
2026年10月20日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、火星衛星探査機「MMX」を搭載したH3ロケット10号機の打ち上げに成功したと発表した。
本記事では、H3ロケット10号機の打ち上げ結果と今回使用された機体の特徴、MMXの今後の探査計画について解説する。
H3ロケット10号機の打ち上げ結果
打ち上げ約71分後にMMXを正常に分離
H3ロケット10号機は、鹿児島県の種子島宇宙センター大型ロケット発射場から、予定どおり10月20日午前4時41分03秒に打ち上げられた。
今回のミッションでは、第2段エンジンを2回燃焼させる飛行計画が採用された。最初の燃焼を終えた後、一定時間の慣性飛行を経てエンジンを再着火し、MMXを火星へ向かう軌道に送り出す計画であった。
JAXAによると、ロケットは計画どおりに飛行し、打ち上げから約1時間11分13秒後にMMXを正常に分離し、軌道に投入したことを確認。
これにより、H3ロケットとしては初めて、火星へ向かう探査機の軌道投入に成功した。地球周回軌道への衛星投入に加えて、惑星間探査機の輸送という新たな実績を獲得したことになる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 打ち上げ日時 | 2026年10月20日(火)午前4時41分03秒 |
| 打ち上げ場所 | 種子島宇宙センター 大型ロケット第2射点 |
| ロケット | H3ロケット10号機(H3-24L) |
| 搭載探査機 | 火星衛星探査機(MMX) |
| 投入先 | 火星遷移軌道 |
| 打ち上げ結果 | 成功 |
8号機の失敗後、3回連続で打ち上げに成功
今回の10号機の成功により、H3ロケットは2025年12月の8号機の失敗以降、3回連続で打ち上げに成功した。 2023年の試験機1号機からの通算成績は、打ち上げ10回中8回成功となり、打ち上げ成功率は80%に達している。
準天頂衛星「みちびき5号機」を搭載した8号機の打ち上げは、第2段エンジンの2回目の燃焼が正常に立ち上がらず、早期に停止したことで、衛星を予定の軌道に投入できず、打ち上げに失敗。
しかしその後、2026年6月には30形態の初飛行となる6号機、同年8月には「みちびき7号機」を搭載した9号機の打ち上げに成功。今回の10号機では、H3として初めて火星へ向かう探査機の軌道投入を達成した。
H3ロケットは機体形態やミッションの異なる打ち上げで成功実績を積み重ねている。今後の安定した運用に向けては、さらなる実績の蓄積が重要だ。

火星衛星探査機MMXの今後の探査計画
世界初の火星圏サンプルリターンを目指す国際ミッション
MMX(Martian Moons eXploration)は、JAXAが主導する火星衛星探査計画である。
火星の衛星「フォボス」と「ダイモス」を観測するとともに、フォボスに着陸して10g以上の砂や岩石を採取し、地球へ持ち帰ることを目指している。
成功すれば、世界初となる火星圏からのサンプルリターンが実現する。 持ち帰った試料の分析を通じて、火星衛星の起源や太陽系の形成過程の解明を目指す。本計画には、日本の小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」で培われた技術が生かされている。また、米航空宇宙局(NASA)、フランス国立宇宙研究センター(CNES)、ドイツ航空宇宙センター(DLR)、欧州宇宙機関(ESA)などが参画する国際共同ミッションとして、将来の深宇宙探査につながる技術の獲得にも取り組む。
フォボスへの2回の着陸と2031年の地球帰還を目指す
MMXは今回の打ち上げ後、約1年をかけて火星圏へ向かい、2027年度に到着する予定である。

到着後は、フォボスとほぼ同じ周期で火星の周りを飛行する「擬周回軌道(QSO)」に入り、衛星の形状や地形、表面の物質分布などを詳しく観測する。観測結果から数十か所の着陸候補地点を選び、安全性や科学的な価値を評価したうえで、実際の着陸地点を決定する計画である。
その後、MMXは、フォボス表面への2回の着陸を試み、10g以上の試料採取を目指す。 これに先立ち、ドイツとフランスの宇宙機関が共同開発した小型探査車「IDEFIX」を着陸させ、地表環境を調査する予定だ。
その後は、もう一つの火星衛星であるダイモスの観測にも取り組み、2030年度に火星圏を離脱する。
地球への帰還は2031年度を予定しており、採取した試料を格納した帰還カプセルを分離し、オーストラリアで回収する計画となっている。
※2026年10月20日時点の計画。今後の探査日程は変更される可能性がある。
H3ロケット、国内外で打ち上げ契約・合意が拡大
国内企業との打ち上げ契約
H3ロケットは、国内の宇宙関連企業との打ち上げ契約も拡大しており、地球観測衛星の運用から月面輸送、宇宙環境利用まで、幅広い事業での活用が予定されている。
特に、複数の衛星を連携させて地球を観測する「衛星コンステレーション」の構築に向けた契約が進んでいる。2026年9月には、株式会社Synspectiveが小型SAR衛星「StriX」2機、株式会社QPS研究所が小型SAR衛星「QPS-SAR」3機の打ち上げ契約を三菱重工業と締結した。Synspectiveは2027年の打ち上げを予定しており、QPS研究所は3機を1機のH3ロケットに相乗りさせる計画である。
一方、宇宙環境利用や月面輸送の分野でもH3の採用が進む。株式会社ElevationSpaceは、宇宙空間での実験や製造、地球への物資回収に利用する「ELS-R」2号機を2027年に打ち上げる予定だ。また、株式会社ispaceは、2028年の月面着陸ミッションに向けて、新型月面着陸船「ULTRA」の打ち上げ契約を締結している。
海外の宇宙機関・企業との打ち上げ契約
H3ロケットの商業利用は、海外にも広がっている。
2024年10月、三菱重工業はアラブ首長国連邦(UAE)宇宙庁と、小惑星帯探査ミッション「Emirates Mission to the Asteroid Belt(EMA)」に向けた打ち上げ輸送サービス契約を締結した。2028年に探査機「MBR Explorer」をH3ロケットで打ち上げる計画である。
また、同年9月には、フランスの衛星通信事業者Eutelsat(ユーテルサット)と、2027年以降にH3ロケットを用いて複数の衛星を打ち上げることで合意している。
このように、H3ロケットは月面・小惑星探査から地球観測、宇宙環境利用、衛星通信まで、幅広い用途で打ち上げ契約や合意を獲得しており、今後の商業打ち上げ実績の拡大が注目される。
さいごに
H3ロケット10号機は、火星衛星探査機MMXの打ち上げに成功し、計画どおりの軌道投入を達成した。今回の成功によって、H3ロケットは初めて火星へ向かう探査機の輸送実績を獲得した。
MMXは、日本が「はやぶさ」「はやぶさ2」で培ってきた小天体探査技術を火星圏へと発展させる計画である。今後は、約5年間にわたる探査を通じて、フォボスからの試料採取と地球への帰還を目指す。
一方、H3ロケットは8号機の失敗以降、3回連続で打ち上げに成功している。今後はispaceの月面着陸船輸送をはじめ、国内外の商業ミッションへの活用が予定されており、安定した打ち上げ実績の蓄積が引き続き重要となる。
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