NASAのローマン宇宙望遠鏡、8月30日打ち上げへ|ハッブルの100倍の視野で宇宙を観測
©Space Connect

NASAは、次世代宇宙望遠鏡「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」の打ち上げを、2026年8月30日以降に実施する予定である。

本記事では、ローマン宇宙望遠鏡の打ち上げ準備状況や機体の特徴、観測目的について解説する。

ローマン宇宙望遠鏡が打ち上げ前の最終準備へ

ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡(以下、ローマン宇宙望遠鏡)はSpaceXの大型ロケット「Falcon Heavy」によって、米国フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターの第39A発射施設から打ち上げられる。現時点における打ち上げ日時は、米国東部夏時間の8月30日午前7時20分、日本時間の同日午後8時20分

ローマン宇宙望遠鏡は2025年11月、NASAゴダード宇宙飛行センターで望遠鏡部分と宇宙機部分の結合を完了。その後、打ち上げ時の振動や宇宙空間の厳しい環境に耐えられることを確認する試験などが行われ、2026年6月21日には、NASAの輸送船「ペガサス」によってケネディ宇宙センターへ到着した。

現在は打ち上げに向けて機体の点検や機能確認、ロケットへの搭載に向けた作業など、最終準備が進められている。

今後は、推進剤となる約1,100リットルのヒドラジンを搭載し、Falcon Heavyとの接続に使用するアダプターを取り付ける。その後、ローマン望遠鏡を保護するフェアリングに格納し、ロケット本体と結合する予定だ。

NASAは当初、2027年5月までの打ち上げを計画上の基準としていたが、開発が順調に進んだことから、ローマン宇宙望遠鏡の打ち上げは当初の期限より約9カ月早まっている。※1

項目 内容
打ち上げ予定2026年8月30日
打ち上げロケットSpaceX Falcon Heavy
運用場所太陽・地球系の第2ラグランジュ点周辺
主要ミッション期間5年間
延長を含む運用目標最大10年間
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ローマン宇宙望遠鏡とは

ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡は、暗黒エネルギーや暗黒物質、系外惑星など、宇宙に残された大きな謎を調査するためにNASAが開発した宇宙望遠鏡である。

NASA初の主任天文学者であり、宇宙望遠鏡を利用した天文学の発展に貢献し、ハッブル宇宙望遠鏡の実現にも重要な役割を果たした「ハッブルの母」こと、ナンシー・グレース・ローマン氏にちなんで命名された。

ローマン宇宙望遠鏡の主な仕様は以下の通りである。

項目内容
主鏡の直径2.4m
主な観測波長可視光・近赤外線
搭載装置広視野観測装置、コロナグラフ装置

ハッブル宇宙望遠鏡の100倍以上の視野

ローマン宇宙望遠鏡の主鏡は直径2.4m。ハッブル宇宙望遠鏡とほぼ同じ大きさである。

ローマン宇宙望遠鏡は、可視光から近赤外線までの波長で、広範囲を効率よく調査する。

約3億画素の「広視野観測装置(Wide Field Instrument:WFI)」を搭載し、ハッブル宇宙望遠鏡と同程度の感度と赤外線解像度を保ちながら、少なくとも100倍広い範囲を一度に捉えられる

この広い視野により、ハッブルと同程度の細かさの観測を最大1,000倍の速さで進められる。数十億の天体を観測し、宇宙の大規模構造や天体の時間変化を効率よく調べることが可能になる。

一方、ハッブル宇宙望遠鏡は、紫外線、可視光、近赤外線を観測でき、個々の天体を詳しく調べることに強みを持つ。両者の観測結果を組み合わせることで、広域観測と詳細観測を相互に補いながら、宇宙の構造や天体の性質をより詳しく明らかにできるだろう。※2

地球から約150万km離れたL2で運用

打ち上げ後のローマン宇宙望遠鏡は、地球から約150万km離れた太陽・地球系の第2ラグランジュ点「L2」へ向かい、その周囲を回る準ハロー軌道で運用される。

L2周辺では、太陽、地球、月を望遠鏡から見てほぼ同じ方向に保ちやすく、機体への光や熱の影響を抑え、観測装置の温度を安定させやすい。そのため、高精度な観測に適した環境を確保できる。

L2周辺では、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や欧州宇宙機関のユークリッド宇宙望遠鏡も運用されている。

ローマン宇宙望遠鏡の主要ミッション期間は5年間で、さらに5年間の延長運用を支えられるよう設計されている。

暗黒エネルギーや系外惑星を調査

ローマン宇宙望遠鏡の主要な科学目標は、宇宙の膨張に関係すると考えられている暗黒エネルギーの性質を調べることと、太陽系外に存在する惑星を大規模に調査することである。

