
2026年10月5日、ブルガリアの宇宙企業EnduroSatは、人工衛星を1日最大2機製造できる量産ラインの詳細を公開した。
同社は、独自のケーブルレス構造によって衛星の組み立て・統合・試験を8時間以内に短縮。さらに、AR(拡張現実)による作業支援や試験の自動化などを導入し、量産体制を構築している。
本記事では、EnduroSatの量産ラインの特徴と製造時間を短縮する技術、事業拡大に向けた取り組みについて解説する。
EnduroSat、1日最大2機の衛星量産ラインを公開
EnduroSatは、ブルガリアの首都ソフィアに本社を置く宇宙企業である。人工衛星の開発・製造から打ち上げ調整、軌道上での運用までを一括して提供している。
今回公開されたのは、ソフィアにある衛星製造施設「Space Center」の量産ラインだ。同施設は2025年10月に開設され、1日最大2機の人工衛星を製造できる能力を備えている。
従来、人工衛星はミッションごとに個別設計されることが多く、開発には長い期間と多額の費用を要してきた。
これに対し、EnduroSatは衛星本体の設計や部品を共通化するとともに、製造工程の自動化を進めることで、短期間での量産を可能にしている。
今回の発表では、衛星の組み立てから試験、梱包までの製造工程と、それを支える設備の詳細が紹介された。
衛星の組み立て・試験を8時間以内に、製造工程も自動化
ケーブルレス構造で組み立て時間を短縮
EnduroSatの量産体制を支える技術の一つが、独自の「ケーブルレス構造」である。
従来の人工衛星では、内部に搭載する電子機器を多数のケーブルで接続する必要があり、配線作業や機器の組み込みが組み立て工程の一部を占めていた。
これに対し、EnduroSatはケーブル配線を削減する構造を採用し、部品や機器の組み立てを簡素化。この独自の衛星設計により、1人の技術者が衛星の組み立て、機器の統合、試験を8時間以内に完了できるという。
2026年10月の公式SNSでも、200kg級衛星の組み立て・試験を8時間未満で実施する様子を紹介している。
なお、この8時間は衛星本体の組み立てから統合・試験までに要する時間を指す。製造ライン全体では、これらに加えて部品の試験や環境試験、梱包なども実施している。
ARを活用した32の作業台と無人搬送車を導入
EnduroSatは、衛星本体の設計に加え、製造ラインにも作業効率を高める設備を導入している。
組み立て工程には、AR(拡張現実)による作業支援機能を備えた32の作業台を設置。ARは、現実の風景にデジタル情報を重ねて表示する技術であり、作業員が必要な情報を確認しながら組み立てを進められる。
また、工場内では無人搬送車(AGV)を活用し、梱包工程にはロボットアームを導入。人が担当する組み立て作業を支援するとともに、搬送や梱包の工程にも機械を活用することで、製造ライン全体の効率化を図っている。
試験工程の86%を自動化し、品質管理にも対応
試験工程の効率化も進めている。試験工程の86%を自動化しており、人の手で行う作業を減らすことで、複数の衛星を効率的に試験できる体制を整えている。
また、部品や機器の試験には、空気中の微粒子を厳しく管理する「ISOクラス6」のクリーンルームを使用。精密機器への異物の付着や混入を防ぎ、品質を確保する役割を担っている。
製造ラインでは、こうした部品・機器の試験から衛星本体への組み込み、環境試験、梱包までを一連の工程として実施している。

衛星の量産で開発期間とコストを削減へ
ミッション構想から軌道投入まで約6か月
EnduroSatは、衛星の製造だけでなく、打ち上げや軌道上運用までを含めたサービスを提供している。
顧客が地球観測機器や通信機器などの搭載機器を用意し、EnduroSatが衛星本体の提供、機器の組み込み・試験、打ち上げ調整、軌道上での運用を担当する仕組みだ。
顧客は衛星本体や運用システムを一から開発する負担を抑え、自社の観測・通信サービスなどの開発に集中できる。
同社は、こうした衛星の標準化と一連のサービスの提供により、ミッションの構想から軌道投入までを約6か月に短縮できるとしている。
従来は数年単位の期間を要することもあった衛星開発において、短期間で衛星を配備できることは、衛星を活用した事業の早期立ち上げにつながる。
宇宙データのコストを1GB当たり1ドルへ
EnduroSatは、衛星の量産を通じて、宇宙から取得するデータのコスト削減も目指している。
2026年9月の資金調達発表では、現在は1GB当たり数百ドルとする宇宙データのコストを、約1ドルに引き下げる構想を示した。
多数の人工衛星を連携させて運用する衛星群では、配備する衛星の数に応じて製造や運用の費用が増加する。
衛星の標準化と量産によって、こうした費用を抑えることができれば、地球観測や通信などの宇宙データを活用したサービスの事業化を進めやすくなる。
同社は、宇宙データの利用価格を引き下げることで、これまで利用が難しかった中小企業などにも市場を広げる方針だ。
衛星量産の需要拡大を受け、米国でも生産体制を強化
衛星コンステレーション構築に向けた大型契約が拡大
EnduroSatは、これまでに100機を超える衛星の打ち上げ実績と200機を超える衛星の納入実績を持っている。
地球観測や衛星測位などの分野で事業を展開しており、近年は、多数の衛星を連携させて運用する「衛星コンステレーション」の構築に向けた契約も進んでいる。
2026年9月10日には、米国TrustPointが構築する衛星測位システム向けに、40機の衛星を製造する契約を発表。
さらに、同月17日には、米国の地球観測企業Vantorが計画する24機の衛星群「Vantor Pulse」への参画を発表。EnduroSatは衛星本体の提供と搭載機器の統合を担当する。
こうした複数機の衛星を必要とする事業の拡大に伴い、衛星を短期間で安定して供給できる量産体制の重要性が高まっている。
約2億500万ドルを調達、米国に新たな製造拠点
EnduroSatは、衛星の量産能力をさらに拡大するため、米国コロラド州に2つ目の量産ラインの整備を進めている。
同社は2026年9月16日、2億500万ドルの資金調達を発表。調達資金を、米国の新たな製造拠点の整備や、生産能力の拡大などに充てる方針だ。
現在、ブルガリアのソフィアにある量産ラインに加え、米国にも製造拠点を設けることで、衛星の供給能力を強化する。
また、同社は超小型衛星から1トン級まで衛星の大型化を進めており、製造能力と対応する衛星の規模の両面で事業を拡大している。
さいごに
衛星の設計・製造・運用を標準化し、量産能力を高める取り組みは、多数の衛星を必要とする事業の構築期間やコストの削減につながる。
今後は、EnduroSatが掲げる製造能力を実際の衛星納入数につなげられるかに加え、量産によるコスト削減がどこまで進むかが注目される。
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