
2026年10月26日、国土交通省国土技術政策総合研究所(以下、国総研)は、株式会社QPS研究所(以下、QPS研究所)および株式会社Synspective(以下、Synspective)と、それぞれ小型SAR衛星を活用した火災被害検出技術の開発に関する共同研究契約を締結したと発表した。
本記事では、共同研究の内容やSAR衛星による火災被害の検出方法、衛星データの防災分野への活用可能性について解説する。
QPS研究所とSynspective、国総研と共同研究へ
国内SAR衛星企業2社がそれぞれ国総研と連携
今回の共同研究には、国内で小型SAR衛星を開発・運用するQPS研究所とSynspectiveの2社が参加する。
QPS研究所は、福岡県福岡市に本社を置き、小型SAR衛星「QPS-SAR」の開発・製造・運用を手がける宇宙開発企業である。複数の衛星を連携させることで、地球上の同じ地域を高頻度に観測できる衛星コンステレーションの構築を進めている。
一方、Synspectiveは、小型SAR衛星「StriX」の開発・運用に加え、衛星観測データの販売や、データ解析を通じたサービスの提供を手がけている。
国総研は両社と個別に共同研究契約を締結。両社が持つ衛星観測・解析技術と、国総研が蓄積してきた火災科学や被害調査の知見を組み合わせ、火災被害検出技術の開発に取り組む。
衛星データを活用した火災被害の検出手法を検討
共同研究では、過去に発生した広域火災の被災状況や現地調査結果と、SAR衛星の観測データを照合し、火災による地表面や構造物の変化を高精度に把握し、被災範囲の抽出に役立つ技術の開発に取り組む。
具体的には、衛星の観測方法に応じた解析手法の検討や、実際の被害状況に基づく検出精度の検証などを進める。
さらに、災害の特性を踏まえ、衛星が観測する地域やタイミングなどを最適化する手法についても検討する。

SAR衛星で火災被害を把握する仕組み
夜間や煙の影響を受けにくいSAR衛星
SAR(合成開口レーダー)衛星とは、地表に向けて電波を照射し、反射して戻ってくる電波を利用して地表の状態を観測する人工衛星である。
一般的な光学衛星は太陽光を利用して地表を撮影するため、夜間や雲に覆われた地域の観測には制約がある。
一方、SAR衛星は自ら電波を発するため、昼夜を問わず、雲や煙の影響を受けにくい観測が可能である。
この特徴から、大規模な市街地火災や森林火災など、煙によって被災地の様子が確認しにくい状況でも、広範囲の被害把握に役立つ可能性がある。
電波の反射の変化から火災被害を検出
SAR衛星は、火災そのものを撮影するのではなく、火災によって生じた地表面や建物の変化を捉えることで、被災範囲を推定する手法への活用が期待されている。
SAR衛星が地表に照射した電波の反射は、建物の形状や地表の状態などによって異なる。そのため、火災によって建物が損傷したり、地表面の状態が変わったりすると、電波の反射にも変化が生じる場合がある。
こうした変化が、火災被害を検出する手がかりとなる。
ただし、電波の反射は火災以外の要因でも変化するため、実際の被害状況と衛星データを照らし合わせ、火災による変化を正確に見分ける技術が必要となる。
火災被害検出技術の実用化に向けて
国総研はこれまでにも、SAR衛星を活用した火災被害の検出に取り組んできた。
2024年の能登半島地震で発生した石川県輪島市の大規模火災では、JAXAのSAR衛星「ALOS-2」の観測データにAI(深層学習)を適用し、焼失範囲の検出を試みた。
その結果、衛星データから推定した火災範囲が、現地調査で確認された焼失区域とほぼ一致し、SAR衛星による詳細な火災被害の把握に一定の可能性が示された。
ただし、この検証は限られたデータを使ったものであり、開発した手法をそのまま実際の災害対応に利用できる段階には至っていない。
今回の共同研究では、QPS研究所とSynspectiveの小型SAR衛星を活用することで、より多様な火災事例や観測条件に対応できる被害検出技術の開発を目指す。
技術が確立されれば、被災範囲の早期把握に加え、現地調査を優先する地域の判断など、消防や自治体による災害対応への活用が期待される。
なお、国総研が2026年9月に公表した公募要領では、研究期間を2028年3月31日までとしている。実用化時期や具体的なサービス展開については、現時点で明らかになっていない。
さいごに
SAR衛星は昼夜や天候の影響を受けにくい観測が可能である一方、取得したデータの解析には専門的な知識や技術が必要となる。
特に、電波の反射は地形や植生、建物の状態などによって変化するため、火災による被害を正確に判別することは容易ではない。
こうした解析の難しさがあるからこそ、QPS研究所とSynspectiveが持つ衛星に関する技術的知見と、国総研が蓄積してきた火災調査・分析の知見を組み合わせることが重要となる。
今回の研究成果が、SAR衛星データによる火災被害の把握を高度化し、実際の災害対応での活用につながるか注目される。
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