
2026年7月28日、三菱電機株式会社(以下、三菱電機)は、衛星や衛星搭載レーダーを開発する米国のスタートアップArray Labs, Inc.(以下、Array Labs)へ1,000万米ドルを出資したと発表した。
本記事では、今回の出資の概要と目的に加え、三菱電機が進める安全保障向け宇宙事業について解説する。
三菱電機がArray Labsへ1,000万ドルを出資
三菱電機は2026年7月24日、米国のArray Labsに1,000万米ドル(約16億円)を出資し、安全保障用途を中心とした情報提供サービスの事業化に向けて協業することで合意した。
Array Labsが同時期に実施した戦略的資金調達の総額は2,100万米ドル(約33億円)である。三菱電機の出資額はその約半分を占めており、資金調達の中核となる戦略的投資家として参加した。
資金調達には、既存投資家であるCatapult Ventures、Kompas VC、Y Combinatorなども参加している。

三菱電機とArray Labsによる今回の協業では、三菱電機が持つ衛星システムの開発力や製造技術と、Array Labsが開発するレーダー衛星、AMTI、3D地形データ技術を組み合わせる。
両社はこれらの技術を活用し、航空機などの空中移動目標に関する位置情報を提供するサービスを構築することで、安全保障分野における宇宙利用の拡大を目指すとしている。

Array Labsと宇宙ベースAMTIとは
Array Labsの概要
Array Labsは2019年に設立された、米国カリフォルニア州に拠点を置く宇宙スタートアップである。衛星搭載レーダーやレーダー衛星システムを開発し、将来的には自社衛星から取得した3D画像や解析データの提供を計画している。
同社の技術の特徴は、複数の小型レーダー衛星を近接して飛行(編隊飛行)させ、全体を1つの分散型センサーとして機能させる点にある。
一般的な単一衛星型のSARは、1機の衛星が電波を地表へ照射し、その反射波を受信して画像を生成する。一方、Array Labsは複数の送信機と受信機を離れた位置に配置する「マルチスタティック・レーダー」を採用している。

複数の衛星が異なる位置から反射波を捉えることで、観測性能や感度を高めるほか、1回の通過で3Dデータを取得することを目指している。
Array Labsは、こうしたレーダー技術を基盤に、次の3つの事業を展開している。
- 衛星事業者や防衛関連企業向けのレーダーペイロード
- 政府など顧客が保有・運用する専用レーダー衛星システム
- 自社衛星から取得する3D画像や解析データ
同社は2026年1月にも2,000万米ドルを調達しており、その時点で累計調達額は3,500万米ドルに達していた。※1 今回発表された2,100万米ドルを単純に加えると、公表された累計調達額は約5,600万米ドル(約90億円)となる。
宇宙ベースAMTIの仕組み
Array Labsが三菱電機との協業で活用を目指す技術の一つが、宇宙ベースAMTIである。
AMTIは「Air Moving Target Indicator」の略で、日本語では「空中移動目標表示」と呼ばれる。レーダーを使い、航空機など空中を移動している物体を検出・追跡する機能である。

従来の光学衛星やSAR衛星による地球観測では、地表や建物、船舶などを撮影した画像を提供する方式が中心となっている。
これに対してAMTIでは、背景となる地表からの反射と、移動する航空機からの反射を分離し、目標の位置、移動方向、速度などを継続的に把握することを目指す。

宇宙ベースAMTIが検討されている背景には、地上や航空機から空域を監視する既存のレーダーが抱える制約がある。
地上レーダーは、地球の曲率や山岳などにより電波を遮られるため観測範囲が制限される。また、海上など地上設備を設置しにくい場所では、十分な監視網を構築することが難しい。航空機に搭載する早期警戒管制レーダーは広い範囲を観測できるが、機体の運用コストや飛行可能な空域などに制約がある。
これに対し、衛星から観測する宇宙ベースAMTIは、地上の設備や航空機の飛行に依存せず、広い範囲を上空から観測できる。
主な用途として想定されるのは安全保障分野だが、将来的には民間航空機の運航状況の把握などに応用される可能性もある。
三菱電機が宇宙情報サービスを拡大
Array Labsは、宇宙ベースAMTIに関する空中飛行試験を実施した後、2027年から2028年にかけて複数のレーダー衛星を段階的に打ち上げる計画である。
同社はこの衛星コンステレーションを使い、宇宙ベースAMTIや3D地形データ取得技術を軌道上で実証する。
ただし、現時点ではAMTIを搭載した衛星コンステレーションが完成しているわけではなく、配置する衛星の数や、広い空域をどの程度の頻度で観測できるのかといった詳細も公表されていない。
したがって、今回の協業は完成済みのサービスを日本へ導入するものではなく、2027年以降の軌道上実証と将来の実運用を見据えた先行投資と位置付けられる。
今回の出資は、三菱電機が近年進めている宇宙情報サービス事業の拡大ともつながる。
同社は2024年12月、小型SAR衛星を運用するSynspectiveへ出資し、日本やアジア地域の安全保障機関に向けた衛星画像販売で協業。
さらに、2025年12月には複数の国内企業とともに防衛省の衛星コンステレーション事業を落札した。2026年7月には、世界各地の地上局をクラウド上で利用できるサービスを提供するインフォステラの完全子会社化も発表している。

今回のArray Labsへの出資を含めると、三菱電機は次のような機能を段階的に取り込んでいることになる。
- 衛星およびレーダーの開発・製造
- 衛星コンステレーションの構築
- SAR画像やAMTIデータの取得
- 地上局ネットワークによるデータ受信
- 安全保障機関への情報提供
三菱電機は、衛星やレーダーを製造して納入する従来型の事業に加え、衛星コンステレーションを運用し、取得した情報を継続的に提供するサービス型事業へ領域を広げていると考えられる。
さいごに
今回の出資で重要なのは、三菱電機が宇宙からの情報収集に「対象の動きを追う」という時間軸を加えようとしている点である。AMTIが実用化されれば、衛星データの価値は画像の解像度だけでなく、航空機などをどれだけ早く検出し、継続的に追跡できるかによっても評価されるようになる。
三菱電機は、SynspectiveのSAR画像、インフォステラの地上局ネットワークに、Array Labsの移動目標追跡技術を加えようとしている。これらを統合できれば、同社は衛星メーカーから、観測・通信・情報提供までを担う安全保障向け宇宙システム企業へと立場を広げる可能性がある。
今後は衛星の打ち上げだけでなく、実際の追跡性能や、日本の防衛システムへどこまで接続されるのかが注目点となる。
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参考
※1:Array Labs「Raises $20M to Scale Radar Manufacturing, Prepare for Launch」










