出光興産のCIGS太陽電池はなぜ宇宙に向く? 高い放射線耐性と軽量化の強み
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人工衛星や宇宙機を長期間運用するうえで、安定した電力を確保する太陽電池は欠かせない。

現在、宇宙用太陽電池ではガリウムヒ素(GaAs)系が広く利用されているが、高い発電性能や耐久性に加え、軽量化やコスト低減を実現する新たな技術の開発が進められている。その一つが、出光興産株式会社(以下、出光興産)の薄膜型「CIGS太陽電池」だ。

本記事では、出光興産が開発する宇宙用CIGS太陽電池とはどのような技術なのか、既存の宇宙用太陽電池と何が異なるのか、実証から量産化までどこまで進んでいるのかを紹介する。

「CIGS太陽電池」とは

CIGS太陽電池は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を主成分とする化合物半導体を用いた薄膜型太陽電池である。

一般的な結晶シリコン太陽電池が比較的厚い半導体基板を使うのに対し、CIGS太陽電池は基板上に薄い発電層を形成する。少ない材料で光を吸収できるため、薄型・軽量化しやすいことが特徴だ。

また、ガラスだけでなく金属や樹脂などの基板にも形成できるため、用途に応じた形状や構造を取りやすい。こうした特性から、地上用太陽光発電だけでなく、軽量性や耐久性が求められる宇宙用途でも研究開発が進められている。

CIGS太陽電池の構造と特徴を示す図。透明電極、バッファ層、CIGS層、裏面電極、基板の積層構造と、薄膜、軽量化、柔軟基板への対応、高い光吸収性、建物・車両・携帯機器・宇宙での用途を紹介。
CIGS太陽電池の基本構造と主な特徴、活用分野のイメージ ©Space Connect

出光興産は1993年からCIGS太陽電池の研究開発に取り組んでおり、その技術において世界的なリーディングカンパニーの一つとなっている。

地上用では、2019年にセル変換効率23.35%を達成したほか、累計約6GW相当の太陽電池モジュールを出荷するなど、研究開発から大規模な商用展開まで手掛けてきた実績を持つ。

現在は、そこで培った材料技術や製造技術を生かし、宇宙用CIGS太陽電池の事業化を進めている。

出光興産が開発する宇宙用CIGS太陽電池の優位性

出光興産が開発する宇宙用CIGS太陽電池の優位性は以下の3つ。

出光興産の宇宙用CIGS太陽電池の優位性を示す図。放射線劣化を光で自己修復する特性、数μmの薄膜層による軽量化、最大25cm角の大型セルと量産技術によるコスト競争力を紹介。
出光興産が開発する宇宙用CIGS太陽電池の3つの強み ©Space Connect

放射線による劣化を自己修復

シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)などを使用した従来の宇宙用太陽電池の多くは、宇宙空間の放射線によって太陽電池が損傷し、時間の経過とともに発電性能が低下することが課題となる。

一方、出光興産の宇宙用CIGS太陽電池は、放射線によって生じた材料内部の劣化を、光の照射によって自己修復する特性を持つ。このため、放射線による変換効率の低下を抑え、長期間にわたって発電性能を維持できるという。

実際に、放射線防護用のカバーガラスを取り付けない状態で高度約700kmの低軌道に投入された出光興産のCIGS太陽電池が、9年間にわたり出力特性を維持したことが確認されている。

薄型・軽量化を実現

出光興産の宇宙用CIGS太陽電池は、光を吸収する能力が高く、薄い半導体層でも十分に発電できる。このため、発電を担う層を数マイクロメートル程度まで薄くすることが可能だ。

さらに、高い放射線耐性によって放射線防護用のカバーガラスを省くこともできる。

これにより、太陽電池パネルを薄型・軽量化でき、衛星や宇宙機全体の軽量化にもつながる。また、同じ重量でより多くの電力を生み出せる点も、同社の宇宙用CIGS太陽電池の強みである。

