KDDIと京大が実証した世界初の光通信技術について解説!
©Space Connect

2023年10月19日、 KDDIとKDDI総合研究所、京都大学の研究グループが、世界で初めて「フォトニック結晶レーザー」による光通信で、地球低軌道(LEO)衛星と静止軌道衛星との通信が可能であると実証したと発表した。

フォトニック結晶レーザーによる光通信とあるが、それがどのような技術かはなかなかイメージしにくいものである。

この記事では、この光通信がどのような技術なのかを解説します。

光通信の基礎

はじめに、光通信の基礎的な部分について説明する。

まず、光通信とは「光」を媒体として情報を伝送する通信技術のこと。

光を外部に漏らさずに通す光ファイバーを利用した光ファイバー通信や、大気中や宇宙空間といった空間内を伝送させる自由空間光通信など、様々な方法で光を利用して通信を行う。

スマホやテレビ、Wi-Fiなど私たちの身近にある通信技術には電波を媒体として利用しているものが多いが、電波と光はどちらも電磁波という“波”の一種であり、通信を行う仕組みは本質的には同じである。

通信の仕組み

光や電波を用いた通信では、あらゆる情報(文字や画像の色、明るさなど)が全て「0」と「1」の数字の羅列で現わされる。

例えば“A”は“01000001”というように、特定の情報が特定の羅列情報にラベリングされるということだ。

光や電波は、この「0」と「1」の羅列情報を伝送するための媒体となる。

具体的には、「0」を弱い光や電波、「1」を強い光や電波で表現したり、「0」をあまり振動しない波、「1」をたくさん振動する波として表現したりすることができる。

情報の送信側では、「0」と「1」の羅列情報を電波や光に変換して送出し、受信側ではこれらの電波や光をキャッチし、元の「0」と「1」の羅列情報に戻すことで情報の伝送を行うことができるのだ。

光通信の特性:電波通信との違い

光通信と電波通信では、利用される波長や伝搬特性に以下のような特性がある。

  • 利用される波長
    • 光通信:光は非常に短い波長(約400nm~700nm)を持つ。可視光の範囲外にも紫外線や赤外線といった光が存在する。
    • 電波通信:比較的長い波長を持つ電磁波。例えば、AMラジオの電波の波長は数百m、FMラジオの波長は数m。
  • データ伝送速度
    • 光通信:電波通信よりも1秒間に伝送するデータの量がはるかに多く、大量のデータを高速で伝送することが可能
    • 電波通信:一般的に光通信よりも伝送速度が低い
  • 外的要因による影響
    • 光通信:障害物に対する透過性が低く、物質に遮られる傾向
    • 電波通信:光通信よりは透過性が高い傾向。一部の電波は障害物を回りこむ特性もある。しかし他の電波やノイズの影響を受けやすい
  • セキュリティ
    • 光通信:特定の方向にのみ伝送されるため、傍受が難しくセキュリティが高い
    • 電波通信:広範囲に電波が伝搬する傾向があり、傍受のリスクがある。

これらの違いから、用途や環境に応じて最適な通信方式を選択する必要がある。

光を遮る雲や建造物等が少ない宇宙空間における衛星同士の通信においては、データ伝送速度やセキュリティの点で光通信のほうが有用だと言えるだろう。

フォトニック結晶レーザーによる光通信とは

では、フォトニック結晶レーザーとはどのようなレーザーで、それを用いた光通信はどのような特徴があるのだろうか。

まず、フォトニック(Photonic)とは「光子(Photon)に関連する」という意味を持つ言葉である。

また、フォトニック結晶とは、光の屈折率が異なる物質をナノスケールの等間隔で並べた周期構造を持つ人工結晶のことであり、光(光子)の動きを操作することができる。

フォトニック結晶レーザーは、この光を操作できるフォトニック結晶を平面状に配置。電流を印加したときに発生した光を特定の波長、特定の方向のみで増幅させて出力するレーザーである。

同レーザーの大きな特徴は高出力かつ、光のビームの先が広がらずにまっすぐ進むこと。

これらの特長から、フォトニック結晶レーザーを用いた自由空間光通信では従来の技術で利用されてきた光を増幅させるアンプ装置などの外部機器を必要とせず、送信機のシステムを小型化・低消費電力化できるのだ。

宇宙空間において3万㎞以上離れていても通信可能に

KDDIと京都大学が世界で初めてフォトニック結晶レーザーを用いた自由空間光通信を実証したのは2022年9月のこと。

1.1mの空間伝送に成功し、毎秒5ギガビット相当(一般的なHD映画を約6.4秒でダウンロードできる程度)の通信速度の光通信を実現する可能性を示した。

これは、4G LTEのモバイルネットワーク(電波通信)の速度(毎秒数十~数百メガビット)を大きく上回る速度である。

その後KDDIらはさらに研究を続け、今回出力したレーザー光の強度が1億分の1に減衰してもデータを受信する技術の実証に成功。

この技術によって、宇宙空間において3万㎞以上の距離があっても通信ができるようになるという。

つまり、低軌道衛星(高度~2000㎞)と静止軌道衛星(高度3万6000㎞)間の光通信が可能となるのだ。

どのように実現したのか

では、なぜ信号がこれだけ減衰してもデータを受信することができるのだろうか。

それは、情報を伝える手段を工夫したためである。同社が2022年9月に発表した実証では光の強度情報のみを用いて情報伝達を行っていた。

この場合、光が減衰して強度の最大値が小さくなると、「0」と「1」を現す光の強度の差も小さくなり、正確に情報を判別することが難しくなる。

そこでKDDIらは光の強度以外を用いて通信を行う研究を実施。

通常、フォトニック結晶レーザーのような半導体レーザー(半導体材料を使用したレーザー)に直接電流を注入すると、その電流に応じて半導体レーザーから出力する光の強度が変化するのだが、この過程では出力する光の強度のみならず、周波数も同時に変化する。

今回の研究では、光の強度に依存しない周波数の変化を活用。そうすることで減衰後の光信号から情報を受信することに成功したのだ。

さいごに

いかがでしたか。

衛星をロケットで打ち上げる際の費用は衛星の重さが重いほど高額となる。また、衛星が使用可能な電力量は限られている。

その点、従来よりも小型化可能で低消費電力なフォトニック結晶レーザーによる光通信機能は、実用化しやすい技術であると言えるだろう。

KDDIらは今後同光通信技術を用いてさらなる長距離かつ大容量な自由空間光通信を実現し、宇宙空間での光通信を支える光伝送技術の研究開発を推進していくという。

目指すは月や火星との通信だろうか。同社の活躍に期待したい。

参考

世界初、フォトニック結晶レーザーを用いた高出力自由空間光通信の実証に成功

世界初、「フォトニック結晶レーザー」で低軌道-静止軌道衛星間向け光通信方式の実証に成功

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

フォローで最新情報をチェック

おすすめの記事