2024年9月25日、千葉工業大学は、高度技術者育成プログラムにおいて学生が開発した超小型人工衛星「SAKURA」が初期ミッションを達成したことを発表した。
この高度技術者育成プログラムは、拡大する宇宙産業を支えるため、宇宙で確実に動くものづくりができる人材育成を目的としたものである。
本記事では、このプログラムの詳細や、学生が開発した衛星の概要、そして今回達成されたミッションについてご紹介する。
目次
超小型人工衛星の広がり
現在、世界の宇宙産業は約54兆円の市場規模を持ち、2040年までに140兆円規模になると予測されている。
日本国内においても、政府は2020年に4.0兆円であった宇宙産業の市場規模を、2030年代早期には2倍の8.0兆円に拡大する目標を掲げ、大きな予算を投入して民間支援を強化。この結果、現在では多くの企業が宇宙開発・利用に力を注ぐ。
そのような環境の中、1辺が10cm単位の「キューブサット」と言われる超小型衛星が注目を集めている。2003年に東京大学と東京工業大学の研究室によって世界で初めて打ち上げられて以来、様々な国で多数のキューブサットが打ち上げられてきた。
超小型衛星は、電子技術・通信技術・電力技術の向上により一部の分野では大型衛星の性能にも匹敵。1機あたりの製造・打ち上げコストも削減可能であることから、多数の衛星を連携させて運用する「コンステレーション」の構築も世界で始まっている。
このような超小型衛星を利用して、新たな宇宙ビジネスに挑戦する企業が国内外で次々と誕生しているのだ。
千葉工業大学 高度技術者育成プログラム
技術者不足の解決を目指す
宇宙産業が拡大する中で、高品質な人工衛星の設計・製造・運用を現場で支える技術者の不足が課題となっている。
国内の大学・高等専門学校においても技術者教育の一貫として超小型衛星が使われてきたが、それらの取り組みは単一の研究室による散発的な取り組みにとどまってきた。
そこで、千葉工業大学は2021年度から宇宙産業を支える高度技術者の育成を目的とした新しい教育プログラムを開始した。
このプログラムは学部学科不問で参加可能で、2030年度までの10年間に最大で9機の衛星の設計・製造・試験・運用体験を取り入れる実践的な教育プログラムだ。
継続的に衛星プロジェクトを行う事により、同大学で学ぶ学生・大学院生に技術とノウハウを蓄積すると同時に、教員側にも衛星設計・製造・試験・運用に関する教育手法を蓄積することを実現するのである。
業界の即戦力となる人材に
このプロジェクトでの衛星開発には、「宇宙での動作実績」があるキューブサットの基本設計を導入。学生がそれらの設計図に基づいて製造・組立・地上実証を行い、宇宙で確実に動作する衛星の製造・運用を目指す。
さらに、衛星打ち上げに必要となる各種申請や試験に関しても学生が主体となって取り組むことで、実践的な経験を積むことができる。
また、将来的には、ノウハウの蓄積と成功率の上昇に合わせて、地球環境モニタリングや新たな宇宙機器の技術実証など、今後の宇宙の実利用と産業化の推進につながるミッションを実施。得られた技術を企業等へ展開し、成果の社会還元も図る。
プログラムに参加した学生は、超小型衛星の開発と運用を最初から最後まで現場で経験した高度技術者となり、宇宙産業の現場に即戦力として貢献できる人材となるのだ。
プログラム開始が2021年のため、大学院まで進学することを考えるとプログラムに参加している多くの学生はまだ在学中だと考えられるが、卒業して衛星通信関連企業に就職し、実際に宇宙業界で活躍するメンバーもいる。
これまでの衛星製作実績
同プログラムではこれまで、1号機「YOMOGI」、2号機「KASHIWA」、3号機「SAKURA」の製作から宇宙での運用までを進めてきた。
最初に打ち上げられたのは「KASHIWA」で、2022年1月に当時の学部2年生が開発をスタート。
約1年5か月をかけて製造し、2024年3月22日に打ち上げ、4月に国際宇宙ステーション(ISS)から放出された。
今回達成した「SAKURA」のミッション
今回、初期ミッションを達成した「SAKURA」は、同プログラムで2番目に打ち上げられた衛星である。
「SAKURA」は、2022年7月に当時の学部2年生が開発に着手したキューブサットであり、2024年8月5日に打ち上げ成功。
同月29日にISSから放出された後、地上と衛星間の通信が確立され、9月18日に人工衛星を介して通信を行うためのアマチュア局免許が交付された。
その後、衛星基本機能の宇宙空間での動作確認を行い、「SAKURA」で計画していた以下の初期ミッションを2日間で達成。高い完成度が示された。
- 衛星が撮影した画像1枚を地球上で画像に復元
- APRS(Automatic Position Reporting System:アマチュア無線局がアマチュア無線電波上に生データをリアルタイム配信するパケット通信プロトコル)による一般アマチュア無線家へのメッセージ送信
今後は数か月にわたり、APRSによる一般アマチュア無線家へのメッセージ双方向通信、太陽の観測、火山・洪水・台風を対象とした地球観測に挑戦するとともに、SNSやウェブサイトを通じて「SAKURA」が取得したデータを公開していくという。
さいごに
いかがでしたか。
千葉工業大学の高度育成技術者プログラムでは、X等のSNSも活用しながら積極的に活動を配信している。
同アカウントによると、超小型衛星5号機の開発も始まるとのことで、11月にはキックオフミーティングが予定されている。
また、2024年秋には1号機「YOMOGI」の打ち上げが予定されているとのこと。
同プログラムにおける今後の展開が楽しみである。