
2025年5月22日、大阪・関西万博のオーストラリア館で「オーストラリア宇宙産業フォーラム」(基調講演やラウンドテーブルなど)が開催された。
本記事では、同日に行われたオーストラリア初の宇宙飛行士・Katherine Bennell-Pegg(キャサリン・ベネル-ペッグ)氏の高等学校訪問講演の内容もあわせて紹介する。
開催趣旨
世界的な宇宙産業の急発展に伴い、オーストラリア政府は2018年に「オーストラリア宇宙庁(Australian Space Agency、以下ASA)」を設立し、およそ64億豪ドル(1豪ドル=約90円、約5,760億円相当)に成長した国内宇宙産業をさらに拡大する方針を掲げている。
2020年にはASAとJAXA( =宇宙航空研究開発機構)が宇宙利用に関する協力覚書を締結するなど、日豪のパートナーシップも着実に進展してきている。
本イベントは、こうした両国間の協力をいっそう推進し、官民連携による宇宙開発・宇宙産業の可能性を示す場としてオーストラリア大使館商務部より開催されたものである。
日豪宇宙産業フォーラムの概要
大阪・関西万博のオーストラリア館で実施された本フォーラムでは、豪州と日本の宇宙分野におけるパートナーシップの更なる強化を目的に、多様なプログラムが実施された。
第一部では、国内外の要人によるご挨拶や基調講演、2025年に予定されている重要な宇宙関連イベントの紹介が行われ、第二部では、参加企業によるラウンドテーブルディスカッションとネットワーキングが実施された。
オーストラリア宇宙庁 長官の声明
ASAの長官であるEnrico Palermo(エンリコ・パレルモ)氏は、今回のスピーチで、日豪両国の宇宙産業協力が近年一層の盛り上がりを見せていることに触れ、今後の国際的な連携の重要性を強調した。

まず、宇宙開発は複数の国や機関が協力するチームスポーツであり、技術や打上げ機会の共有を通じて各国の宇宙活動がさらに発展していくと主張、特に日本との関係は、今後も継続的に拡大していく見込みであると声明を発表した。
オーストラリアの宇宙産業は、世界水準の研究機関と安定した規制環境を背景に、近年大きな成長を遂げつつある。衛星による通信や画像処理、宇宙状況監視(SSA)、ロボティクス、ナビゲーションなど多彩な分野で新技術が台頭しており、とりわけスタートアップや中小企業が活発に事業を展開している。民間からの投資も増加傾向にあり、宇宙関連テクノロジーへ向けたプライベートエクイティ投資が大幅に伸びている点も注目に値すると主張した。
さらに、パレルモ氏は主要プロジェクトとして、NASAやJAXAと連携する月・火星探査(Artemis計画やMMX [※1])を挙げ、各国との協力によって実現している科学技術の成果について言及した。オーストラリア政府が推進する「International Space Investment Projects Program」などの投資支援策により、人工衛星の開発・製造や宇宙機器関連の研究開発が活性化している点も指摘した。
今後の展望としては、国際連携によってオーストラリアの打上げ能力や宇宙探査の技術基盤をさらに拡充し、国内外の企業・研究機関とのパートナーシップを一層強化していく方針を示した。2025年に予定されている各種宇宙イベントや、日本国内で開催されるカンファレンスにもオーストラリアの宇宙関連企業が積極的に参加し、新たなビジネスチャンスを開拓していくという。
日豪のみならず世界規模でイノベーションを起こすには、多様なプレイヤーが協力し合う仕組みが不可欠であり、宇宙分野でその連帯をいっそう深めていきたいというのが同氏のメッセージであった。
[※1] MMX(Martian Moons eXploration)は、JAXAが2024年の打ち上げを予定している火星衛星探査計画のこと。火星が持つ2つの衛星のうち「フォボス」から表層物質を採取し、そのサンプルを地球へ持ち帰ることを目指している。2022年に西オーストラリア州パースで開催された日豪首脳会談においても、日本とオーストラリア両政府はMMXカプセルの豪州着陸支援を共同声明として発表している。
JAXA 宇宙戦略基金事業部 伊奈康二氏の声明
日本側の声明としては、JAXA宇宙戦略基金事業部 企画推進課長の伊奈康二氏が登壇し、安全保障を確保しつつ世界規模の課題に取り組むためには、オーストラリアをはじめとする他国との積極的な連携を視野に入れる必要があると主張した。
同氏は、宇宙技術が直接的に国家や経済の安全保障につながるとの見解を示し、技術協力のパートナー選定には慎重を期す必要がある一方で、宇宙サイエンスの発展が地球規模の問題解決につながる可能性を見据えるのであれば、国際連携はむしろ加速させるべきだという立場を表明した。
また、国が設置する宇宙戦略基金の海外企業での活用方法については、基金を獲得した日本企業との連携などが考えられると説明しつつも、海外企業が直接的に資金を得るための仕組みに関しては、補助金制度の詳細や運用枠組みが現在検討段階にあるため未確定だと述べた。
伊奈氏自身、「詳細はまだ話せない」と前置きしながらも、今後の政策発表次第では企業にとって使いやすい資金調達の選択肢が広がるだろうと期待を示していた。

