ブラックホールの「爆風」30万光年先へ|XRISM衛星が観測
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東北大学や金沢大学などの研究チームは、X線分光撮像衛星XRISM(クリズム)を使い、超巨大ブラックホールを中心に持つ銀河団を観測した。その結果、ブラックホールから約30万光年離れた場所でも高温ガスが激しく動いていることを明らかにした。

周囲のガスに伝わったエネルギーは従来の推定を100倍以上上回り、ブラックホールの影響が銀河の外側にまで及ぶことを世界で初めて示した成果である。

本記事では、今回の発見を可能にしたXRISMの観測装置と、研究内容について解説する。

X線分光撮像衛星XRISMとは

X線分光撮像衛星XRISM(クリズム、X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission)は、日本で7番目のX線天文衛星である。

2023年9月7日にH-IIAロケット47号機によって打ち上げられ、現在は地球から約550kmの軌道を周回。JAXAが主導し、NASAや欧州宇宙機関(ESA)などが参加する国際共同ミッションである。

XRISMの目的は、宇宙に存在する高温ガス「プラズマ」をX線で観測し、宇宙における物質やエネルギーの流れを調べることである。銀河団や超新星残骸、ブラックホール周辺などを観測対象とし、宇宙で起こる高温・高エネルギー現象の解明を目指している。

この目的を実現するため、XRISMには2つの観測装置が搭載されている。一つは、X線のエネルギーを高い精度で測定する「Resolve」、もう一つは、広い範囲をX線で撮影する「Xtend」だ。

Resolveによって高温ガスの温度や元素、動きを詳しく調べ、Xtendによってそのガスが宇宙空間のどこに、どのように広がっているのかを捉える。2つの装置を組み合わせることで、高温ガスの性質と分布の両方を観測できる。

Resolve|従来の約30倍の精度でX線のエネルギーを測定

Resolveは、天体から届いたX線光子一つひとつのエネルギーを精密に測定する分光(※2)装置である。

X線が検出器に当たった際に生じるわずかな温度上昇を測定する「X線マイクロカロリメータ」を採用。小さな温度変化を捉えるため、検出器は絶対零度に近い約50mK、摂氏約マイナス273.1度まで冷却される。

Resolveの視野は約3分角四方で、検出部は6×6の36画素から構成されている。観測できる範囲は広くない一方、鉄輝線付近では、従来のX線CCDと比べて約30倍高いエネルギー分解能を持つ。

エネルギー分解能が高いほど、これまで一つに重なって見えていたX線の輝線を細かく見分けることができる。そのためResolveでは、高温ガスに含まれる元素の種類や量、温度に加え、ドップラー効果を利用してガスの移動速度や乱流の激しさまで詳しく調べることができる。

今回の研究でも、この高い分光性能を利用して、銀河団を満たす高温ガスに含まれる鉄が放つX線を測定し、ガスの激しい運動を捉えた。

※2:光の波長ごとの強さを測定すること。人間の目で言えば色合いを見ることに当たる。

※3:分角(′)は角度を表す単位で、1分角は1度の60分の1に相当する(1°=60′)。天文学では、天体が空の上でどれくらいの大きさに見えるかを表す際に用いられる。地球から見た月や太陽の見かけの直径は、およそ30分角(0.5°)である。

Xtend|広い範囲を撮影するX線カメラ

Xtendは、X線を使って天体の画像を撮影するX線CCDカメラである。

約38分角×38分角の広い撮像視野を持ち、見かけ上の満月よりも広い範囲を一度に撮像できる。Resolveよりも大幅に広い視野を持ち、銀河団や超新星残骸など、宇宙空間に大きく広がった天体の観測に適している。

Xtendでは、X線が届いた位置だけでなく、そのエネルギーも同時に測定できる。そのため、天体の形や明るさの分布に加え、場所による高温ガスの状態の違いも調べられる。

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今回の研究内容と成果|XRISMで銀河団を観測

東北大学の山田智史助教、金沢大学の上田周太朗特任准教授、東北大学の野田博文准教授、東京都立大学の藤田裕教授らの研究チームは、XRISMを使い、地球からりゅう座の方向に約34億光年離れた「H1821+643銀河団」を観測した。

ブラックホールの周囲に物質が落ち込むと、その一部は降着円盤付近から高速の風として噴き出す。この風は周囲のガスを加熱したり、かき乱したりすると考えられている。

ブラックホールの影響が銀河の外側まで届けば、高温ガスの冷却や新しい星の形成を左右し、銀河や銀河団の成長にも影響する。そのため研究チームは、ブラックホールから離れた銀河団ガスの動きを調べ、その影響がどこまで広がっているのかを検証した。

