いていないのか
中山間地域等直接支払制度とは
中山間地域等直接支払制度は、平地と比べて農業の生産条件が不利な中山間地域を対象とする国の支援制度である。
一定の要件を満たす農地で農業生産活動を続ける集落などに交付金を支払い、耕作放棄地の発生防止や水路・農道の管理、農地の維持などを支援する。農林水産省は、同制度の実施状況を毎年度取りまとめており、2024年度の交付総額は約531億円に上る。
対象となり得る農地の6割超で制度が未活用
一方、制度の対象となる可能性がある農地すべてで、交付金が活用されているわけではない。
農林水産省の推計によると、対象となり得る田のうち制度が実施されている割合は、急傾斜農地で約5割、緩傾斜農地で約3割にとどまる。
両者を合わせると、対象となり得る田78万9,000haのうち、制度が実施されている面積は28万3,000haで、約36%にすぎない。計算上は、6割を超える農地で制度が活用されていないことになる。
背景には、農業従事者の高齢化や担い手不足だけでなく、制度の認知不足、集落内での合意形成、申請書類の作成といった負担がある。
さらに、従来は集落側からの申請を受けて行政が手続きを進める仕組みが中心だった。このため、制度を知らない集落や、申請する余力がない集落には、支援が届きにくいという課題があった。
国が進める「プッシュ型支援」への転換
こうした状況を受け、農林水産省は2026年6月、2027年度からの水田政策の見直しに関する方針を取りまとめた。
中山間地域等直接支払制度については、集落からの申請を待つ従来の運用から、行政側が対象となり得る地域を把握し、制度の活用を働きかける「プッシュ型支援」へ転換する方向性が示されている。
ただし、市町村が集落へ制度の活用を提案するためには、どの農地が交付要件を満たす可能性があるのか、どの地域で制度が利用されていないのかを事前に把握しなければならない。
広い範囲に点在する農地を職員が一筆ずつ確認するには、多くの時間と人手が必要になる。
そこで南相馬市、LAND INSIGHT、Penguin Labsは、衛星データやAIを使って対象候補を絞り込み、行政による働きかけを支える仕組みを構築する。

衛星データで対象農地の特定から申請まで支援
本実証では、南相馬市内の旧石神村と旧上真野村にある約1万2,000筆の農地を対象に、交付対象候補農地の抽出から申請関連業務までを支援する仕組みを構築・検証する。
国土地理院の標高データや衛星データをAIで分析し、農地の傾斜やまとまりを判定することで、交付要件を満たす可能性がある農地を一筆単位で抽出する。
さらに、現在の交付状況と照合して制度が活用されていない地域を特定するほか、年間および5年間の交付見込額を試算。抽出した農地情報を申請や関連業務に活用し、生成AIによる申請書類の作成支援なども検討する。
これにより、南相馬市が優先的に制度活用を働きかける地域を絞り込み、農地の確認や制度説明、申請にかかる行政側の負担軽減を目指す。

実証では、南相馬市が実証場所や関連データを提供し、集落への働きかけや運用方法を検証する。
Penguin Labsは、衛星・地形データとAIを活用した可視化システムを開発する。傾斜区分や連担を判定する仕組み、交付見込額の試算、生成AIによる申請書類の自動作成機能を担当し、同社の地理空間情報基盤「TWINZ Plus」の技術を活用。
LAND INSIGHTは、自治体や交付金を活用する集落への聞き取り調査を行い、現場の課題整理や制度要件との適合性を検討する。

全国の自治体への展開を目指す
3者は南相馬市で実証の有効性を検証した後、中山間地域を抱える全国の自治体への導入を目指す。
LAND INSIGHTは、農業行政における現地調査を効率化するサービス「圃場DX」を、2026年2月時点で全国120以上の自治体に展開している。
同社はこれまで蓄積してきた自治体支援の知見を生かし、現地調査の効率化だけでなく、利用可能な制度を行政側から住民へ届ける領域へ、農業行政DXの対象を広げる方針だ。
Penguin Labsも、本実証で構築する解析・AI基盤を同社の地理空間情報基盤「TWINZ Plus」の機能として汎用化し、中山間地域等直接支払制度以外の農業行政業務や、国内外の農地評価への活用を進める。
衛星データの活用先は、農作物の生育状況の把握や収量予測だけではない。広範囲の農地を客観的に分析し、行政が支援すべき地域を見つける手段としても、利用が広がり始めている。
さいごに
南相馬市で始まる本実証は、衛星データやAIを活用し、中山間地域等直接支払制度の対象となり得る農地を可視化する取り組みである。
これまで申請を待つ形が中心だった制度運用に対し、行政側が未活用地域を把握し、制度の利用を働きかける「プッシュ型支援」を現場で実装する点に特徴がある。
対象候補農地の抽出や交付見込額の試算、申請関連業務の効率化までを一体的に支援できれば、自治体職員の負担軽減だけでなく、これまで制度を活用できていなかった集落へ支援を届けやすくなる可能性がある。
今後、南相馬市で有効性が確認され、全国の自治体へ展開されれば、衛星データは農地の状況を把握するだけでなく、行政支援の対象を見つけ、必要な制度につなげる手段としても活用が広がるだろう。
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