日豪注目の宇宙カンファレンスを3つ紹介
フォーラム内では、日豪の宇宙関連企業と接点が持てる重要な場として、2025年に開催される「SPACETIDE 2025」「NIHONBASHI SPACE WEEK 2025」「International Astronautical Congress(IAC) 2025」の3つの宇宙関連イベントが紹介された。
1. SPACETIDE 2025(日本)
2015年より年次開催している、日本発・APAC地域最大級の国際宇宙ビジネスカンファレンス。世界中から注目を集める宇宙ビジネスの国際プラットフォームとして、スタートアップから大手企業、投資家、官公庁・自治体に至るまで、産官学のトッププレイヤーが国内外から一堂に会する。商業宇宙政策やデュアルユースに加え、投資、次世代人材、宇宙の民主化といった新たな視点からも、宇宙産業の未来を多角的に議論する見込みだ。
開催日程(予定): 2025年7月7日(月)~7月10日(木)
特徴:
- 宇宙産業を中心に、さまざまな産業界の最前線で活躍する国内外の専門家や経営者が多数登壇。
- 欧米・アジアをはじめと世界中から参加者・登壇者が集い、日本発ながら4割以上が海外から参加の国際色豊かなカンファレンスとして国内随一の地位を確立。
- 常に変化する世界情勢を捉え、宇宙分野における最先端のビジネス・技術・政策トレンドを、グローバルかつタイムリーに取り上げる未来志向の議論をリード。

2. NIHONBASHI SPACE WEEK 2025(日本)
東京・日本橋エリア一帯を会場として、展示会やセミナー、ワークショップ、スタートアップのピッチセッションなど多岐にわたるプログラムが展開される都市型の宇宙関連イベント。来場者はビジネスパーソンから学生、一般市民まで幅広く、宇宙分野に関心を持つ多様な層が参加する。
開催日程(予定): 2025年10月28日(火)~10月31日(金)
特徴:
- 商業施設やイベントスペースを活用した催しが多く、一般参加者でも気軽に宇宙関連テクノロジーに触れられる。
- 国内企業・研究機関だけでなく、近年は海外企業や政府関係者の参加も増加しており、国際色が強まっている。
- 宇宙技術と地域活性化・まちづくりを結び付けた取り組みが注目を集め、今年はさらに充実したプログラムが計画されている。
3. International Astronautical Congress 2025(オーストラリア)
国際宇宙航行連盟(IAF)が主催する世界最大級の宇宙カンファレンス。2025年はオーストラリア・シドニーでの開催が決定しており、世界中から宇宙機関(NASA、ESA、JAXA、オーストラリア宇宙庁など)や企業、学術機関、学生など数千人が一堂に会する一大イベントとなる。
開催日程: 2025年9月29日(月)~10月3日(金)(シドニー)
特徴:
- 各国の宇宙機関が探査ミッションや最新の開発動向を発表し、国際的な協力関係を深める場となっている。
- ロケットや衛星、宇宙探査、サステナビリティ、ビジネス、法律など、宇宙に関する多岐にわたるテーマが議論される。
- ネットワーキングや企業展示ブースも充実しており、世界規模でのビジネスチャンスや研究協力の機会が広がる。
豪州初の宇宙飛行士が大阪の公立高校に来訪
本フォーラムとは別で豪州初の宇宙飛行士、Katherine Bennell-Pegg(キャサリン・ベネル-ペッグ)氏が大阪府立水都国際高等学校にて、自身の経験談や宇宙飛行士を目指す上での訓練に関する講演を実施。
今回の講演は、「日豪の垣根を超え、次世代の社会を担う若者に科学技術の魅力を伝えたい」というキャサリン氏の強い思いにより、日本の公立高校での実施が実現した。

