【水産×衛星】 人工衛星で水産業界の課題を解決!注目のサービス3選

近年、宇宙産業が急速に発展しており、宇宙産業と他の産業との融合も進み、今までにないサービスが多く開発されてきている。

本記事では、「水産×衛星」ということで、衛星技術を水産分野に活用したサービスを3つご紹介。

それぞれのサービスが解決を目指す水産業の課題と、サービスの内容について言及する。

水産養殖向け海洋データサービス「UMITRON PULSE」

水産業界の衛星データ活用において、今、最も進んでいるのは、おそらくウミトロン株式会社であろう。

同社が提供する「UMITRON PULSE」は、Web上で海洋環境を可視化する水産養殖向けのサービス。

2020年にリリースされたサービスだが、数多ののメディアに取り上げられているので、宇宙ビジネスに関心のある方は、その名前を知っている場合も多いだろう。

世界中の様々なエリアの、養殖業に役立つ高解像度の海洋データを日次で確認することが可能で、PC、Android、iOSと、全ての端末に対応し、無料で利用することもできる。

UMITRON PULSE ©ウミトロン株式会社

養殖業における課題

ブリ、マダイ、マグロ、サーモン等を育てる魚類養殖や、カキ、ホタテ、真珠などの貝類養殖、ノリ、コンブ、ワカメなどの海藻類の養殖は、天然漁獲高が停滞する中、世界の食糧生産と水産物供給を支える重要産業。

一方で、海は環境変化が激しく給餌や採苗、出荷の時期等に大きな影響を与え、かつ有害なプランクトン繁殖などのリスクとなる場合がある。

例えば、水質変化に伴い栄養塩が減少すると、海藻類が生育不良となる。

また、プランクトンの繁殖が進み、赤潮が起こると、魚が酸素不足で窒息死してしまう。さらに、毒のあるプランクトンを食べたカキやホタテガイは捨てなければならない。

これらの被害を抑え、養殖生産を安定的に行うには、プランクトンの量や分布、栄養塩の情報などの海の環境を精緻に把握することが重要となるのだ。

サービスの内容

上記の課題を解決するのが、UMITRON PULSE

このサービスは、衛星リモートセンシング技術を活用することで海洋環境のデータを提供する。

30種類の異なる衛星データやセンサーデータを海洋モデルと組み合わせて利用することで、養殖現場では取得困難な情報や、幅広い地域の情報を、高頻度で、かつ手軽に取得することができる。

取得するデータと、サービスの特徴は以下の通り。

[取得するデータ]

  • 海面水温・水温
  • 波高・海流・風
  • クロロフィルa(赤潮の発生に関連)
  • 塩分
  • 溶存酸素

[サービスの特徴]

  • 視覚的にわかりやすいカラースケール
    パラメータ・表示範囲によってカラースケールを調整。ポイントごとの違いを簡単に判断可能。
  • 水深の調整
    異なる水深のデータにアクセスできる。
  • 過去・予測データの取得
    日付を変更し、簡単に2年分の過去データと2日先の予測データを見ることが可能。
  • 地点の保存
    最大5地点を保存でき、簡単にデータを比較できる。
  • データをグラフで表示
    場所を選択すると、全てのパラメータの過去データ・予測データをグラフで表示。水深・時間・複数のパラメータを比較できる。
© ウミトロン株式会社

UMITRON PULSEは、既にユーザーを世界中から獲得。

誰でも無料でダウンロード・利用できる上に、有料プランも一月3,300円とお手軽である。

ウミトロンは、同サービスの他にも、最新テクノロジーを用いた水産養殖に関するサービスを多く開発・提供。

将来人類が直面する食糧問題と環境問題の解決を目指している。

UMITRON PULSE

ウミトロン株式会社

漁場の提案を行うデジタル操業日誌「トリトンの矛」

「トリトンの矛」は、オーシャンソリューションテクノロジー株式会社が開発する、漁業報告の自動化と、若手漁師のための漁業提案を行う「デジタル操業日誌」。

AIと衛星データを用いたサービスだ。

トリトンの矛 ブランドムービー © オーシャンソリューションテクノロジー

漁業の課題

トリトンの矛が解決する課題は大きく分けて2つ。

1つは、漁獲報告に関する事務負担である。

これまで、漁師は手書きで操業日誌をつけていたが、令和2年から改正された漁業法が施行され、それらの情報をデータ化することが必要となった。

漁業権の免許を持つ場合は、知事に対して資源管理の状況漁場の活用状況(漁獲量や操業日数等)などについて年1回以上報告することが義務付けされていた。

この法律は、漁獲量をコントロールし、天然の魚を守るために施行されたが、現場としては漁師、漁協ともに漁獲報告には何のインセンティブもなく、事務負担のみが増大していた。

