
2026年6月9日、フィンランドに本社を置く小型SAR衛星企業ICEYE Oy(以下、ICEYE)は、シリーズFラウンドの資金調達を実施したと発表した。
本記事では、ICEYEの今回の資金調達の概要や、資金調達の背景にある主権的宇宙インテリジェンス需要、今後の衛星生産体制の拡大について解説する。
目次
ICEYEがシリーズFで10億ユーロ超を調達
資金調達の概要
ICEYEは、General Atlanticが主導するシリーズFのプライマリー資金調達ラウンドにおいて、4億5,000万ユーロ(約835億円)を調達した。
これにより、既存株主による株式売却を含むセカンダリー取引を合わせると、同社におけるシリーズFラウンド全体の調達規模は10億ユーロ(約1,800億円)を超えた。シリーズFラウンドには、General Atlanticのほか、ソリディウム、テシ、ヴァルマ、イルマリネン、ライフライン・ベンチャーズ、ノキア、カタール投資庁、TCVなどが参加している。
また、今回のラウンドにおけるICEYEの企業価値は100億ユーロ(約1.8兆円)を超えたとされている。
ICEYEとはどんな会社
ICEYEは、フィンランドに本社を置く、小型合成開口レーダー衛星、いわゆるSAR衛星の開発・運用を行う宇宙企業である。
同社は、世界最大規模の小型SAR衛星コンステレーションを運用しており、防衛・情報、自然災害対応、保険、海事監視、金融、セキュリティなどの分野に衛星データやインテリジェンスを提供。日本を含め、フィンランド、ポーランド、スペイン、英国、オーストラリア、UAE、ギリシャ、米国にも拠点を持ち、国際的に事業を展開している。
日本では、同じくSAR衛星の事業を行うQPS研究所及び、Synspectiveの競合企業である一方、防衛大手のIHIとは日本国内におけるSAR衛星コンステレーションの共同運用や、衛星製造拠点の整備に向けた協力を進めている。

資金調達で加速するICEYEの成長戦略
ICEYEは今回調達した資金を活用し、グローバル展開とインテリジェンス能力の強化を進める方針だ。政府機関などに向けて、主権的インテリジェンスシステムや衛星データの提供を拡大し、増加する需要に対応していく。
主権的衛星システムの提供を拡大
ICEYEが今回の資金調達で強化しようとしている領域の一つが、政府向けの主権的衛星システムである。
主権的衛星システムとは、各国政府や機関が、自国の管理下で衛星データを取得・活用できるようにする仕組みを指す。安全保障や災害対応、重要インフラの監視などでは、必要なタイミングで正確な情報を得られる体制が重要になる。特に近年は、地政学的なリスクの高まりを背景に、各国政府が自前で衛星データを活用できる体制を求める動きは強まっている。ICEYEは、これまでに欧州7カ国の政府へ主権的衛星システムを提供。ポーランド軍に対しては、契約締結から12カ月以内という短期間で完全運用可能な主権的宇宙システムを提供したと発表している。
ICEYEは今回の資金調達を通じて、こうした政府向けシステムの提供地域や対応能力をさらに広げていく狙いがあるとみられる。SAR衛星の開発・運用に加え、データ取得から分析、運用体制の構築まで含めたサービスを拡大していく方針だ。
衛星生産体制を年100基へ倍増
もう一つの重要な資金用途が、衛星生産体制の拡大である。
ICEYEは現在、年間50基の衛星生産能力を有しており、2028年以降には年間100基体制への倍増を目指している。同社は今回調達した資金を活用し、衛星の生産拡大と打上げ体制の強化を進める方針だ。
SAR衛星の数が増えれば、同じ地点をより短い間隔で観測できるようになる。これにより、防衛、災害対応、海事監視、インフラ監視など、即時性が求められる分野で、より迅速なデータ提供が可能となる。
ICEYEは、2025年に売上高2億5,000万ユーロ超、契約済み受注残高も15億ユーロ超に達している。政府や民間企業からの需要が拡大するなか、同社は衛星の生産体制や運用能力を強化し、より多くの案件に対応できる体制を整えようとしているのだ。
宇宙インテリジェンス需要が拡大する理由
ICEYEの大型資金調達の背景には、宇宙から得られる情報、いわゆる宇宙インテリジェンスへの需要拡大がある。
SAR衛星は、天候や昼夜に左右されにくく地表を観測できるため、防衛・安全保障、防災、海事監視、インフラ監視など、幅広い分野で活用できる。防衛・安全保障分野では、地政学リスクの高まりを背景に、必要な地域の状況を迅速に把握できる衛星データの重要性が増している。
また、防災や重要インフラの監視においても、衛星データの活用は重要である。洪水、地滑り、森林火災などの自然災害では、現地に人が入れない状況でも被害範囲を把握する必要がある。さらに、港湾、発電所、道路、鉄道、パイプラインなどの重要インフラを継続的に監視するうえでも、衛星データの活用余地は大きい。
今後は、衛星で取得した情報を、いかに安全かつ迅速に共有・活用できるかも重要になる。今回の資金調達では、通信大手ノキアが新たな戦略的投資家として参加しており、衛星による状況把握と通信ネットワークの連携が進む可能性もある。
さいごに
ICEYEの大型資金調達は、SAR衛星を活用した宇宙インテリジェンス市場の拡大を象徴する動きといえる。同社は、世界最大級の小型SAR衛星コンステレーションを運用する企業として、主権的宇宙インテリジェンスの需要拡大を背景に、衛星生産体制やデータ提供能力をさらに強化していく方針だ。
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