大型セルと量産技術でコスト競争力を高める

出光興産の宇宙用CIGS太陽電池は、セルの大型化と量産技術によって、製造効率や信頼性を高めながら、コスト競争力の向上も期待できる。

まず、同社は薄膜型の製造技術を生かし、従来の宇宙用太陽電池では難しかったセルの大型化を実現。最大25cm角の大型CIGS太陽電池セルを製造できる。

太陽電池セル1枚あたりの面積を大きくするには、広い面積にわたって発電層を均一に形成する必要があり、製造の難易度が高くなる。一方、ソーラーパネル全体を構成するために必要なセルの枚数を減らすことができる。

これにより、セル同士を電気的につなぐ接続部分が減り、製造工程の簡略化や故障リスクの低減につながる。また、パネル上で太陽電池セルが占める割合を高められるため、限られた面積をより有効に発電へ利用することが可能だ。

さらに、出光興産は地上用CIGS太陽電池の商業生産を通じて、大規模な製造技術を蓄積してきた。既存の宇宙太陽電池では、製造に時間がかかり、生産量やコストが課題となる一方、CIGSではこうした量産技術を活用することで、高い生産能力と価格競争力の実現が期待されている。

出光興産が開発する宇宙用CIGS太陽電池のサンプル
出光興産が開発する宇宙用CIGS太陽電池のサンプル(出典:出光興産/PRTIMES)

実用化へ向けた宇宙実証の歩み

20年以上、宇宙で発電性能を検証

出光興産は、宇宙用CIGS太陽電池の実用化に向け、20年以上前から宇宙環境での性能評価に取り組んできた。

2002年には、NASDA(現JAXA)の民生部品・コンポーネント実証衛星「MDS-1」にCIGS太陽電池を搭載。軌道上でデータを取得し、厳しい放射線環境でも高い耐放射線性を持つことが実証された。JAXAは当時、「将来有力な宇宙用太陽電池の候補」と評価している。

2005年には、東京大学の超小型衛星「XI-V」にもCIGS太陽電池を搭載し、宇宙環境での性能を評価する技術実証を行った。

超小型衛星「BOTAN」で電力供給を確認

2025年、出光興産の宇宙用CIGS太陽電池は、千葉工業大学が開発した超小型衛星「BOTAN」に搭載され、実際に衛星へ電力を供給できることが確認された。

BOTANは同年10月に国際宇宙ステーション(ISS)から放出された。これまで宇宙環境でセル単体の性能評価を重ねてきた出光興産にとって、BOTANは実際の衛星でCIGS太陽電池を利用する実証となった。

また、BOTANを通じて宇宙空間におけるCIGS太陽電池セルの特性や発電の安定性の検証も行われている。

超小型衛星「BOTAN」の外観(出典:千葉工業大学/PRTIMES)

異なる太陽電池を組み合わせた「PHOENIX」も実証

出光興産のCIGS太陽電池は、JAXAの新型宇宙ステーション補給機「HTV-X1」を活用した次世代宇宙用太陽電池の軌道上実証「SDX」にも採用された。

HTV-X1は2025年10月に打ち上げられ、2026年3月に国際宇宙ステーション(ISS)を離脱。その後、約2カ月半にわたって技術実証を実施した。

SDXでは、CIGS太陽電池単体に加え、InGaPとGaAsを用いた薄膜2接合太陽電池とCIGS太陽電池を組み合わせた3層構造の太陽電池「PHOENIX」を実証している。

PHOENIXでは、異なる種類の太陽電池を透明な接着剤で接合する。JAXAによると、こうした接合方法を宇宙用太陽電池に採用するのは世界初だ。

従来の3接合太陽電池は高い発電性能を持つ一方、価格が高いことが課題となる。PHOENIXでは、その一部に比較的低コストで製造できるCIGSを採用することで、高い発電性能と低コストの両立を目指している。

JAXAは今回の実証で、次世代宇宙用太陽電池の軌道上での性能を確認するとともに、放射線による劣化などに関するデータを取得した。出光興産のCIGS太陽電池は、単体での利用だけでなく、異なる太陽電池と組み合わせることで、より高性能な宇宙用太陽電池への応用も進められている。