観測対象は急成長中の超巨大ブラックホール

H1821+643銀河団の中心には、太陽の約26億倍の質量を持つ超巨大ブラックホールが存在する。

このブラックホールは周囲の物質を活発に取り込み、非常に強い光を放つ「クエーサー」として観測されている。H1821+643は、中心にクエーサーを持つ銀河団として地球に最も近く、ブラックホールが周囲の銀河団ガスへ与える影響を調べるのに適した天体である。

鉄が放つX線から約300km/sのガス運動を測定

研究チームは、銀河団を満たす高温ガスに含まれる鉄が放つX線をResolveで詳しく調べた。

ガスが観測者に近づいたり遠ざかったりすると、ドップラー効果によって鉄が放つX線のエネルギーがわずかに変化する。ガスの速度にばらつきがあるほど、観測されるX線の輝線は幅広くなる。

Resolveでこのずれを測定した結果、銀河団の中心部では約300km/sの速度のばらつき(速度分散)を持つ激しいガス運動が確認された。

比較対象となったペルセウス座銀河団では約164km/sであり、H1821+643のガスが特に激しく動いていることが分かった。

なお、約300km/sはブラックホールから噴き出す風自体の速度ではない。風の影響によってかき乱されたと考えられる、周囲の銀河団ガスの動きを示している。

チャンドラX線天文衛星が撮影したH1821+643銀河団のX線画像。緑色の点線は、1辺約90万光年に相当する観測領域を示している。下図は、中心から半径約30万光年の領域について、XRISMのResolveが測定した鉄イオンのX線輝線のエネルギー分布である。白色が観測データ、赤色が解析モデル、紫色が比較対象のペルセウス座銀河団を示す。H1821+643では輝線の幅が大きく広がっており、高温ガスが広い範囲で激しく動いていることが分かる。
チャンドラX線天文衛星が撮影したH1821+643銀河団のX線画像。緑色の点線は、1辺約90万光年に相当する観測領域を示している。下図は、中心から半径約30万光年の領域について、XRISMのResolveが測定した鉄イオンのX線輝線のエネルギー分布である。白色が観測データ、赤色が解析モデル、紫色が比較対象のペルセウス座銀河団を示す。H1821+643では輝線の幅が大きく広がっており、高温ガスが広い範囲で激しく動いていることが分かる。(Yamada et al.より改変©JAXA)

観測から明らかになったブラックホールの影響

約30万光年先まで広がる激しいガス運動

研究チームは、チャンドラX線観測衛星の先行観測から得られた高温ガスの明るさや温度、元素量の分布をもとに、Resolveで観測した鉄のX線がどの領域から放射されているかを調べた。

その結果、鉄のX線の90%以上が、中心から約20〜100kpc、約6万5,000〜33万光年離れた領域に由来すると推定された。

中心銀河の大きさを大きく超える領域から、激しいガス運動を示すX線が観測されたことから、ブラックホールの影響が約30万光年規模の銀河団空間にまで及んでいることが示された。

周囲へ伝わるエネルギーは推定の100倍以上

研究チームは、観測された激しいガス運動を生み出す有力な仕組みとして、ブラックホール周辺から噴き出す風が周囲の高温ガスに衝撃波を発生させる可能性を挙げている。この解釈に基づくと、周囲のガスへ伝わったエネルギーは約10の54乗ジュール規模に達すると見積もられる。

さらに、ブラックホールから周囲へ伝わったエネルギーの割合は、少なくとも約1〜10%と推定された。従来、同程度の距離で観測されたクエーサーの風から見積もられていた割合は0.01%以下であり、今回の結果はそれを100倍以上上回る。

今回行われたXRISMによる高精度なX線分光観測によって、ブラックホール周辺で生じたエネルギーが銀河の外側まで伝わり、約30万光年規模にわたって周囲のガスをかき乱している可能性が示された。

本研究成果は、2026年7月28日(英国時間)付で科学誌『Nature Astronomy』に掲載されている。

さいごに

今回の成果は、日本が主導して開発したX線分光撮像衛星XRISMの高精度な観測によって得られた。特にResolveの高いエネルギー分解能によって、ブラックホールから遠く離れた高温ガスのわずかな動きを測定できたことが、今回の発見につながった。

今後、XRISMや次世代のX線天文衛星による観測が進むことで、ブラックホールの影響が周囲の銀河や銀河団へどのように広がるのか、さらに詳しく明らかになると期待される。

研究を主導した山田助教は、「こうした研究の進展により、宇宙における物質や元素の循環の理解が進み、星や生命を形づくる材料がどのように宇宙へ広がっていったのかという起源の解明にもつながると期待しています」と今後の展望を語っている。

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参考

JAXA,X線分光撮像衛星(XRISM)(2026-08-04閲覧)

JAXA,ブラックホールの「爆風」、30万光年先まで到達 〜想定の100倍超のエネルギーを発見〜

Yamada, S. et al., “Vigorous turbulence driven by quasar-mode feedback in a cluster core,” Nature Astronomy (2026). https://doi.org/10.1038/s41550-026-02939-x

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