H3ロケット試験機2号機が初成功に向けて打ち上げへ。押さえるべきポイントは?

日本の新しい基幹ロケット「H3ロケット」の試験機2号機の打ち上げが2024年2月17日(※2024年2月15日9:00時点)に実施される。

本記事では、打ち上げ前に押さえておくべきポイントとして、1号機との違いやミッション概要、打ち上げ情報などをご紹介します。

H3ロケットとは

H3ロケットとは、今年1月にも打ち上げに成功した日本の主力ロケット「H2Aロケット」の後継機となる大型ロケットだ。

日本の人工衛星を自国での打ち上げ可能にする「自立性」の確保によって衛星打ち上げ費用の海外流出を防止することに加え、国内外の衛星事業者から選ばれる「国際競争力」を確保して商業衛星を受注することで産業基盤を強化することを狙いに、2014年から開発。

H2Aロケットは打ち上げ成功率は高く、高い信頼性はあるものの、打ち上げ頻度が少ないことや打ち上げ費用が比較的高いことから上記の狙いの達成は困難であった。

H3ロケットは「柔軟性」「高信頼性」「低価格」の大きな3つの特徴により、この課題を解決する。

まず、製造過程の変更等により打ち上げ頻度を高めることで打ち上げスケジュールの柔軟性を確保。また、大きさ、重さ、目的地がバラバラな衛星の打ち上げに柔軟に対応できるよう、エンジンの数や衛星を搭載する先端部分の形を変えられる設計とした。

また、打ち上げ価格を最小数のブースターエンジンの場合で約50億円(H2Aロケットの半額程度)を目指しつつ、打ち上げ成功率約98%を誇るH2Aロケットの信頼性を維持することを目標としているのだ。

H2Aロケットの打ち上げは50号機まで(残り2機)を予定。その後はH3ロケットに完全に引き継がれることとなっている。

H3ロケット試験機1号機と2号機の違い

H3試験機1号機の打ち上げは2023年3月7日に実施されたものの、ロケット本体の2段あるエンジンのうち2段目(上部)にあるエンジンに着火せず、失敗。

約1年間、同ロケットを開発するH3プロジェクトチームが原因の特定と改善に奔走し、今回の2号機の打ち上げに至った。

失敗の要因としては、以下の3つに絞られている。

  • エンジンの着火装置で短絡(ショート回路)が発生
  • 着火装置への通電で想定範囲を大きく超える大きさの電流が発生
  • エンジン回りの制御装置で想定範囲を大きく超える大きさの電流が発生

この3つの全てに対して対策が実施され、H2Aロケットで使用されている機器がH3に適用する際の適合性の評価など、信頼性向上への取り組みが強化された。

試験機1号機と2号機の違いとしては、これらの失敗の要因と考えられるものが改善されたほか、2基搭載されている第一段エンジン(LE-9)のうち1本が改良されたものとなっている。

LE-9は製造コストを下げる新技術の開発に遅れがあり、二段階開発が実施されている。

従来の技術を使用した試験機などの初期のH3ロケットで使用する形態と、製造工程や使用部品を工夫して製造コストを下げるなどした恒久に使用する形態の2つの段階に分けて開発されているのだ。

今回搭載されるLE-9のうち1本は1号機と同様の形態で、もう1本は一部分を完成形として恒久に用いられる仕様にアップデートしたものとなっている。

試験機2号機のミッション概要

H3ロケット試験機2号機のメインミッションは、H3ロケットの目的の場所までの打ち上げを実証することでH3ロケットの開発の妥当性を検証することにある。

搭載されるものは、1号機に搭載されていた衛星(ALOS-3)と同等の質量特性を持つダミー衛星。また、それらの衛星などを格納する先端部分のフェアリングも1号機と2号機で同じ形状のものが使用される。

これは、打ち上げ失敗による衛星の喪失リスクに伴う影響を考慮するとともに、1号機と打ち上げ条件を揃えることで、ロケットの飛行経路の解析などに1号機の解析結果を利用して2号機打ち上げまでの時間を短縮し、今後の打ち上げ計画への影響を最小化することを目指しているためである。

また、2基の小型副衛星(CE-SAT-ⅠE、TIRSAT)も搭載。これらに軌道投入の機会を提供することもミッションとなっているのだ。

以下に2つの小型副衛星を簡単に紹介する。

CE-SAT-ⅠE(シー・イー・サット・ワン・イー、キヤノン電子)

キヤノン電子が開発したCE-SAT-ⅠEは、昼間の地上の物体を80㎝のものまで判別可能である高分解能な光学衛星。

これまで、キヤノングループは自社のカメラ技術・画像処理技術を背景に小型の地球観測衛星の開発を行ってきており、今回の衛星は3基目となる。

地表の静止画や動画を撮影し、リモートセンシング事業に向けた実証等を行うほか、天体も撮影可能。

また、JAXAが開発した、地球からレーザー光を衛星に向けて発射し、反射した光が地球に戻ってくるまでの時間を測定することで衛星の位置を測定するレーザー測距装置を搭載し、実証する。

TIRSAT(ティー・アイ・アール・サット、宇宙システム開発利用機構)

TIRSATは熱赤外センサを利用することで世界の主要地域の工場等の稼働状況を把握することが可能な衛星だ。

世界各地の製造および供給網がなんらかの原因で中断または遅延する場合、政治や経済に影響を与える可能性があるため、その状況をなるべく早く察知するための情報収集の手段として、今回この衛星の宇宙実証が行われる。

経済産業省からの委託事業となっており、一般財団法人宇宙システム開発利用機構が事業のとりまとめを担当。

技術開発・実証はそこから民間企業に委託されており、株式会社ビジョンセンシングが熱赤外カメラの開発・実証、セーレン株式会社が超小型衛星の開発・実証、株式会社アークエッジ・スペースが地上アンテナの運用等を行っている。

さいごに

いかがでしたか。

打ち上げは2024年2月17日の9時22分~13時6分の間に実施予定。

Youtubeにてライブ配信が実施される他、JAXAの筑波宇宙センターなど、様々な場所で打ち上げのパブリックビューイングが実施される予定だ。

ぜひご覧いただきたい。

© JAXA

参考

H3ロケット試験機2号機打上げ準備状況について

H3ロケット試験機2号機フェアリング及びペイロードプレス公開

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