
2026年10月30日、宇宙用レーザー技術を開発する株式会社Orbital Lasers(以下、Orbital Lasers)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と「高度計ライダー・イメージャシステム ミッション部」の研究開発契約を締結したと発表した。
高度計ライダー・イメージャシステムの観測機能を担う「ミッション部」を開発し、JAXAの新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」に搭載・軌道上で実証する計画だ。
本記事では、研究開発契約の概要や高度計ライダーの仕組み、将来の商用化に向けた計画について解説する。
高度計ライダーとは?レーザー光で距離を計測
ライダー(LiDAR:Light Detection and Ranging)は、レーザー光を照射し、その反射・散乱光が戻るまでの時間を測定することで、対象物までの距離を計測する技術である。
一般的な光学センサーが太陽光などを利用して地表の画像を取得するのに対し、ライダーは自らレーザー光を発して対象物との距離を測定する。このため、画像だけでは把握しにくい地表の高さや起伏を直接計測できる特徴がある。
これを人工衛星に搭載すると、宇宙から地表に向けてレーザーを照射し、↑得られる距離情報を衛星の位置・姿勢情報と組み合わせることで、地表面の高さや立体的な形状を把握できる。
例えば、森林では樹木の上部と地面から戻るレーザー光の違いを分析することで、樹木の高さを推定できる。また、山間部の地形や地表の高低差など、地上からの調査が難しい地域の立体的な形状を把握する手段としても活用が期待される。

Orbital LasersとJAXAの高度計ライダー開発
概念設計からHTV-Xでの軌道上実証へ
今回JAXAと研究開発契約を締結したOrbital Lasersは、2024年1月に設立されたスカパーJSAT発の宇宙スタートアップ企業である。高出力・高効率な宇宙用レーザー技術を中核に、スペースデブリ除去事業と衛星ライダー事業を展開している。
同社は2024年10月1日、JAXAと高度計ライダー衛星の衛星システム・衛星運用システムの概念設計に関する研究開発契約を締結したと発表。その契約に基づき、衛星全体の構成や運用方法の検討に加え、一部の観測機器の試作にも取り組んできた。
今回の契約では、これまでの概念設計や試作・評価の成果を踏まえ、高度計ライダー・イメージャシステムの観測機能を担う「ミッション部」の開発を進める。
開発するミッション部は、JAXAの新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」に搭載し、宇宙空間で性能を検証する計画だ。
実証では、宇宙環境下でレーザーを照射し、反射・散乱光を受信して距離を測定するまでの一連の機能や性能、安定性を検証する。得られた成果は、将来の商用ライダー衛星の開発に活用する方針である。
なお、今回の発表では、搭載するHTV-Xの号機や実証時期は明らかにされていない。
広範囲を高精度に計測、光学イメージャーも搭載
Orbital Lasersによると、地表面を計測する宇宙用ライダーは、国内ではまだ実現例がない。一方、海外ではNASA(米国航空宇宙局)などが先行して開発を進めてきた。
従来の代表的な観測方式では、衛星の進行方向に沿って地表を線状に計測する方法が採用されており、氷床や森林などの科学観測に活用されている。
一方、Orbital Lasersが目指すのは、1回のレーザー照射で広範囲を連続的かつ高精度に計測する「面的ライダー計測技術」である。

この技術には、同社が開発する高出力の宇宙用レーザーと、極めて微弱な反射・散乱光を検出できる高感度センサーを活用。
これにより、地表面や森林などの立体形状を、多数の点の位置情報からなる「3次元点群データ」として、高密度に取得することを目指している。
さらに、光学画像を取得するイメージャー機能も搭載し、レーザーによる距離情報と高分解能の画像情報を組み合わせることで、計測地点の位置特定などを高度化する方針だ。
商用ライダー衛星の実現に向けて
高出力レーザーの小型・高効率化が鍵
ライダー衛星の商用化に向けて重要となるのが、観測性能の向上に加え、衛星システムの小型化と低コスト化だ。
一般に、高出力レーザーを宇宙空間で使用する場合、電力の確保や装置の発熱への対応が必要となる。これらは衛星の電源設備や熱制御設備の規模にも影響する。
同社は、レーザーの出力を確保しながら消費電力と発熱を抑えることで、衛星全体の小型化・低コスト化を目指す。
複数衛星による継続的な3次元観測を構想
将来的には、商用ライダー衛星を年間複数機打ち上げ、複数の衛星を連携して運用する「衛星コンステレーション」の構築を計画している。
目標とするのは、航空レーザー測量で求められる計測精度や点群密度に準じた水準で、世界各地の3次元点群データを継続的に取得・蓄積することだ。
従来、詳細な3次元地形データの取得には、航空機にレーザー測量装置を搭載する方法が広く利用されてきた。一方、航空機による測量は、対象地域へのアクセスや飛行条件、計測コストなどの制約を受ける。
衛星ライダーが実用化されれば、航空機による測量が難しい地域も含め、広範囲の地形データを宇宙から継続的に取得できる可能性がある。
さいごに
Orbital Lasersは、衛星ライダーの活用先として、国土・インフラ管理、防災・減災、森林資源管理、デジタルツインの構築などを挙げている。
例えば、災害前後の地形変化の把握や、森林資源の状態把握、都市・インフラの管理などへの活用が考えられる。
今回の研究開発契約は、こうした用途を見据えた商用ライダー衛星の実現に向けた一歩となる。
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