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本格化する宇宙用CIGS太陽電池の実用化開発

宇宙実証を重ねる一方、出光興産は宇宙用CIGS太陽電池の実用化に向け、量産技術の確立や宇宙機向け電源システムの開発を進めている。

2027年、量産技術を検証するベンチプラントが稼働予定

出光興産は2026年4月、千葉県袖ケ浦市の次世代技術研究所に、宇宙用CIGS太陽電池の量産化に向け、製造プロセスや連続生産を検証するベンチプラントを建設することを決定した。稼働開始は2027年内を予定している。

ベンチプラントでは、生産能力を既存設備の数十倍に拡大。人工衛星メーカーなどに宇宙実証用のサンプルを安定して供給し、製品評価や実証データの蓄積を進める。

さらに2026年6月には、JAXA「宇宙戦略基金」から最大30億円の補助金交付が決定した。軽量かつ高効率なCIGS太陽電池セルや製造工程の開発、ベンチプラントの構築、連続生産の実証までを段階的に進める。

その後は市場環境や技術開発の状況を踏まえ、本格的な量産設備の立ち上げを検討し、早期の事業化を目指すとしている。

米企業と宇宙用ソーラーアレイを共同開発

量産技術だけでなく、実際の宇宙機への搭載を見据えた電源システムの開発も始まっている。

2025年11月には、宇宙用ソーラーアレイを開発する米Source Energy Companyと、次世代ソーラーアレイの共同開発に向けた戦略的協業を開始。

ソーラーアレイとは、複数の太陽電池パネルと、宇宙空間でパネルを広げる展開機構などを組み合わせた発電システムである。

両社は、出光興産のCIGS太陽電池とSource Energy Companyのソーラーアレイ技術を組み合わせ、衛星などに搭載する宇宙用電源システムの開発を進める。

セル単体の開発にとどまらず、量産技術の確立と宇宙機向けシステムへの展開を並行して進めることで、CIGS太陽電池の事業化に向けた動きが具体化している。

宇宙用CIGS太陽電池は新たな選択肢になるか

出光興産の宇宙用CIGS太陽電池は、高い放射線耐性や軽量性に加え、量産性やコスト競争力にも強みを持つ。一方、現時点で既存の宇宙用太陽電池をそのまま置き換えられる段階にあるわけではない。

現在広く利用されているガリウムヒ素系太陽電池は、高い発電性能と宇宙での豊富な使用実績を持つ。宇宙機の電源には、発電性能だけでなく、長期間の信頼性や用途に応じた性能が求められるため、新しい太陽電池の採用には継続的な実証が欠かせない。

出光興産も現在、CIGS太陽電池の高効率化や量産技術の確立を進めている。また、CIGS単体での利用だけでなく、PHOENIXのようにガリウムヒ素系太陽電池と組み合わせる開発も進んでいる。

今後、宇宙実証による信頼性の蓄積と量産技術の確立が進めば、用途に応じて既存の太陽電池を補完する新たな選択肢として、CIGS太陽電池の採用が広がる可能性がある。

さいごに

出光興産の宇宙用CIGS太陽電池は、高い放射線耐性や薄型・軽量化に加え、大型セルや量産技術を生かしたコスト競争力を特徴とする。

これまで20年以上にわたり宇宙環境で性能評価を重ね、2025年には超小型衛星「BOTAN」で実際の衛星への電力供給を確認。さらに、異なる種類の太陽電池と組み合わせた次世代太陽電池の実証にも取り組んでいる。

現在は、2027年のベンチプラント稼働に向けた量産技術開発や、米企業とのソーラーアレイ共同開発も進む。

今後、量産技術の確立や宇宙実証による信頼性の蓄積が進めば、CIGS太陽電池が宇宙機の電源としてどこまで存在感を高めていくのか注目される。

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参考

当社が開発する宇宙用CIGS太陽電池が搭載された千葉工大の超小型衛星「BOTAN」が初期ミッションを達成

CIGS 宇宙用太陽電池

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