予算から紐解く『宇宙ビジネス推進自治体』の取り組み
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近年、注目を集めている宇宙ビジネス。グローバルでの競争力向上を目的として、日本政府が10年間で1兆円規模となる「宇宙戦略基金」を創設したのは記憶に新しい。国からの支援が厚いことは、周知の事実であるが、都道府県単位での支援となると、意外に知らないもの。

本記事では、各都道府県、とりわけ宇宙ビジネス推進自治体の予算に焦点を当て、調査並びに検証。併せて、地域の特性を生かした宇宙ビジネスへの取り組みにも着目し、紹介している。

国が選んだ宇宙特化の自治体

宇宙ビジネス創出推進自治体とは

「宇宙ビジネス創出推進自治体」とは、内閣府と経済産業省が共同で運営する「スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク(S-NET)」が選定した宇宙ビジネスの創出を主体的・積極的に推進する自治体のことである。

宇宙関連事業に取り組む自治体の自律的な育成・支援に力を入れているS-NETが、地域における宇宙ビジネスの創出を加速させることを狙いとして選定している。

2018年に北海道・茨城県・福井県・山口県の4道県が、2020年には福岡県・大分県が「宇宙ビジネス創出自治体」に選定。

2023年には新たに佐賀県・鹿児島県・鳥取県・群馬県・岐阜県の5県と、市区町村として初めて豊橋市(愛知県)・長野市(長野県)が選定された。

各都道府県の宇宙ビジネス予算

自治体ごとの宇宙関連予算

今回は「宇宙ビジネス創出推進自治体」に選定された10の自治体の宇宙関連予算について調査。※1

以下に示すのは、各自治体の宇宙関連予算のグラフ(縦軸単位:百万円)である。※2

各都道府県の宇宙関連予算
各都道府県の宇宙関連予算 ©Space Connect株式会社

グラフを見たら一目瞭然だが、最も多くの予算を投じているのは岐阜県で、その予算額は3億1500万ほどである。

とりわけ予算の部分を占めているのは、航空宇宙開発センターを起点とした人材育成と研究開発の推進事業であり、蓄積した研究成果を地域産業に社会実装する「技術開発・実証ラボ」への積極的な支援も対象としている。

実は、岐阜県は、航空機の機体製造で有名な川崎重工業の工場が立地しており「アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区」に認定されるなど、航空宇宙産業のまちとして有名

予算の使用用途から、これまで培われた航空宇宙領域の基盤を維持すると同時に、岐阜の産業を支える地元企業との連携を強める意向も伺える。

宇宙関連予算額は、岐阜県に次いで鳥取県、山口県、大分県と続いており、金額は順に8100万円、7400万円、6900万ほどである。

当初予算に占める宇宙関連事業費の割合

上記では、単に宇宙関連の予算額に注目してきたが、次は「割合」に着目してみた。ここでの割合とは、自治体全体の予算に対して、宇宙事業予算をどの程度投じているのかを指している。※3

選挙における一票の格差問題のように、東京都のような元々の予算額が大きい自治体と、鳥取県のような人口が少なく、元の予算額が小さい都道府県では予算の重みが違うのである。

要するに、それぞれの自治体がどのくらい「宇宙」に重みをもたせているのかを測るわけだ。

以下に示すグラフは自治体の宇宙関連予算のグラフに、当初予算に占める宇宙関連予算の割合を追加したものである。オレンジで示す折れ線グラフの数値が高いほど、「宇宙」領域の事業に重みをもたせているということになる。

各都道府県の宇宙関連予算と当初予算に占める割合
各都道府県の宇宙関連予算と当初予算に占める割合 ©Space Connect株式会社

割合で見ても、先程の宇宙関連予算と変わらず、岐阜県、鳥取県、山口県、大分県の順に推移しているが、ここで注目したいのが鳥取県。

予算額では鳥取県8100万円、山口県7400万円と700万円程の差であったが、割合で比較した場合、2倍以上の差がついている。

すなわち、当初予算額が少ない鳥取県が8100万円を捻出することは、予算規模で比較した場合、山口県が1億8,000万円出すのに匹敵するということなのだ。

このように、予算額の大きさのみを鵜呑みにせず、割合を意識することで、また違った形での理解に繋がるだろう。

注目の自治体をピックアップ

どの自治体も各人各様、魅力的ではあるが、とりわけリサーチの中で地域の色を出していた2つの自治体を今回は簡易に紹介しよう。

【鳥取県】砂丘を宇宙のフィールドに転用!?

鳥取県の宇宙関連予算の主軸は、地域の特色である砂丘を活かした「鳥取砂丘月面化プロジェクト」

砂丘の地形や砂粒の細かさ等、月面環境と類似箇所が多いことから、月面実証フィールドとして、整備をすすめようと、同プロジェクトが立ち上がった。

2023年に完成した日本初の屋外実証フィールドは「ルナテラス」と名付けられ、月面探査車や宇宙機器など、国内外の企業・研究者が実証実験に活用できる環境を提供している。

今年度の予算は、引き続き実証実験環境の提供や月面ローバーの学生全国大会の開催等に使用されるとのことだ。

ルナテラスで実証実験の様子
ルナテラスで実証実験の様子 ※PRTIMESから引用

【大分県】3000mの滑走路を活かした宇宙港!?

アジア初の水平型宇宙港の実現を掲げ、宇宙人が訪れる県としてのプロモーションを実施するなど、宇宙を通じて、地域産業の活性化に注力する大分県。

同県の主力事業となるのは、やはり水平型宇宙港の実現であろう。

今年度の予算は、大分空港の水平型宇宙港としての活用実現に向けて、必要となる調査等を進めるとともに、今後成長が見込まれる宇宙関連産業の創出・振興を図るべく衛星データ活用や各種実証に挑戦する県内企業を支援する事業に使用されるとのこと。

その他にも宇宙機器開発や衛星データの活用に向けた専門講座の開催・宇宙機器の製造や衛星データを用いた実証事業助成など幅広い事業に予算を当てており、同県の宇宙産業分野への熱がうかがえる。

さいごに

今回はS-NETが選定する「宇宙ビジネス創出推進自治体」の宇宙関連予算から、各自治体の宇宙ビジネスに対する取り組みについて取り上げた。

本記事では、宇宙関連事業への自治体の予算額をひとつの指標として取り扱ったが、予算額の大小にかかわらず、どの自治体も地域の特性を活かして、宇宙産業の拡大に寄与していることは、紛れもない事実であろう。

例えば、茨城県の場合、予算規模で見ると、他の県に劣るが、JAXAの筑波宇宙センターが位置する利点を活かして、共同受注体制の構築やJAXAとの連携強化を通じた県内宇宙関連事業者への支援等、予算以上のインパクトを残しているわけだ。

他にもし気になる自治体があれば、自身で宇宙事業予算について、調べてみることをお勧めする。各県特有の「宇宙ビジネス」を知る良いきっかけとなるだろう。

※1宇宙関連事業予算として内訳詳細を出していない佐賀県を除いた10自治体で比較

※2航空関連特化の事業費、宇宙博物館の修繕事業等は宇宙予算に含まず算出

※3各自治体の令和6年度当初予算額(一般会計)または当初予算額案(一般会計)を使用し算出

参考

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