トランシーバーの国外売り上げが2倍。その理由とは?
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2023年11月8日、無線機大手のアイコムは、米国など海外において衛星通信トランシーバーの販売が好調であると発表した。

2023年3月期通期(22年度)の同製品の国外販売台数は、前年度比2.2倍の11,000台に伸長しており、今期も7月までの実績で既に3,000台以上を売り上げているという。

本記事では、同社の衛星通信トランシーバーの強みや売上向上の背景に迫る。

衛星通信トランシーバーとは

衛星通信トランシーバーは衛星を介して通信を行う特殊な種類の無線通信機器である。

一般的な無線トランシーバーは種類によって通信範囲が異なり、500メートル程度まで通信できるものや電話回線があるところならどこでも通信できるものなど様々だが、衛星通信トランシーバーはこれらよりもはるかに広い範囲での通信が可能だ。

山間部や海上、砂漠地帯などの一般的な携帯電話のサービスエリア外でも使用できる他、災害時や有事の際に地上の通信インフラが破壊されても通信しやすいというメリットがある。

似たものに衛星電話があるが、衛星電話は一対一の通信の通信が主で多機能性を持ち個人使用に適しており、衛星通信トランシーバーは一度の通話で必要な全員に一度に連絡することができるのが特徴である。

売上向上の背景

同社は携帯用の「IC-SAT100」と据置型の「IC-SAT100M」の2機種の衛星通信トランシーバーを展開。海外では特に、携帯用製品が売れているという。

輸出先はアメリカを中心に、中央アメリカ、欧州、東南アジア、アフリカなど世界の各地域で伸びているとのこと。

また、導入先は在外公館や軍といった政府系機関をはじめ、警察や消防などの行政機関、国際連合などの国際機関、電力などのインフラ企業ほか多岐にわたるという。

では、なぜ現在同社の衛星通信トランシーバーの売り上げが伸びているのだろうか。

① 社会的背景

売上向上の背景として一つ目に、世界的な異常気象による山火事などの災害の増加や、昨今続く政情不安などの社会的背景がある。

SpaceXがロシアに侵攻されたウクライナにStarlinkサービスを提供したように、緊急時に命を守るツールとしてあらゆる地域や場所で無線通信サービスの重要度は増している。

② 同社の製品力の高さ

次に、同社の製品力の高さである。同社はこれまで、日本を含め世界100か国以上に製品を提供。国連の機関であるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)でも採用されている。

悪条件下でも、簡単な操作性でどこでも誰とでも安定的な通信を確保する製品力の高さが各国から支持されているとのこと。

その製品力を示す、アイコムの衛星通信トランシーバーの特長は以下の4つ。

遅延や通信障害が起こりにくい

アイコムの衛星通信トランシーバーは、米衛星通信サービス会社「イリジウム・コミュニケーションズ」が地上780キロメートルの低軌道に配置する66機の周回衛星を利用。

これらの衛星は、多くの衛星通信で利用される高度3万6000キロメートルの静止軌道に位置する一般的な通信衛星よりも地上との距離が近いため音声遅延が少なく自然な通話が可能である。

また、静止軌道に位置する衛星は地球から見て常に同じ位置にあるため、衛星と利用者の間に遮るものがあればそれを避ける必要があるが、アイコムが利用するイリジウム社の低軌道衛星は地球の上空を移動しているので、衛星の位置による通信障害を受けにくいという特徴もある。

簡単な操作で利用できる

同製品はトランシーバーのため、送信ボタンを押すだけですぐに複数の相手先に一斉に音声を送信できる。

複雑な発信操作が必要ないため迅速な連絡が可能な他、上記で述べた通り66機の衛星のうちその地点の上空付近を移動するものと繋がるので通話の際に端末のアンテナを特定の衛星(特定の方角)に向ける必要もない。

さらに、免許や使用資格も不要。誰でも使える手軽さは非常時にも役立つだろう。

通話時間によって課金されない

衛星通信の中には通信量によって利用金額が上がっていくものも多いが、アイコムの衛星通信トランシーバーは通信量や通信時間に関わらず利用金額は定額

利用者は予算の目処が立てやすい他、平時の通信手段としてもためらわず利用することができる。そのため、普段から利用することによって、いざというときにスムーズに操作することができるというメリットもある。

※一部の国・地域では異なる料金体系を使用

通信範囲が広い

“衛星通信トランシーバーとは”でも説明したが、同製品は大規模災害時や通信インフラがない僻地でも通信の確保が可能である。加えて、北極・南極を含む地球全体をカバーしており、世界規模の広域通信が可能だ。

また、衛星に電波が届く見晴らしのよい屋外のような場所でなくとも、アンテナユニットを設置することで建物のなかや地下からでも通話可能。

荒天時など外に出ることが危険な状況でも安心して使用できるのだ。

※一部の国・地域では利用不可

アイコム
©アイコム株式会社

以上の理由から、同社の衛星通信トランシーバーは存在感を強めており売り上げが伸びていると考えられる。

さいごに

いかがでしたか。

アイコムの衛星通信トランシーバーは特に災害時や有事の非常事態における連絡手段として非常に有用だ。

昨今の情勢やこれまで積み上げてきた同製品への信頼が、その需要を高めているのだろう。

あらゆる場所でのインターネット接続を可能にするサービス「Starlink」など衛星を利用した通信サービスの利用は広がっているが、連絡の迅速さなどの点において、主に音声通信を行う衛星通信トランシーバーもまだまだ存在感を発揮していくのではないだろうか。

参考

無線機大手アイコム、海外で<衛星通信トランシーバー>好調。販売台数は前年度比2倍超、米国や欧州など世界各国で需要旺盛。

BCPに適した衛星通信トランシーバー

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