ispaceが月着陸計画を延期。月面データビジネス構想も発表

2026年3月27日、株式会社ispace(以下、ispace)は、ミッション計画の変更について発表した。

本記事では、計画変更の背景と影響、そして新たな事業戦略について整理する。

月面着陸はミッション3が延期に

延期理由は新たな代替エンジンの採用

ispaceは、同社の米国法人にて進められていたミッション3において、ランダー(月面着陸機)に搭載予定だった米Agile Space Industries社のエンジン「VoidRunner(ボイドランナー)」を代替エンジンへ切り替える方針を明らかにした。

同エンジンは要求性能を満たす燃料効率を実証する上で遅延が生じていた。その後の開発状況も併せて慎重な検討が重ねられた結果、新たな代替エンジンの採用に向け、開発計画を変更する必要があると判断された。

この影響により、本米国ミッションの打上げ時期は当初予定していた2027年から2030年へと延期されることとなった。本ミッションはNASAの商業月面輸送サービス(CLPS)に関連する計画として進められていたが、今回の見直しに伴い、契約内容の修正についても今後協議が行われる見通しである。

また、これに伴い、本ミッションは新ミッション5に、ispace日本拠点で開発が進められている2028年打上げ予定のミッション4が新ミッション3となることが決定した。

ispaceの新しいミッションマイルストーン
ispaceの新しいミッションマイルストーン ©ispace

日米のランダーを統合、新モデル「ULTRA」へ

ispaceはミッション計画変更に伴い、2種類のランダー開発を日米で並行して進めていた体制を見直し、新モデル「ULTRA」へ統合する方針も明らかにした。

これまで、日本向け「シリーズ3」と米国向け「APEX 1.0」として別々に開発が進められていたランダーは、今後は単一プラットフォームへ一本化される。統合後のランダー「ULTRA」は約200kgの積載能力を持つとされ、複数ミッションへの柔軟な対応が可能になる見込みだ。

今回の統合により、日米両拠点を中心にそれぞれ構築している開発体制について、構造改革が実施される。ispaceは日米両拠点における人員数および配置の最適化を段階的に実施し、全社的なコスト低減を図るとのことだ。

ispaceのAPEX 1.0とシリーズ3ランダーを統合した、新モデル「ULTRA」イメージ画像
APEX 1.0とシリーズ3ランダーを統合した新モデル「ULTRA」イメージ画像 ©ispace
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月周回衛星を活用した新事業「ルナ・コネクト」

今回のミッション計画変更と同時に、ispaceは月周回の自社衛星を活用した事業構想「ルナ・コネクトサービス」についても公開した。

通信・データサービスの展開

ispaceの「ルナ・コネクトサービス」は、今後順次投入を予定している月周回衛星等の同社アセットを活用し、月面および月周回空間において通信および測位機能を提供するものである。月面と月周回、さらには地球間を結ぶ通信ネットワークの構築や、月面で活動する機器に対する位置情報の提供などが想定されている。

加えて、月周回衛星を活用したデータサービスの展開も視野に入れている。月面観測や特定地点の継続監視といったリモートセンシングに加え、宇宙状況把握(SSA)サービスの提供も想定されており、衛星は通信インフラと観測プラットフォームの両機能を担うことになる。

同社はこれまでの月面着陸ミッションにて自社ランダーを月周回軌道へ輸送・投入した経験を活用し、新ミッション2.5として、最速で2027年に同社初の月周回衛星1基を月周回軌道へ投入することを計画。2030年までに少なくとも5基の月周回衛星を投入することを目指している。

ispaceの新たなルナ・コネクトサービスおよびデータサービスのイメージ画像
ispaceの新たなルナ・コネクトサービスおよびデータサービスのイメージ画像 ©ispace

KDDI連携とLunaNet対応

ルナ・コネクトサービス事業を構築する上では、地上局の整備が重要となる。大容量の通信・データ等を月から安定的に受信するためには、地上局ネットワークの設計や運用体制の確立が不可欠だ。

そこで今回、ispaceは国内における主要な地上局提供事業者であるKDDI株式会社と基本合意書を締結。両社は地上局の運用や月-地球間通信の在り方について共同検討を進める。

また、ispaceはルナ・コネクトサービスにおいて、NASAやESA、JAXAが主導する国際通信フレームワーク「LunaNet」への準拠も目指している。LunaNetは、各国が整備する月通信・測位インフラの相互接続を前提とした枠組みであり、単独のシステムではなく、国際的なネットワークの一部として機能することが求められる。

市場規模は2040年代に年間4,500億円と試算

ispaceは、月周回衛星等を活用した通信・データサービスの市場は、2040年代に年間4,500億円規模へと成長すると見込んでいる。

この市場は、月面およびシスルナ空間における活動の拡大に伴い、通信、測位、観測、SSA(宇宙状況把握)といった複数のサービス領域で構成されると想定されている。

特に、有人拠点の建設や資源探査、ロボットによる継続的な月面活動が進展することで、安定的な通信インフラや位置情報サービスへの需要が段階的に顕在化していくと考えられる。

さいごに

ispaceは今回、ランダー開発の見直しを通じて技術リスクへの対応を進めると同時に、月周回衛星を活用した新たな通信・測位サービスといったインフラ領域への進出を明確にした。

従来の輸送ビジネスは、打上げやミッションごとに収益が発生するプロジェクト型の性質を持つ一方で、月周回衛星を活用した通信・データサービスは、継続的な利用を前提とするストック型のビジネスモデルとなる。

月面開発が進展する中で、宇宙空間におけるインフラの重要性は今後一層高まることが予想でき、ispaceのビジネスモデルの変化は、収益の安定性や事業の継続性に大きな影響を与えると考えられる。一方で、その実現には技術、資金、国際連携といった複数の課題が伴う。

同社が「輸送企業」から「宇宙インフラ企業」へと転換できるかは、今後の事業展開における重要な焦点となるだろう。

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スぺジョブ

参考

ispace、日米ランダーを統合した新モデル「ULTRA(ウルトラ)」を発表...(2026-03-29閲覧)

ispace、月周回の自社衛星を活用した新たな事業構想を発表...(2026-03-29閲覧)

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