広い視野を生かして多数の銀河や恒星を観測、宇宙の膨張の歴史や暗黒物質の分布、天の川銀河に存在する惑星の種類や分布を統計的に調べる。

宇宙の膨張と暗黒エネルギーを調査

現在の宇宙は膨張しており、その速度は時間とともに加速していると考えられている。その加速の原因として想定されているのが暗黒エネルギーであるが、その正体は明らかになっていない。

そこで、ローマン宇宙望遠鏡は、主に次の3つの方法で宇宙の膨張の歴史を調べる。

  • 銀河の分布に残る「バリオン音響振動」の痕跡の測定
  • 明るさから距離を推定できるIa型超新星の観測
  • 重力によって遠方銀河の像がわずかにゆがむ「弱い重力レンズ効果」の測定

多数の銀河や超新星を観測することで、宇宙の膨張速度が時代とともにどのように変化してきたのかを調べるとともに、弱い重力レンズ効果から、光では直接確認できない暗黒物質の分布も推定する。

暗黒物質がどのように集まり、銀河や宇宙の大規模構造を形成してきたのかを調べることで、暗黒エネルギーの性質を探る手掛かりが得られる可能性がある。※3

系外惑星の調査と技術実証

重力マイクロレンズで系外惑星を発見

ローマン宇宙望遠鏡は、天の川銀河の中心方向にある約1億個の恒星を繰り返し観測し、系外惑星を探す。

主に使用する方法が「重力マイクロレンズ法」である。

手前にある恒星が、地球から見て遠方の恒星の前を通過すると、手前の恒星の重力によって遠方の恒星から届く光が一時的に増幅される。手前の恒星に惑星が存在する場合、光の変化に小さなずれが生じるため、その特徴から惑星の存在を推定できる。

手前の恒星と惑星の重力によって、遠方の恒星から届く光が一時的に増幅される(Credit:NASA’s Goddard Space Flight Center/CI Lab)

重力マイクロレンズ法は、恒星から離れた軌道を回る惑星や、特定の恒星に属さず宇宙空間を移動する「自由浮遊惑星」の発見にも適している。

NASAは、ローマン宇宙望遠鏡の重力マイクロレンズ観測によって、約2,500個の惑星を発見できると見込んでいる。火星より小さい惑星を検出できる可能性もあり、これまでの観測では把握しにくかった惑星の分布を明らかにすることが期待される。

また、同じ観測データから、惑星が恒星の手前を通過した際に生じる明るさの低下も捉える。NASAは、この「トランジット法」によって約10万個の惑星が見つかると予測している。トランジット法は恒星の近くを回る惑星を見つけやすく、恒星から離れた惑星に強い重力マイクロレンズ法と組み合わせることで、幅広い惑星の分布を調べられる。

系外惑星を直接観測するコロナグラフ装置を実証

ローマン宇宙望遠鏡には、系外惑星を直接撮影する技術を実証する「コロナグラフ装置」も搭載されている。

系外惑星は、自ら強い光を放つ恒星の近くに存在するため、通常は恒星の光に埋もれて観測しにくい。コロナグラフ装置は、マスクや変形可能な鏡などを利用して恒星の光を抑え、周囲を回る暗い惑星や恒星の周囲に広がる円盤を捉えることができる。

ローマンに搭載されるコロナグラフ装置は、将来の宇宙望遠鏡に必要な技術を確立するための実証装置として位置付けられており、実証に成功すれば、恒星の光を高精度に取り除き、系外惑星から直接届く光を分析する技術が大きく前進する。

成果は、将来の宇宙望遠鏡による地球に似た岩石惑星の直接撮影や大気観測につながると期待されている。※4

さいごに

ローマン宇宙望遠鏡は、ハッブル宇宙望遠鏡よりも100倍以上広い視野を備えており、広大な宇宙を効率よく調べられることが大きな特徴である。

ローマン宇宙望遠鏡が取得する広範囲かつ高精細なデータは、暗黒エネルギーや系外惑星だけでなく、恒星、銀河、ブラックホール、太陽系天体など、幅広い研究に利用される見通しだ。

観測開始後は、広域調査を担うローマンと、個々の天体を詳しく観測するハッブルやジェイムズ・ウェッブがそれぞれの強みを生かし、宇宙の構造や進化の解明を進めることが期待される。

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参考

※1:NASA「Roman Launch Preparations Proceed」

※2:NASA「Why the Roman Space Telescope?」

※3:NASA「Dark Energy」

※4:NASA「Roman Coronagraph」

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