
2026年2月10日、月面輸送サービスを開発するispaceは、2026年3月期第3四半期(Q3)の決算を発表した。
決算説明では、複数の月面ミッションの進展に加え、JAXAやESAとの連携拡大、宇宙戦略基金への採択などが示され、同社の事業基盤が着実に広がっていることが明らかになった。
本記事では、決算のポイントとともに、各ミッションの進捗や資金調達の状況について整理する。
目次
ispaceの概要
ispaceは2010年設立の宇宙スタートアップで、月面への物資輸送を主力事業とする企業である。
同社は月着陸機(ランダー)を開発し、宇宙機関や民間企業の機器・実験装置を月面まで運ぶ「月面輸送サービス」の商業化を目指している。これは、地球と月の間で物流や通信、資源利用を行う「シスルナ経済圏※1」の実現に不可欠なインフラにあたる。
日本に本社を置き、米国、ルクセンブルクにも拠点を構える国際体制のもと、複数の月面輸送ミッションを並行して開発している。2023年には民間として初の月面着陸挑戦を実施し、現在は次世代ランダーの開発と輸送契約の獲得を進めている。
事業領域は、月面輸送サービスにとどまらず、月周回通信、データ取得、資源利用の将来展開を見据えたインフラ構築にも広がっている。国家主導から商業主導へ移行しつつある月面開発において、ispaceは輸送インフラを担う中核プレイヤーを目指している。

ispaceの決算内容|2026年3月期Q3
ispaceが発表した2026年3月期Q3決算は下図の通りである。

2026年3月期Q3の決算内容
同社が発表した2026年3月期第3四半期決算では、月面輸送ミッションの開発が進む中で、研究開発や製造体制の強化、人材投資を中心とした開発投資が本格化している状況が示された。
2026年第3四半期(Q3)までの業績では、純損失は約62億円となったが、これはランダー開発や試験、量産に向けた準備など、将来のミッション実行を前提とした先行投資による影響が大きい。
売上高(Q3累計)は約27億円となり、依然として開発フェーズにあるため収益規模は限定的であるものの、NASA関連プログラムや各国宇宙機関との契約、技術開発案件などを中心に、複数の月面ミッションが具体的な打上げスケジュールを伴って進行している状況といえる。
総じて今回の決算は、短期的には赤字が続くものの、ミッション開発の進展と資金・契約の確保により、将来の収益化に向けた体制整備が進んでいることを示す内容となった。
月面輸送ミッションの進展
ispaceは複数の月面ミッションを並行して進めており、2027年以降の打上げを見据えた開発が進行している。
Mission3:NASA関連ペイロードを輸送予定
Mission3では、NASAの商業月面輸送サービス(CLPS)に関連するペイロードを輸送する計画が進んでいる。CLPSは、アルテミス計画の進展に合わせて科学機器や技術実証機を月面へ輸送するための商業サービスとして位置づけられており、民間企業が月面探査インフラを担う枠組みの一つである。
着陸地点は月の裏側・南極付近が想定されており、複数の実験機器やローバーの輸送が計画されている。また、月周回軌道にリレー通信衛星を展開し、将来的なデータサービス提供も視野に入れている。現時点におけるペイロードの契約総額は約127億円とされ、2027年の打上げに向けて営業および試験が進行中である。
Mission4:SBIR補助金を活用したランダー開発
Mission4では、日本の経済産業省が実施するSBIR制度により最大120億円規模の補助金を確保し、当ミッションを初号機とするシリーズ3ランダー(仮称)の開発が進められている。
本ランダ―はMission2で運用されたRESILIENCEランダーより大型化された本格的商業化モデルであり、ペイロード積載可能容量は最大数百kgとなる見込みである。
打上げは2028年を予定しており、熱構造試験が完了し、構造モデルの製造段階へ進んでいる。ペイロードには大学機関や各国の宇宙機関が参加予定で、現時点におけるペイロードの契約総額は約58億円とされている。
Mission6:高精度着陸技術を活用し2029年打上げへ
Mission6では、JAXAのSLIMで実証されたピンポイント着陸技術を活用し、月極域への着陸を目指す。
宇宙戦略基金第二期に採択され、最大200億円規模の支援が見込まれている。また、ESAの月面探査計画MAGPIE※2では119億円の予算が確保され、ローバー開発や輸送契約が検討されている。打上げは2029年を予定している。
JAXA・ESA・民間企業との連携強化
ispaceは単独の輸送サービス企業にとどまらず、シスルナ経済圏※1を見据えた連携を広げている。
JAXAとは推進系の効率化やデブリ低減などの研究契約を締結し、技術開発と制度設計の両面で協力を進めている。さらに、JALグループとは月面輸送や運航管理分野での協業を検討し、水処理企業の栗田工業とは月面水資源インフラ構築に向けたパートナーシップを締結した。
また、立命館大学を中心とする宇宙戦略基金のプロジェクトにも参加し、月面基地建設に必要な測量・地盤調査技術の開発にも関与している。
サウジアラビア拠点設立と市場拡大
ispaceはサウジアラビアに新たな拠点を設立し、日欧米に続く4つ目のグローバル拠点とする方針を示している。
同国の宇宙市場は年平均12%で成長し、2035年には約4.9兆円規模に達すると予測されており、政府主導の投資が進んでいる。現地法人の設立により、政府機関や研究機関との大型契約の獲得を目指すとしている。財務状況・資金調達の状況
ispaceの財務面では、複数の月面ミッションを並行して進めるための資金確保が重要なテーマとなっている。決算説明資料によれば、同社は手元資金の確保に加え、SBIR制度や宇宙戦略基金などの公的資金を活用しながら、開発費の一部を外部資金で賄う体制を構築している。
また、月面輸送ミッションに関する契約や補助金は、単年度で完結するものではなく、複数年にわたって段階的に資金が投入される仕組みとなっている。このため、損益計算書上は赤字が続いているものの、開発の進展に応じて資金が流入する構造となっている点が特徴である。
さいごに
ispaceは、輸送、通信、資源利用、運航、インフラといった月面経済圏の複数レイヤーに関与する戦略を取っている。特に、JAXA・ESA・NASAといった主要プレイヤーとの関係構築と、公的資金を活用した開発体制の確立は、日本の民間宇宙企業としては大きな前進といえる。
月面ビジネスはまだ初期段階にあるが、輸送サービスを担う企業が存在しなければ市場は成立しない。ispaceの取り組みは、その基盤を構築する試みとして重要な位置づけにあるといえるだろう。
ispaceを含め、宇宙業界では現在、様々な企業がサービスの商用化を進めている。本業界での仕事に興味のある方は、業界特化型の人材マッチングサービス「スぺジョブ」をぜひチェックしていただきたい。

脚注
※1(シスルナ経済圏):シスルナ経済圏とは、地球と月の間の宇宙空間で行われる輸送、通信、探査、資源利用などの活動によって形成される宇宙産業の経済圏を指す。
※2(月面探査計画MAGPIE):MAGPIEとは、ESAが進める月面探査計画で、月極域での資源探査や技術実証を通じて、将来の月面基地やインフラ構築に必要なデータを取得することを目的としたプログラムである。









