
近年、宇宙開発の現場では、金属3DプリンタをはじめとするAM技術(積層造形)の活用が広がっている。
本記事では、金属3Dプリンタを中心に、宇宙開発で活用が進む背景や主な造形方式、国内外の企業における活用事例を紹介する。
目次
金属3Dプリンタとは
金属3Dプリンタとは、金属材料の層を付加しながら立体的な部品を造形する製造装置である。
一般的な金属加工では、金属の塊を削り出したり、複数の部品を加工・接合する方法が使われる。一方、金属3Dプリンタでは、設計データをもとに金属粉末や金属ワイヤーなどの材料を少しずつ積層し、目的の形状を作り上げていく。
このように、材料を付加して部品を造形する製造方法は「AM」とも呼ばれる。AMは Additive Manufacturing の略で、日本語では積層造形と訳されることが多い。金属3Dプリンタは、金属材料を用いるAM技術を実現する代表的な装置の一つである。
金属3Dプリンタは、複数の部品を一体で造形することが可能であるため、部品点数や接合・組立工程を減らし、軽量化や製造工程の簡素化に貢献する。従来工法では作りにくい複雑な形状にも対応しやすい。
また、設計変更を反映した部品を比較的短期間で造形しやすいため、試作や検証を繰り返す開発工程の短縮も期待される。このため、航空宇宙、自動車、医療、エネルギーなど、精密で高性能な金属部品が求められる分野で活用が広がっている。

金属3Dプリンタが宇宙開発で注目される理由
高温・高圧に耐える強度や軽量性、複雑な内部構造への対応、厳格な品質管理が求められる宇宙開発では、金属3Dプリンタの活用は特に重要である。その主な理由としては、以下の2つが挙げられる。
理由1. 複雑な内部構造を持つ部品を軽量化しやすい
1つ目は、複雑な内部構造を持つロケット推進系部品を、一体で造形することで軽量化を図りやすい点である。
例えばロケットエンジンでは、燃焼によって発生する高温から部品を守るため、燃焼室やノズルの内部・周辺に冷却用の流路を設けることがある。また、推進剤を効率よく燃焼させるためには、インジェクターや配管部品にも高い設計精度が求められる。

こうした部品には、細く曲がりくねった内部流路や、薄い壁、複雑な曲面が含まれることが多い。従来の切削加工では、工具が部品内部の奥まで届かない形状もあるため、複数の部品に分けて加工し、最後に接合して組み立てる必要があった。その結果、部品点数や接合部が増え、構造全体の重量も増えやすい。
一方、金属3Dプリンタでは、材料を層ごとに付加しながら造形するため、複雑な冷却チャンネルや内部流路を持つ部品も、一体で作れる場合がある。これにより、複数の部品や接合部を減らし、必要な強度や機能を確保しながら軽量化を図れる可能性がある。
宇宙機やその部品の重量は、打上げ機の搭載余力に影響する。複雑な推進系部品を一体で造形して軽量化を図ることは、打上げ機の搭載能力を有効に使いやすくし、宇宙機に搭載できる機器や推進剤の余力確保にもつながる。
理由2. 開発サイクルを短縮し、量産性を高めやすい
2つ目は、設計・試作・試験・改良を繰り返す開発サイクルを短縮し、製造工程の安定化にもつなげやすい点である。
ロケットエンジンや推進系部品の開発では、設計した部品を製造して試験し、その結果を次の設計に反映する工程を何度も繰り返す。そのため、部品の製造にかかる時間は、開発全体のスピードに大きく影響する。
金属3Dプリンタでは、設計データをもとに部品を造形するため、設計変更を反映した試作品を比較的短期間で製造しやすい。従来工法では、新たな加工手順や専用の治具を検討する必要がある場合でも、金属3Dプリンタでは造形データを更新することで、次の試作へ移れる場合がある。
また、複数部品を一体で造形できる場合には、接合工程や接合部を削減できる。その結果、組立時の管理項目や接合部ごとの検査を抑えやすくなり、製造工程の標準化や品質の安定化につながる。こうした工程の安定化は、同じ部品を継続的に製造する量産段階でも重要である。
ロケットの打上げ頻度が高まり、宇宙機の開発・製造サイクルも短くなる中で、開発スピードと安定した製造体制を両立できることは、宇宙企業の競争力を左右する要素の一つである。

