2023年12月7日、インターステラテクノロジズ株式会社が、家畜のふん尿から製造した液化バイオメタンを燃料として使用した小型ロケット「ZERO」のエンジンの燃焼試験に成功したと発表した。
この成果は、欧州宇宙機関(ESA)が開発しているロケットエンジンに続き世界で2例目、民間企業としては初の事例となる。
本記事では、同社が牛ふん由来の液化メタンをエンジンの燃料とした理由や背景について紹介します。
目次
インターステラテクノロジズの概要と燃焼試験について
インターステラテクノロジズは人工衛星を低価格で宇宙に輸送することを目的としたロケットを開発を手掛ける企業である。
北海道大樹町に本社を構え、東京支社と福島支社、室蘭技術研究所(室蘭工業大学内)の4つの拠点で開発を進めている。
これまで宇宙観測ロケット「MOMO」で計3回、国内の民間企業単独では唯一の宇宙空間到達を達成。
現在は次世代機となる小型人工衛星打上げロケット「ZERO」の開発を本格化しており、そのコア技術は自社で設計・開発されている。
今回の試験では自社開発のエンジン「COSMOS」の燃焼器(燃料を燃やすためのもの)を実機よりも小型化したサイズで実施し、成功。
この燃焼器は部品数を従来の10分の1に削減しつつ、少ない燃料で高いエネルギーを生成することを達成した。
牛ふん由来の液化バイオメタンを燃料とする理由や背景
エンジン「COSMOS」の燃料として採用されたのが「牛のフン」から発生するメタンガスを液体にした液化バイオメタンである。
液化バイオメタンは動物のフンや植物から生成された液化メタンのことである。
液化メタンとは
通常の液化メタンは地球の地下にある天然ガスの主成分であるメタンガスを液体化したものだ。
液化メタンは無色・無臭で非毒性、燃焼時の二酸化炭素の排出量も他の化石燃料と比較して少ないなどの特徴があり、扱いやすさや環境性、価格、燃料としての性能、入手性が総合的に優れている。
そのため、SpaceX社の「Starship(スターシップ)」をはじめ米国や欧州、中国のロケット各社が液化メタンの開発に注力しているのだ。
インターステラテクノロジズは2020年に燃料に液化メタンを選定し、以来その調達方法を検討してきた。
純度99%以上!?北海道の牛ふんメタンを調達
同社は2023年7月に液化メタンの調達先として産業大手のエア・ウォーター北海道を選定。
エア・ウォーター北海道は北海道十勝エリアを中心に、家畜ふん尿から発生するバイオガスを液化バイオメタンに加工し、地域内で消費する地域循環型のサプライチェーンの構築に取り組んできた企業である。
今回の試験で使用された液化バイオメタンは、ふん尿から発生したバイオガスから主成分であるメタンを分離・精製し、約-160℃で液化したものだ。
液化メタンをロケット燃料として用いるには不純物を含まない高純度メタンが必要であるが、同社の液化バイオメタンは通常の天然ガス由来の液化メタンと同等の純度(99%以上)を達成。
インターステラテクノロジズはその高い純度や、同じ十勝エリアにある工場から入手できるという調達のしやすさなどを総合的に勘案し、ZEROの燃料として採用することに決定したのだ。
牛ふん由来のメタンを燃料に使用するメリット
メタンは二酸化炭素に次いで影響の大きい温室効果ガスであり、牛から出るメタンの排出量の低減は地球温暖化における課題である。
さらに、酪農業の盛んな十勝地域では家畜のふん尿から発生する臭気や水質汚染なども地域の課題となっている。
インターステラテクノロジズは、ロケット重量の大半を占める燃料を環境に良いサイクルで回すことで地球温暖化対策に貢献。
さらに、酪農が盛んな北海道に本社を置く企業としてエネルギーの地産地消や環境問題対策に貢献することも目指しているのだ。
また、輸入に大きく依存する天然ガスを原料に用いるのではなく、北海道で発生する家畜のフンを利用することは、資本の国内留保にも寄与しているだろう。
さいごに
いかがでしたか。
ロケットの燃料に牛ふん由来の液化バイオメタンを使用することで、環境への悪影響を抑えつつ宇宙への輸送サービスを支える燃料を確保し、さらに地域にも大きく貢献する。
さらに、液化メタンは火力発電や家庭用暖房、工業用や輸送用の燃料など様々な場面で利用することが でき、今回の実験の成功は宇宙産業のみならずエネルギー政策全体においても大きな意義を持つだろう。
同社の今後の挑戦も非常に楽しみだ。