ispaceの決算内容を解説・考察|2026年3月期通期決算

2026年5月15日、月面輸送サービスを開発する株式会社ispace(以下、ispace)は、2026年3月期通期決算を発表した。 本記事では、決算のポイントとともに、各ミッションの進捗や資金調達の状況について整理する。

ispaceの概要

ispaceは、月面輸送サービスの商業化を目指す日本発の宇宙スタートアップ。月着陸機(ランダー)を開発し、主に宇宙機関や民間企業の観測・実験装置、探査機器などを月面まで運ぶ事業を展開している。

日本に本社を置き、米国、ルクセンブルクにも拠点を構える。これまでに民間企業として月面着陸に挑戦しており、現在は次世代ランダー「ULTRA」の開発や、後続ミッションに向けた契約獲得を進めている。

また、事業領域は月面への輸送だけにとどまらない。将来的には、月周回通信、測位、データ取得、資源利用なども見据え、月面開発を支えるインフラ企業としての事業拡大を目指している。

ispaceが現在開発中の月面着陸船
ispaceが現在開発中の月面着陸船 ©ispace

ispaceの決算内容|2026年3月期通期

ispaceが発表した2026年3月期通期決算は下図の通りである。

ispace 2026年3月期通期決算
ispace 2026年3月期通期決算 ©Space Connect

2026年3月期通期決算概要

同社が発表した2026年3月期通期決算では、プロジェクト収益が58.9億円となり、前期の49.7億円から18.5%増加した。

一方、売上高は33.0億円となり、前期の44.7億円から26.1%減少した。これは、米国の現Mission5におけるエンジン開発遅延などが減収要因として挙げられている。

損益面では、営業損益が115.8億円の赤字、経常損益が81.4億円の赤字、当期純損益が81.5億円の赤字となった。ただし、当期純損失は前期の119.4億円の赤字から縮小している。

総じて今回の決算は、短期的には赤字が続くものの、日本ミッションにおける補助金収入の増加や、後続ミッションに向けた案件形成が進んだ内容となった。

また、2027年3月期については、Mission3・4の開発進捗に伴う補助金収入により、プロジェクト収益90億円を見込む一方、米国でのランダーモデル統合およびエンジン変更に関する損失計上などにより、当期純損益は130億円の赤字を予想している。

財務状況と資金調達

ispaceの財務面では、2025年5月に金融機関借入で合計150億円を調達し、2025年10〜11月には増資により約182億円を調達したことにより、現預金と純資産が大きく増加した。

2026年3月期末の総資産は477.0億円となり、前期末の271.8億円から大きく増加した。現金及び預金は296.9億円で、前期末の131.1億円から増加している。

純資産は151.7億円となり、前期末の70.0億円から増加した。一方、有利子負債も294.4億円となり、前期末の160.9億円から増加している。

また、同社は今後4〜5年間で、既に獲得済みの契約・助成金、予算確保済み案件を合わせ、少なくとも562億円の収益計上を見込んでいる。さらに覚書や中間契約などを含む潜在需要は984億円規模とされており、後続ミッションを計画通り進め、これらを実際の収益計上につなげられるかが焦点となる。

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ispaceの事業進捗

日米ランダー開発を統合、Mission3はULTRAで再設計

ispaceは、現Mission5におけるエンジン開発遅延などを受け、後続ミッションに向けた開発体制とミッションスケジュールを見直している。大きな変更点は、日米で別々に進めていたランダー開発を統合し、新ランダーモデル「ULTRA」を軸とする体制へ移行したことだ。

従来は、日本拠点と米国拠点で異なるランダーモデルの開発が進められていた。しかし、今後は設計チームをグローバルで統一し、CTO直下で管理する体制へ変更。組立・製造・試験以降の工程は各拠点で実施しながら、設計面では日米の知見を一体化する方針である。資料では、この体制変更により、ランダー品質の最大化と全社的なコスト低減を目指すとしている。

また、ミッションのナンバリングも再設定された。従来Mission3として予定されていた米国ミッション「Team Draper Commercial Mission 1」は、2030年打上げ予定の新Mission5へ変更された。一方、2028年打上げ予定の日本主導である旧Mission4が、新Mission3として位置づけられている。

月周回衛星による通信・測位サービス構想が具体化

月面着陸ミッションに加え、月周回衛星を活用した新たな事業構想も示された。ispaceは、最速2027年にMission2.5として、Argo Space社の輸送インフラを使い、自社の月周回衛星1基を打ち上げる計画である。この衛星は、月周回軌道上でリレー通信衛星として展開される予定だ。

同社は、月周回衛星等を活用したサービス需要について、通信・測位・観測・SSAを合わせ、2040年代に少なくとも年間4,500億円超の市場規模を見込む。こうした需要を見据え、通信・測位などのデータを扱う「ルナ・コネクトサービス」に加え、観測やSSAなどのデータサービスも検討。2030年までに少なくとも5基の月周回衛星を投入する計画を示している。

Mission2.5は、ispaceが月面輸送に加え、月周回インフラを活用したデータサービスへ事業領域を広げる動きといえる。

ルナ・コネクトサービスおよびデータサービスのイメージ画像
ルナ・コネクトサービスおよびデータサービスのイメージ画像 (ispaceのPR TIMESリリースより)

補助金・契約獲得により後続ミッションの事業基盤を強化

後続ミッションに向けた補助金や契約の積み上げも、今回の決算資料における重要なポイントである。

Mission3では、経済産業省のSBIR制度による補助金を活用。また、旧Mission3から新Mission3へ移行する顧客も発生している。東京科学大学、台湾国家宇宙センター(TASA)、韓国UEL、米国Magna Petraなど、複数の機関・企業が関わるミッションとして進められている。

Mission4では、JAXAの宇宙戦略基金第2期に採択され、月極域への高精度着陸を目指す。さらに、欧州宇宙機関(ESA)のMAGPIEフェーズ2に関する予算も確保されており、ローバー開発やペイロード輸送契約の具体化に向けた協議が進められている。

これらの動きからは、ispaceがMission3以降の後続ミッションに向け、補助金、政府系案件、民間契約を組み合わせながら事業基盤を固めていることが読み取れる。

さいごに

ispaceの2026年3月期通期決算では、売上高は減少した一方、プロジェクト収益は増加し、当期純損失も前期から縮小した。一方で、2027年3月期は米国でのランダーモデル統合やエンジン変更に伴う損失計上などにより、赤字拡大が見込まれている。

月面輸送サービスは、開発投資が先行しやすい事業である。今後は、Mission3以降の開発と打上げを着実に進め、獲得済みの契約や補助金を実際の収益計上につなげられるかが焦点となる。

ispaceを含め、宇宙業界では現在、様々な企業がサービスの商用化を進めている。本業界での仕事に興味のある方は、業界特化型の人材マッチングサービス「スぺジョブ」をぜひチェックしていただきたい。

スぺジョブ

参考

2026年3月期通期決算説明資料(ispace, 2026-05-15閲覧)

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