宇宙部品で使われる主な金属3Dプリンタ方式
金属3Dプリンタにはさまざまな方式があるが、宇宙機やロケット部品の製造で特に注目されるのは、LPBF方式、DED方式、WAAM方式である。
それぞれ得意とする部品のサイズや形状が異なるため、ロケットエンジンの精密部品から大型構造物まで、用途に応じて使い分けられている。
| 方式 | 特徴 | 主に使われる部品・用途 |
|---|---|---|
| LPBF方式 | 金属粉末を薄く敷き、レーザーで必要な部分だけを溶かして固める方式 | インジェクター、燃焼室、冷却流路を持つ部品、バルブ、複雑な小型部品 |
| DED方式 | 金属粉末やワイヤーを供給しながら、レーザーなどの熱源で溶かして積み上げる方式 | ノズル、燃焼室、大型エンジン部品、既存部品への追加造形・補修 |
| WAAM方式 (DED方式の一種) | 金属ワイヤーをアーク熱で溶かしながら積層する方式 | ロケット機体、推進剤タンク、大型構造物 |
LPBF方式
LPBF方式は、Laser Powder Bed Fusion の略で、金属粉末を薄く敷き、その上からレーザーを照射して必要な部分だけを選択的に溶かして固める方式である。粉末を敷く、レーザーで溶かす、造形台をわずかに下げる、という工程を繰り返すことで、設計データに沿って部品を造形する。

LPBF方式は、高い寸法精度が求められる部品や、複雑な内部流路を持つ部品にも対応しやすいことが特徴だ。ロケットエンジンでは、推進剤を燃焼室に送り込むインジェクターや、冷却流路を持つ燃焼室部品、ノズルなどの製造で活用される。
一方で、造形できるサイズは装置の造形エリアに左右されるため、大型構造物よりも、複雑で高精度な中小型部品に向いた方式といえる。
DED方式
DED方式は、Directed Energy Deposition の略で、金属粉末や金属ワイヤーを供給しながら、レーザーなどの熱源で溶かして積み上げる方式である。

LPBF方式のように、造形エリア全体へ金属粉末を敷く必要がないため、大型部品の造形に対応しやすい点が特徴だ。
また、部品全体を最初から造形するだけでなく、既存部品へ材料を追加したり、摩耗・損傷した部分を補修したりできる点も特徴である。必要な箇所にだけ材料を加える肉盛り造形にも活用できる。
ロケットエンジンでは、ノズルや燃焼室、大型の推進系部品などへの活用が進められている。高価で複雑な金属部品が多く使われるロケットエンジンでは、新たに部品全体を製造するだけでなく、部品の補修や既存部品への追加造形に使えることにも意義がある。
WAAM方式
WAAM方式は、Wire Arc Additive Manufacturing の略で、DED方式の一種として扱われることが多い。DED方式の中でも、金属ワイヤーを連続的に供給し、アーク(電気による高温の放電)で溶かしながら造形する点に特徴がある。

