
2026年10月7日、株式会社ispace(以下、ispace)は、欧州企業との月探査分野における2件の覚書締結を発表した。
本記事では、2件の覚書の内容と、ispaceが進める月輸送・月探査事業について解説する。
ispace、欧州企業との月探査協業を相次いで発表
今回ispaceが発表したのは、いずれもトルコ・アンタルヤで開催されている第77回国際宇宙会議(IAC)に関連して締結された覚書(MoU)である。
1. Leonardo・Telespazioと月面通信や航法で連携
月面から月周回軌道まで通信・航法・輸送サービスを検討
1つ目は、ispaceとispace EUROPE、Leonardo、Telespazioによる連携である。
4社は、月探査分野における協業の可能性を検討する覚書を締結した。Telespazioは、Leonardoが67%、フランスのThalesが33%を出資する宇宙サービス企業だ。
今回の覚書では、月における通信のほか、測位・航法・調時を意味する「PNT(Positioning, Navigation, Timing)」などのインフラサービス、輸送サービスの連携を検討する。

具体的には、月面や月周回軌道での通信エリアの拡大、航法機能の強化、データ通信容量の増加などを組み合わせたサービスの可能性を検討。
また、将来の月探査に必要となる利用者向け端末や、衛星などの宇宙側設備、地上設備の開発についても連携を検討する計画だ。
ESA「Moonlight」の衛星輸送も検討
今回の覚書では、ESAが進める月通信・航法計画「Moonlight」との連携も検討対象に含まれており、ispaceが開発する軌道間輸送機(OTV:Orbital Transfer Vehicle)を活用して、Moonlightを構成する衛星を月周回軌道まで輸送する可能性を検討する。
Moonlightは、月周回軌道に衛星を配置し、月面や月周辺で活動する宇宙機に通信・航法サービスを提供する計画である。Telespazioが主契約者として、衛星コンステレーションの開発を主導している。
現在の計画では、通信衛星1機と航法衛星4機の計5機で構成する。多くの探査ミッションが予定される月の南極域を重点的にカバーし、月面で約3mの測位精度を実現することなどを計画。2028年末までの初期サービス開始、その後2030年までの本格運用を目指している。
ispaceとTelespazioは2025年にも、月輸送やMoonlightの通信・航法サービスに関する技術・商業面での連携に向けた意向表明書を締結している。今回の覚書では新たにLeonardoも加わり、通信・航法・輸送に加えて、Leonardoが持つ宇宙ロボティクスや宇宙探査向けAIなどにも協業範囲を広げる。

2. アリアングループとはULTRAランダー開発で協業拡大
推進系部品をULTRAランダーに採用
2つ目に、アリアングループとの協業拡大である。

ispaceが現在開発している次世代月着陸船「ULTRAランダー」には、アリアングループが手掛けるパルススラスターや、姿勢を制御するRCS(Reaction Control System)向けスラスターのハードウェアを採用。
さらにアリアングループは、ULTRAランダーの組立・統合・試験(AIT:Assembly, Integration and Testing)も支援する。
ispaceのULTRAランダーは、高さ約3.6m、着陸脚を展開した状態で幅約3.3m、乾燥重量は約1,000kg。最大数百kg規模のペイロードを輸送できる設計で、2028年に予定するミッション3で初めて使用する計画だ。2029年に予定するミッション4でも同型機を使用する。
安定した生産に向け長期契約も検討
ispaceとアリアングループの関係は以前から続いている。
アリアングループは、ispaceのミッション1で使用した月着陸船にも推進系部品を供給し、ドイツのランポルツハウゼンにある施設で組立・統合・試験を支援した。
また2021年には、ispace EUROPEとアリアングループがESAから選定され、商業的な月輸送サービスの構築に向けた検討にも共同で参加している。
今回締結した覚書では、ULTRAランダーにとどまらず、将来の月面宇宙機や月ミッションにおける協業拡大も検討。さらに、ispaceが継続的に月ミッションを実施するため、ランダーを安定して生産できる体制の構築に向けた長期的な商業契約についても検討する。
部品調達から組立・試験までを含めた協力体制を強化することで、製造期間の短縮や信頼性、品質の向上につなげる狙いがある。
月輸送事業の実現に向け欧州企業との連携を強化
今回発表された2件の覚書は、ispaceが進める月輸送事業を、異なる側面から支える取り組みといえる。
LeonardoやTelespazioとは、月面や月周回軌道における通信・航法サービスに加え、ispaceのOTVを活用した月周回軌道への衛星輸送などを検討する。
一方、アリアングループとの協業では、ULTRAランダーに使用する推進系部品の供給や組立・統合・試験を通じ、継続的な月ミッションに必要な開発・生産体制の強化を目指す。
ispaceはこれまでも、月着陸船による月面への輸送に加え、OTVを活用した月周回軌道への輸送など、月周辺での輸送サービスの実現に向けた取り組みを進めてきた。
今回の2件の覚書は、こうした事業構想に対して、宇宙機の開発・生産と、輸送・通信・航法サービスの双方で欧州企業との連携を深める動きと位置づけられる。
さいごに
月探査が本格化するにつれ、月面への輸送に加え、月周回軌道への輸送、通信、航法、宇宙機の継続的な生産などを支える事業基盤の重要性は高まる。
ispaceにとって今後の焦点となるのは、今回示された協業構想を実際の事業へどこまでつなげられるかである。特に、OTVによるMoonlight衛星の輸送や、ULTRAランダーの安定生産に向けた長期契約が具体化すれば、継続的な月ミッションを支える体制の強化につながる。
今後、個別の契約締結やミッションへの採用、開発・生産体制の具体化がどのように進むかが注目される。
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