
2026年10月28日、九州工業大学は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究により、AIを用いて人工衛星の表面帯電を自動検出する手法を開発したと発表した。
AIの一種である畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて、衛星の観測データから本現象を自動検出する手法の開発は世界初だという。
本記事では、表面帯電が引き起こす問題や開発されたAI技術の概要、研究成果の今後の活用について解説する。
衛星の「表面帯電」は何が問題なのか
表面帯電とは
人工衛星の表面帯電とは、宇宙空間を飛び交う電子などの影響によって、衛星の表面が電気を帯びる現象である。
宇宙空間には、電子やイオンと呼ばれる電気を帯びた粒子が存在する。人工衛星がこれらの粒子にさらされると、衛星表面に電気が蓄積することがある。
地上の機器では、アース(接地)によって余分な電気を大地へ逃がすことができるが、宇宙空間を飛行する人工衛星では同じ方法を利用できない。
そのため、衛星の周辺環境や表面材料などの条件によって、表面帯電は発生する。
衛星の故障リスクに
人工衛星の表面帯電が問題となるのは、蓄積した電気によって放電が起こる可能性があるためだ。
衛星の表面では、場所によって電気のたまり方が異なることがある。この差が大きくなると、表面の異なる場所の間に大きな電位差が生じる。
電位差が一定以上に大きくなると、火花のような放電が発生し、太陽電池や表面材料を損傷する可能性がある。さらに、放電に伴う電気的な影響によって、衛星に搭載された電子機器の誤作動などを引き起こすおそれもある。
現在の人工衛星では、表面帯電による放電を防ぐため、衛星表面に電気を流しやすい材料や塗料を使用するなど設計段階からさまざまな対策が講じられているが、人工衛星の表面帯電を完全に防ぐことは難しい。
2024年に学術誌『Advances in Space Research』で公表された宇宙機の表面帯電に関する研究レビューでも、低軌道衛星や衛星群の増加に伴い、宇宙環境による技術的なリスクが高まる可能性が指摘されている。

約19年分のデータを解析し、帯電しやすい条件を解明
CNNを用いた表面帯電の自動検出技術を開発
九州工業大学とJAXAによる今回の研究では、衛星が帯電しやすい宇宙環境を明らかにするため、AIによる表面帯電の自動検出手法を開発した。
衛星が強く負に帯電すると、周囲の正イオンが衛星に引き寄せられて加速し、衛星の観測データに「イオンライン」と呼ばれる特徴的な模様が現れる。
本手法では、AIの一種である畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を活用し、この模様を識別させることで、衛星が帯電したと考えられる時間帯を観測データからを自動的に抽出する。
従来は、電子の量や周囲のプラズマ密度などに一定の基準を設けて判定する方法や、人の目で観測データを確認する方法が用いられていた。
一方、今回の手法では、AIがデータの特徴を認識するため、固定的な判定基準に依存せず、帯電現象を効率的に抽出できる。
研究チームは、開発したAIを用いて、米国の気象衛星プログラム「DMSP」のF16衛星が2005年から2023年に取得した約19年分の観測データを解析。その結果、約3,000件の帯電現象を自動的に抽出することに成功した。

周囲のプラズマ環境が衛星の帯電の強さに影響
約3,000件の帯電現象を分析した結果、衛星の帯電状態は、オーロラを引き起こす高エネルギー電子と、周囲の電離圏プラズマによる電流のバランスによって決まることが定量的に示されたという。
オーロラは、宇宙空間から地球上空に降り込んできた高エネルギーの電子などが、大気中の原子や分子と衝突することで発生する発光現象である。
こうした高エネルギー電子が人工衛星に衝突して蓄積すると、衛星は負に帯電する。
一方、地球上空約60~1,000kmに広がる電離圏には、電子やイオンなどの電気を帯びた粒子(プラズマ)が存在する。このうち、正イオンが衛星に流入すると、負の帯電を緩和する方向に働く。
高エネルギー電子が衛星の帯電を強めること自体は以前から知られていたが、今回の研究では、長期間の観測データをもとに、周囲のプラズマ環境との関係を詳しく分析。
人工衛星の帯電リスクを判断するには、高エネルギー電子だけでなく、周囲のプラズマ環境も考慮する必要があることが示された。
衛星の故障リスク予測への活用に期待
今回の研究成果により、人工衛星が強く帯電する宇宙環境への理解が深まり、将来的な帯電・放電リスクの予測精度向上につながることが期待される。
研究チームは今後、過去にオーロラ活動が活発だった時期まで解析対象を広げ、オーロラの活動と電離圏の状態を組み合わせた分析を進める方針だ。これにより、人工衛星が帯電しやすい時期や場所の予測につなげることを目指す。
こうした予測技術が実現すれば、衛星の設計段階で帯電リスクを考慮した対策を講じるほか、運用中にリスクが高まる状況を事前に把握し、重要な作業の実施時期を判断するなどの活用も考えられる。
なお、本研究成果は、米国地球物理学連合(AGU)が発行する学術誌『Space Weather』に2026年10月27日付で掲載された。
さいごに
今回、九州工業大学とJAXAは、AIを活用して約19年分の衛星観測データから約3,000件の表面帯電現象を抽出し、帯電しやすい宇宙環境の特徴を明らかにした。
人工衛星の表面帯電は、放電による故障や誤作動につながる可能性があり、衛星の安全運用における重要な課題の一つである。
今後、帯電が発生しやすい時期や場所の予測精度が向上することで、衛星の設計や運用におけるリスク低減への活用が期待される。
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