一度に積み上げられる金属量が比較的大きいため、部品を速く製造しやすく、ロケット機体や推進剤タンクなどの大型構造物の造形に向いている。
一方で、アーク熱はレーザーと比べて熱の影響が広がりやすく、造形したままでは高い寸法精度や滑らかな表面品質を確保しにくい場合がある。そのため、WAAM方式では、造形後に切削加工や表面仕上げを組み合わせ、最終的な形状や寸法精度を整える使い方が一般的である。
次世代の宇宙輸送では、ロケット機体やタンクなどの大型構造物をどれだけ効率よく製造できるかが重要になるため、WAAM方式は、そうした大型部品の製造コストやリードタイムを抑える技術として注目されている。
以上のように、金属3Dプリンタは方式によって得意分野が異なるが、宇宙部品では、精密な推進系部品にはLPBF方式、大型エンジン部品や補修にはDED方式、機体やタンクのような大型構造物にはWAAM方式という形で整理すると理解しやすい。
金属3Dプリンタを活用する海外宇宙企業
Rocket Lab
米国の宇宙企業であるRocket Labは小型ロケット「Electron」に搭載されるRutherfordエンジンで3Dプリント部品を活用している。
Rutherfordは、3Dプリント部品と電動ポンプを組み合わせたロケットエンジンだ。燃焼室、インジェクター、ポンプ、主推進薬バルブなど、推進剤の流れや燃焼効率、エンジンの信頼性に関わる主要部品に3Dプリント技術が使われている。
これらの主要部品は3Dプリントによって24時間で造形でき、従来工法と比べてエンジンの製造期間短縮につながっている。Rocket Labは2025年、Electronで年間21回の打ち上げを実施し、全ミッションに成功しており、3Dプリントを活用したエンジン製造は、こうした高頻度打上げを支える製造技術の一つと位置づけられる。
SpaceX
SpaceXも、ロケットや宇宙船の推進系で3Dプリント技術を活用している。
代表例が、Crew Dragonに搭載されるSuperDracoエンジンである。SuperDracoは、Crew Dragonの緊急脱出システムに使われるエンジンであり、打上げ台上や上昇中に異常が発生した場合、宇宙船を打上げ機から離脱させ、乗員を安全な場所へ退避させる役割を担う。
SuperDracoでは、エンジンの燃焼室に3Dプリント技術が使われている。燃焼室は高温・高圧の燃焼ガスにさらされるため、耐熱性や強度、冷却構造の設計が重要になる。SpaceXは、こうした高機能部品にAM技術を取り入れることで、複雑な形状の実現や製造工程の効率化につなげている。
Relativity Space
Relativity Spaceは、独自開発した大型金属3Dプリンタ「Stargate」を、ロケット製造の中核技術に据える米国の宇宙企業である。
同社は、Stargateを用いて、再使用型ロケット「Terran R」の機体構造やエンジン部品の製造を進めている。Terran Rには、3Dプリントで製造するAeon Rエンジンが採用される計画であり、Stargateは同ロケットの開発と量産を支える主要な製造設備として位置づけられている。
Rocket LabやSpaceXが主にロケットエンジンの特定部品へ3Dプリント技術を取り入れているのに対し、Relativity Spaceは、造形装置、材料、ロボット、ソフトウェア、製造データを組み合わせた製造基盤そのものを競争力の中核に据えている点が特徴である。
Ursa Major
Ursa Majorは、ロケットエンジンや固体ロケットモーター、極超音速機向けの推進システムを開発・製造する米国の航空宇宙・防衛企業である。
同社は、商業打上げ、極超音速飛行、国家安全保障、宇宙機の推進など幅広い用途に向けて製品を展開しており、デジタル製造やAM技術を製造基盤に取り入れている。
代表的な製品の一つである液体ロケットエンジン「Hadley」は、小型打上げ機や極超音速機向けに開発されている。Ursa Majorは、3Dプリントを活用した製造により、推進システムを短期間かつ拡張可能な形で供給する体制の構築を進めている。
ロケットエンジンや推進システムは、打上げ機・極超音速機・宇宙機の開発において重要な要素である。Ursa Majorのように、推進系の設計・製造を担う企業がAM技術を活用して供給能力を高めることで、顧客企業は推進システムをすべて自社で開発・製造する負担を抑えやすくなる。

