2023年12月18日、クラーク記念国際高等学校、東京大学、Space BD株式会社が実施する「宇宙教育プロジェクト」の下、同高校の生徒が制作した超小型人工衛星「Clark sat-1(愛称:AMBITIOUS)」が国際宇宙ステーション(以下:ISS)からの放出に成功した。
高校生が主体となって開発した衛星がISSから放出されたのは、日本初のことである。
本記事では、「Clark sat-1」がISSから放出成功した背景にある宇宙教育プロジェクトと「Clark sat-1」について紹介します。
目次
クラーク記念国際高校の「宇宙教育プロジェクト」
クラーク記念国際高校は北海道に本部を置き、全国各地に拠点を展開する通信制の私立高校。生徒数は1万人を超える日本最大級の通信制高校である。
30周年の記念事業の一環として「宇宙教育プロジェクト」を2021年7月に開始し、「宇宙探究部」を創設することでこれを進めてきた。
「宇宙教育プロジェクト」とは、宇宙視点で様々な課題解決を考え実行できる未来のリーダーとなる人材の育成を目指したもの。
衛星開発・運用を通じ、宇宙開発への興味関心と課題解決の達成に向けた生徒たちの主体性を育てると共に、未来の社会で活躍する人材として不可欠な非認知能力(意欲、忍耐力、コミュニケーション能力といった、数値では測りにくい能力)を伸ばすことが目的だ。
指導を行うのは東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 中須賀真一教授。数十センチ単位の超小型衛星を世界で初めて打ち上げた、人工衛星のパイオニアである。
また、元宇宙飛行士の山崎直子氏も宇宙教育プロジェクトアンバサダーとして参加されている。
Space BDが宇宙ベンチャーの立場から支援
同プロジェクトでは、2社の宇宙ベンチャー企業が学生のサポートを行っている。
一社目はプログラムの企画や人工衛星の打ち上げを支援しているSpace BDだ。
同社は、日本の宇宙ビジネスを世界を代表する産業に発展させることを目指す「宇宙商社」。
衛星の最適な打ち上げ手段の提案や、宇宙空間の利活用(ISSなど)におけるビジネスプランの検討からエンジニアリング部門による技術的な運用支援を提供。
他にも、宇宙を活用した官民の事業化支援・事業変革、教育分野などに事業を展開している。
2023年11月時点では、衛星取扱い件数約70件を含めて450件以上の宇宙空間への輸送実績を重ねている。
アークエッジ・スペースが開発・運用支援
二社目は、この衛星の開発・運用支援を担当している中須賀教授の研究室から輩出された宇宙ベンチャーであるアークエッジ・スペースだ。
同社は、世界最先端の超小型人工衛星の開発を中心に様々な人工衛星の生産体制を構築し、超小型人工衛星、地上局整備、関連部品の設計・製作などのハードウェア事業を展開。
さらに、人工衛星運用サービスの提供、関連するソフトウェア開発、教育・コンサルティングなどの各種事業も幅広く展開している。
これまで、ルワンダ国初の衛星となる超小型衛星「RWASAT-1」の開発や、ソニーの超小型人工衛星「EYE」の共同運用への参画、自社の超小型人工衛星「OPTIMAL-1」の開発・運用など、豊富な実績を積み重ねている。
経産省が公募したSBIR事業にも採択されており、現在期待されている衛星開発企業である。
プロジェクトのこれまでの流れ
衛星の開発が始まったのは2021年10月。各種申請手続きやJAXAによる各種審査などを経て、2023年3月に完成。衛星を運用するための管制局もクラーク国際の校舎に設置された。
衛星が完成するまでの約1年半、中須賀教授から最新の宇宙開発について学び、Space BDが開発した宇宙をテーマにした様々なワークショップに参加、宇宙企業を訪問するなど座学に留まらない様々な学びを経験したという。
完成した衛星は11月にアメリカのケネディ宇宙センターより宇宙に打ち上げられ、成功。無事にISSへと運ばれ、12月18日に放出された。
本日19日には、衛星からの最初の信号の取得を試みる。無事に取得できれば、高校生初の人工衛星の運用がスタートだ。
どんな人工衛星?
Clark sat-1は、1Uサイズと呼ばれる10cm角・重さ約0.94kgの、地球を観測する超小型人工衛星。
衛星の運用ミッション
Clark sat-1の運用時のミッションは以下のように4段階に設定されている。
- ミニマムサクセス:ISS(国際宇宙ステーション)からの放出成功
- フルサクセス:超小型衛星(Clark sat-1)との通信成功
- エクストラサクセス:
・衛星に搭載するカメラでの地球環境の撮影
・搭載した音声やイラストデータを衛星から受信 - ※エクストリームサクセス(実現可能性は極めて低いが、生徒の意思によりチャレンジするもの):スペースデブリの撮影
これらのミッションはSpace BDおよびクラーク国際の教員らのサポートのもと、クラーク国際の校舎に設置した管制局でアマチュア無線従事者免許を取得した生徒らが取り組んでいくとのこと。
今回は上記の①ミニマムサクセス:ISSからの放出に成功したため、次は②の地上との通信に向けた挑戦となる。
運用開始はおよそ一か月後。それと共に、衛星画像を活用したSDGsがテーマのモザイクアートの作成や、地球ならびに宇宙の環境問題に取り組む人たちに向けてのエールを音声メッセージで発信していく活動を行う予定だという。
クラーク記念国際高等学校全体でも、生徒たちに衛星の活用方法を考える探究学習を行っていくようだ。
さいごに
いかがでしたか。
今回、ISSからの衛星の放出に成功したことにより、プロジェクトは「運用」のフェーズとなった。
宇宙業界で世界的に活躍する研究者やベンチャー企業と高校生が集まり、一つの大きなプロジェクトに挑戦するという経験はとても貴重な経験だろう。
実際に参加している生徒からは、
「さまざまな方に特別授業を通して宇宙開発について学んできた。失敗してもやり直す『トライアンドエラー』の考え方や問題解決について学んだ」
「いまこの場に立てていることを誇りに思う。宇宙から見た地球の景色を撮影し、多くの人に地球の状況を伝えたい。人工衛星から撮影した今のリアルな状況がわかる写真をもとに現状を知ってもらい、環境問題の解決に貢献したい」
との言葉があったという。
このような教育プログラムが生徒たちの好奇心と探究心を刺激し、未来の宇宙開発を担う新たな才能の発掘に寄与していくことに期待したい。
参考
高校生たちが開発に携わった人工衛星「Clark sat-1」が11月10日(金)にケネディ宇宙センターより打ち上げ成功。打ち上げ及び運用に関する報告会を11月27日(月)に実施。
【宇宙探究部®︎】生徒たちによる人工衛星「Clark sat-1」がついに完成!今秋の打ち上げに向けて完成披露会見が行われました
Small Satellites 2nd Deployment J-SSOD#27 from "Kibo" (Clark sat-1)「きぼう」から超小型衛星の放出