キャサリン氏が若者に伝えたかったこと
キャサリン氏は、講演にて豪州初の宇宙飛行士になれた理由として、高校生のうちから意識しておいた方が良いポイントを4つ挙げていた。
宇宙飛行士に限らず、ある道のプロフェッショナルを目指す上で全てに通ずる重要な内容であるとの前置きのもと、終始笑顔で語っていた。
1. 多様な体験に基づく人間形成が未来を作る
宇宙飛行士に求められるのは単なる学力だけではなく、スポーツのようなチーム活動や外国語学習、ハイキングなどの多様な体験を通じた人間力であると主張。
チームワークやコミュニケーション能力、さらには環境や文化の違いに適応する力を高校の段階から積極的に取り組む必要がある。
2. 快適な環境から抜け出す意思を持て
常に居心地の良い場所にとどまっていては新たな能力は決して身につかない。未知の領域に挑む姿勢こそが、大きな成長をもたらす。

3. 明確な目的意識が困難な道を切り開く
単に「何になりたいか」ではなく、「どんな問題を解決したいのか」を強く意識することで、自らが進むべき道がより具体的になると主張。
大胆かつ明確な目標を具体的に掲げ、自分から積極的に動いてこそチャンスをつかむことができるという。
4. 既成概念や周囲の評価に縛られるな
「クラスで1番でなくても問題ない」「高校の時も私自身は外れ値であった」と自らの経験を挙げ、型にはまらない個性や多様な視点こそが宇宙飛行士としての適性につながると説いた。
最終的に大事なのは自分のパフォーマンスを示す熱意と根性であり、その道を進むにあたり、既成概念や周囲の評価に縛られることなく、自信を持って行動し続けることが重要である。
さいごに
いかがでしたか。
日豪間では、2020年の宇宙利用に関する協力覚書の締結をはじめ、宇宙分野での連携がますます強まってきている。これを機に、日本だけでなくオーストラリアの宇宙関連情報にも注目し、両国のパートナーシップがどのように発展していくのかを追ってみてはいかがだろう。
なお、本記事でも紹介した「SPACETIDE」は、7月7日から7月10日まで開催されます。国際的に活躍する主要メンバーと直接会えるまたとない機会ですので、宇宙関連ビジネスや研究に興味のある方はぜひ参加をご検討ください。現在はチケットの価格も割安になっています。最大45%OFFの割引は5月31日まで。詳しくは下記のイベント情報をチェックしてみてください。
補足:
オーストラリア宇宙庁(Australian Space Agency )
2018年にオーストラリア政府が設立した宇宙機関。国内外の官民連携を通じて宇宙産業の成長を目指している。推定で約64億豪ドル規模に達した同国の宇宙分野は、地理的に恵まれた打ち上げ拠点や新技術開発の拠点としての強みを持ち、今後もさらなる拡大が期待されている。
Enrico Palermo (エンリコ・パレルモ)氏
2021年1月にオーストラリア宇宙庁長官に就任、NASA との月探査機ミッションに向けた月面探査車の開発や豪州初の商用打ち上げなど、いくつかのマイルストーンを達成している。宇宙庁に入庁する以前はVirgin Galactic社で最高執行責任者(COO)の地位に就いており、14 年間有人商業宇宙船の開発に携わっていた。Enrico氏はストラスブールの国際宇宙大学で学び、西オーストラリア大学で機械工学、物理学、応用数学の学位を取得、同大学から名誉博士号も授与されている。
Katherine Bennell-Pegg (キャサリン・ベネル-ペッグ)氏
オーストラリアの宇宙飛行士ならびに宇宙システムエンジニア。2023 年にドイツの欧州宇宙機関で宇宙飛行士訓練を開始し、2024 年 4 月 に国際宇宙ステーションのミッションに参加する資格を得た。オーストラリア宇宙庁から宇宙飛行士の資格を得た初めての人物である。科学と工学の分野で 4 つの学位を取得しており、有人宇宙飛行を研究者や産業界に役立て、次世代にインスピレーションを与えることを目指している。