2つ目の課題は、若手の漁師への技術継承の難しさである。

漁師は、漁場の選定に関し、ほとんどを自分の経験から得た技術や勘に頼っている。

何十年もの経験から得た技術や勘を言語化し、若手に伝えることは非常に難しい。

ベテラン漁師と若手が一緒に現場に出ても、若手が自分で漁場の最適ポイントを見つけるまでに、20年以上かかることもあるという。

しかし、水産業は漁労長の6割が55歳以上となり、深刻な高齢化が進む。ベテラン漁師が現場に出れる時間は限られているのだ。

若手が育つまでの時間、漁獲量は減少。大きな損失となる。

ゆえに、若手漁師へのスムーズな技術継承は、漁業の大きな課題であるのだ。

サービスの内容

「トリトンの矛」は、漁業者の「過去の経験の勘」と衛星データから得た「海洋気象情報」を元にAI解析を実施。

過去の操業情報や海水温、潮流を可視化するとともに、最適な漁場の提案を行う。

さらに、航跡(時刻、位置情報)を自動登録し、漁業者が入力した漁獲量などの操業情報とともに漁協や市場に自動で共有。

それに加えて、自治体など管理者への漁獲報告を自動で送信

面倒な手続きを簡略化するとともに、報告の不正も防止するのだ。

©株式会社ユー・エス・イー

オーシャンソリューションテクノロジー HP

トリトンの矛 資料

海上でのネットワークを強化「CoastalLink」

CoastalLinkは、フューチャークエスト株式会社が開発する、低軌道衛星通信を活用した海上通信プラットフォームサービス。

すべての小型船と大型船間や港湾施設などを繋ぐ、デジタル交信を実現する。

©フューチャークエスト

海上コミュニケーションにおける課題

海上での船間での衝突事故や座礁事故では、最悪の場合沈没するケースもありいかに早く救助を呼べるかが重要である。

その際、陸上からの支援を得にくいため、問題が起こった際には、近隣を航行する船舶や人々との共助が必要だ。

そのためには海上でのコミュニケーションが必要不可欠であるが、船舶の大きさや海洋域によって利用可能な無線周波数などが異なり、それらを超えた無線通信は不可能。

また、携帯電話や衛星電話も、電話番号がわからない相手へ連絡することはできない。

よって、相手が限定されない効率的で、素早い交信手段が求められているのである。

サービスの内容

CoastalLinkの交信プラットフォーム

上記の課題を解決するCoastalLink。その特徴は、以下の4つ。

  • 全ての船舶と交信が可能
  • 直感的に交信を開始できるインターフェイス
  • 小型船向け、大型船向け、海岸施設向けに最適化したソリューションを提供
  • 効率的な情報共有ができる機能
開発中の画面 直観的に交信を開始できるインターフェイス
開発中のサービスのインターフェイス

衛星通信を利用することで、携帯電話が通じにくい遠方でも利用可能に。

さらに、使い方も簡単で、小型船向けソリューションは手持ちのスマートフォンにアプリケーションを入れるだけ。画面上のアイコンをタップするのみで交信を開始できる。

フューチャークエストは、2024年のサービス開始を目指している。

フューチャークエスト HP

さいごに

いかがだっただろうか。

今回は、筆者が特に注目している「水産×衛星」サービスを3つご紹介した。

広範囲での様々な海洋データの取得や、遠方の海上でも利用可能な通信など、衛星技術がもたらす恩沢は大きい。

今後も、GPSのように、衛星を利用したサービスが自然と身の回りに溢れていくだろう。

参考:

ウミトロン、水産養殖向け海洋データサービス「UMITRON PULSE」モバイルアプリをリリースー世界中の海洋データを手のひらにー

AIを活用した漁業者向けサービス「トリトンの矛」を開発

海上通信プロバイダ事業を推進するフューチャークエスト北海道苫小牧において低軌道衛星通信を活用したCoastalLinkの接続実証評価を実施

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