日本でも進む宇宙開発の金属3Dプリンタ活用
金属3DプリンタやAM技術の活用は、海外のロケット企業だけでなく、日本の宇宙開発でも進みつつある。
代表例の一つが、H3ロケットの第1段エンジンであるLE-9である。LE-9では、金属3Dプリンタ技術を適用し、エンジン構造の簡素化やコスト低減につなげる取り組みが進められてきた。
また、将来宇宙輸送システム株式会社は、WAAM方式の金属AMを活用し、機体構造や推進剤タンクの製造に取り組んでいる。ロケットではエンジン部品だけでなく、機体やタンクのような大型構造物をどう効率よく製造するかも重要な課題になる。
さらに、国としても金属3Dプリンタの技術開発を進める研究開発を宇宙戦略基金で支援している。過去には株式会社ニコン、清水建設株式会社、三菱重工株式会社が採択され開発が進められている。
このように、金属3Dプリンタは海外のロケット企業だけでなく、日本の基幹ロケット開発や次世代宇宙輸送の分野でも重要な製造技術として活用が広がっている。
宇宙開発を支える金属3Dプリンタ関連企業
金属3DプリンタやAM技術を宇宙開発で活用するには、ロケットや宇宙機を開発する企業だけでなく、製造装置や加工技術、導入支援を担う企業の存在も重要である。
ここでは、日本の宇宙開発と関わりのある金属3Dプリンタ関連企業として、エイチ・ティー・エル、愛知産業の2社を紹介する。
エイチ・ティー・エル
エイチ・ティー・エルは、半導体製造装置や金属3Dプリンタ関連製品などを扱う技術商社・エンジニアリング企業である。
同社は、米国RPM Innovations社製のDED方式金属3Dプリンタ装置をJAXA向けに納入した。装置は三菱重工業に設置され、H3ロケットのエンジン開発・製造に用いられた。
DED方式は、大型部品の造形や既存部品への追加造形、補修に対応しやすい方式である。HTLが納入した装置については、H3ロケットのエンジン部品の開発・製造において、軽量化やコスト削減に貢献したとして、同社は2024年にJAXAから感謝状を受けている。
エイチ・ティー・エルは、海外製の先端製造装置を国内の宇宙開発現場へ導入し、ロケットエンジン部品の開発・製造を支える役割を担っている。
愛知産業
愛知産業は、溶接・接合技術や産業機械、金属加工関連の分野で事業を展開する企業である。
同社は、英国のWAAM専門企業であるWAAM3D社の日本総代理店として、WAAM方式に関する金属3Dプリンタ装置や関連技術を国内に展開している。WAAM3D社は、英国クランフィールド大学のAdditive Manufacturing研究チームからスピンアウトした企業であり、大型金属部品向けのWAAM技術、装置、ソフトウェアを手がけている。
宇宙開発の分野では、将来宇宙輸送システム株式会社(ISC)、WAAM3D社、クランフィールド大学との協業に参画し、WAAM方式による推進薬タンクの製造に取り組んでいる。2025年には、金属3Dプリンタで製造した国内最大規模の推進薬タンクについて、耐圧・気密試験を実施した。
ロケットでは、エンジン部品に加え、機体や推進剤タンクのような大型構造物をどう効率よく製造するかも重要な課題になる。愛知産業は、海外のWAAM技術などを日本の開発現場につなぎ、次世代宇宙輸送の製造基盤を支えている。
さいごに
金属3DプリンタなどAM技術は、宇宙開発における製造方法を大きく変えつつある。
Rocket Lab、SpaceXなど宇宙業界の中のトップレベル企業も、ロケットエンジンや推進系部品の製造に3Dプリンタを活用しており、日本でも、H3ロケットのLE-9エンジンや次世代宇宙輸送の分野でAM技術の活用が進んでいる。
今後、宇宙機の高頻度開発や量産が進むほど、複雑な部品を短期間で製造できるAM技術の重要性は高まる可能性がある。
その中で、HTLや愛知産業のように海外の先端装置を日本に導入し、宇宙開発の製造現場を支える企業にも注目が集まるだろう。
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