2024年1月11日、アメリカの宇宙ベンチャー企業であるSpaceXが「1月8日に既存のスマートフォンから直接SpaceXの衛星通信「Starlink」を利用することができるサービス「Direct to Cell」の最初のテストに成功した」と発表した。
SpaceXは1月3日に同サービスを実現するための最新鋭のStarlink衛星を6機打ち上げていた。
本記事では、同サービスとこれまでのStarlinkサービスとの違いや、日本でのサービス提供について紹介する。
目次
現状のStarlinkサービスの仕組み
Starlinkとは、高度約550㎞の軌道を周回する数千機の人工衛星によって提供されている衛星通信サービスだ。
衛星通信は、人工衛星を介して通信を行うことで山間部や離島・海上などの通常電波の届かない地域にも通信サービスを提供する。
Starlinkは、従来より静止軌道衛星(高度36,000km)によって提供されてきた衛星通信サービスと比較して高速かつ低遅延の衛星インターネットサービスを展開。
2020年に北アメリカ大陸とヨーロッパで試験運用が開始されており、日本では2022年10月にサービス開始が発表された。現在は離島を含む日本全域がサービス対象地域となっている。
今回初めてStarlink衛星とスマートフォンの直接通信が成功したとのことだが、これまでのStarlinkサービスの利用には、専用のアンテナもしくは通信事業者の基地局が必要であった。
これまでのStarlinkサービスの形態としては、以下の例が挙げられる。
①Starlink Business
「Starlink Business」は、Starlink専用のアンテナを設置することで、衛星インターネットを利用可能にするサービスである。
スマートフォンやPCは、まず専用のアンテナを介してStarlink衛星と接続。Starlink衛星は地上アンテナを通じてインターネットに接続する。
このサービスは、日本ではKDDI、Softbank、NTTなど、様々な通信事業者が代理店販売を行っている。
②Satellite Mobile Link
Satellite Mobile LinkはKDDIが提供する、Starlinkを活用してauエリアを構築するサービスだ。
通常、通信事業者のネットワークセンターとユーザーにアクセスさせるための基地局を繋ぐのは光ファイバー(有線)であるが、その光ファイバーの代わりにStarlink衛星を使用するというものである。
このサービスを利用すると、本来は通信設備がないために電波の届かない地域でもauの回線を利用できるので、インターネットだけでなく、携帯電話の音声通話や緊急通報も利用することが可能になる。
Direct to Cellについて
Direct to Cellは、空が見える場所であればどこでも、上記のように基地局やアンテナを使用せずにスマートフォンを直接衛星と接続することで、既存のLTEモバイル通信を利用できるサービスだ。
既存のスマートフォンと直接接続するDirect to Cell専用のStarlink衛星を打ち上げることで実現可能となり、スマートフォン側での機器の追加やアプリダウンロードは不要。
スマートフォンは電波を受信する力、送信する力がともに小さいなどの理由から、これまで約500㎞離れた衛星と直接通信することは困難だった。
しかし、Direct to Cell専用の衛星は、この衛星の用途に特化した半導体チップや、受信感度が高いかつ強い信号を送信可能なアンテナ(フェーズドアレイアンテナ)などを開発することでこれらの課題を克服したという。
Direct to Cellの初回のテストでは、最初のパートナーシップであるアメリカの携帯電話事業者であるT-Mobileのネットワークを使用。
SpaceXの公式X(旧Twitter)アカウントにてテキストメッセージの送受信を行った2台のスマートフォンの画面が公開された。
日本では2024年からKDDIがサービス展開予定
Direct to Cellサービスは、2024年中にテキストメッセージの送受信を、2025年には音声通信およびデータサービスとの接続を可能とする予定だという。
日本ではKDDIがSpaceXと契約を結んでおり、世界中、空が見えるところであればどこでもauのLTE回線を利用できるようになる。
また、KDDI以外では、以下の通信事業者がStarlinkを活用した衛星直接通信サービスを提供予定だ。
- T-Mobile(アメリカ)
- Optus(オーストラリア
- Rogers(カナダ)
- One NZ(ニュージーランド)
- Salt(スイス)
- Entel(チリ)
KDDIは、「今後SpaceXおよびT-Mobileなど本サービスを提供予定の通信事業者と共に、これらの衛星の技術検証を実施していきます。」としている。
さいごに
いかがでしたか。
携帯電話と衛星との通信サービスが実現できれば、地震などの大規模災害時にも非常に役立つ。
今回の能登半島地震でも、一部の地域では通信ケーブルの切断や基地局(アンテナ)の損壊により通信サービスが利用できない事態が発生した。
今回、KDDIがStarlinkを無償で提供したり、NTTドコモとKDDIが共同でStarlinkを利用した船上基地局の運営を開始したりしたことで通信サービスが利用可能となったというが、やはり復旧までにある程度時間はかかってしまう。
しかし、衛星と携帯電話が直接繋がれば、そのような災害時でも普段と変わりなく通信サービスを利用できることになる。
昨今は、SNSを活用して自分の状況を発信する方、救助を求める方も多い。
現状はDirect to Cellの回線の速度は地上のサービスと比較して非常に遅いとのことだが、早く実現されることを期待したい。
参考
“Such signal, much wow”: Starlink’s first texts via “cellphone towers in space”