
2026年11月4日、宇宙建築技術を開発する株式会社Space Quarters(以下、Space Quarters)は、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の船外で、電子ビーム溶接とX線透過検査の実証を2028年に実施するため、Space BD株式会社と実験設備の利用契約を締結したと発表した。
本記事では、実証計画の概要や今後の展開について解説する。
Space Quarters、ISSで宇宙溶接・検査を実証へ
Space Quartersは、宇宙空間で構造物を建設するためのロボットシステムや宇宙構造物の設計・開発を手がける、2022年設立のスタートアップ企業である。
今回の実証では、同社が開発する「電子ビーム溶接ユニット」と「X線透過検査ユニット」を使用し、宇宙空間での溶接から接合部分の品質確認まで、一連の工程を検証する。
実証には、JAXAが整備・運用する中型曝露実験アダプタ「i-SEEP」を利用する。
i-SEEPは、ISSの日本実験棟「きぼう」の船外実験プラットフォームで使用される設備で、複数の実験装置を搭載し、実験に必要な電力や通信環境などを提供する。
今回、Space Quartersは、JAXAからi-SEEPを利用した軌道上サービスの提供事業者に選定されているSpace BDと契約を締結し、実証設備の利用予約を完了した。
今後は、2028年の実証に向けて、装置の技術調整や安全審査などを進める予定だ。

宇宙空間で実証する2つの技術
① 電子ビーム溶接|宇宙の真空環境を活用して金属を接合
電子ビーム溶接とは、高速に加速した電子を金属に照射し、その熱で金属を溶かして接合する技術である。
電子ビーム溶接には真空環境が必要となるため、地上では一般的に真空設備を使用する。一方、宇宙空間では周囲の真空環境を利用できるため、溶接用の大型真空設備を追加する必要がない。
加えて、溶接部分を保護するシールドガスや、接合に用いる追加の金属材料(溶加材)が不要で、エネルギー効率が80%以上と高いことも特徴だという。
Space Quartersは、省エネルギーで金属を加熱する技術や電子ビームの精密な制御技術、小型・高効率の高圧電源、宇宙空間での高い信頼性を確保する絶縁技術を独自に開発。これらを組み合わせることで、世界で最も軽量で高効率の電子ビーム溶接ユニットを実現したとしている。

同技術は、同社が開発する宇宙建築システムの基盤技術の一つであることに加え、溶接ユニット単体でも、顧客企業が利用するツールとして軌道上や月面での設備の組み立て・修理への活用を想定している。
2028年の実証では、宇宙空間で複数回の溶接を行い、装置の性能や耐久性を評価する予定だ。
② X線透過検査|溶接部分の内部欠陥を確認
今回の実証では、金属を接合するだけでなく、X線を使って溶接部分の内部を調べる「非破壊検査」も行う。
非破壊検査とは、対象物を切断したり壊したりせずに、内部の状態や欠陥の有無を調べる検査方法である。
溶接によって金属を接合できても、内部に空洞や亀裂などの欠陥が残っている場合、構造物の強度や安全性に影響する可能性がある。
そこでSpace Quartersは、X線を照射して接合部分の内部を調べる「X線透過検査ユニット」を開発している。
同装置は1mm未満の微小な内部欠陥を検出。また、電子ビーム溶接ユニットの開発で培った小型・高効率電源や絶縁技術を応用し、小型・軽量化を実現しているという。
溶接した試験片を地球に持ち帰り、詳細に分析
宇宙空間で溶接した試験片は、実証後に地球へ持ち帰り、詳しく分析する計画であるとのこと。
地上では、溶接部分の結晶構造や、強度・変形しやすさなどの機械的性質を詳しく分析する。これにより、宇宙環境での溶接現象への理解を深め、技術の信頼性向上につなげる狙いだ。
宇宙空間での溶接・検査と、地上に持ち帰った試験片の詳細な分析を組み合わせることで、実用化に向けた技術的な課題を検証する。

宇宙での建設・修理への応用と実用化への展望
宇宙空間で大型構造物を建設する場合、地上で完成させた構造物をそのまま打ち上げるには、ロケットの搭載スペースや輸送能力による制約がある。そのため、部材を分けて宇宙へ運び、現地で組み立てる技術が求められる。
こうした宇宙建築では、部材を接合するだけでなく、接合部分の品質を現地で確認することも重要となる。今回の実証は、宇宙空間での建設・修理に必要な一連の工程の実現につながる取り組みだ。
Space Quartersは、2028年の軌道上実証を通じて、両ユニットの技術成熟度「TRL8」への到達と商品化を目指している。
TRL(技術成熟度)とは、技術が実用化に向けてどの程度開発されているかを示す指標で、一般的に1から9までの段階で評価される。TRL8は、実際の使用を想定したシステムとして完成し、試験や実証によって性能が確認された段階を指す。
今後、Space QuartersはSpace BDの支援を受けながら、2028年の実証に向けた準備を進める方針だ。
さいごに
宇宙空間での構造物の建設を実現するには、部材を接合する技術や、その品質を現地で確認できる仕組みが重要となる。
Space Quartersにとって今回の実証は、独自開発した溶接・検査装置の商品化に向けた重要な段階となる。
2028年の実証でどのような成果が得られ、宇宙建築技術の実用化につながっていくのか、今後の動向が注目される。
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