2度目で衛星打ち上げ成功 独Isar Aerospaceが開発した「Spectrum」とは
©Space Connect

ドイツの宇宙企業Isar Aerospace(イーザー・エアロスペース)は2026年9月6日(日本時間)、ロケット「Spectrum(スペクトラム)」の2度目の飛行を実施し、初の軌道投入とペイロードの分離に成功した。2025年3月の初飛行は約30秒で終了しており、2度目の飛行で大きな進展を遂げたことになる。

本記事では、Spectrumの2度目の飛行結果やロケットの特徴、初飛行からの進展を整理するとともに、日本企業によるSpectrumの利用計画について紹介する。

Spectrum、2度目の飛行で軌道投入に成功

初飛行から約1年半、衛星の軌道投入まで完遂

Spectrum2号機はノルウェーのアンドーヤ宇宙港に設けられたIsar Aerospace専用の打ち上げ施設から打ち上げられた。

「Onward and Upward」と名付けられた今回のミッションは、Spectrumにとって2度目の飛行であると同時に、実際の飛行環境でロケットの主要システムが想定通り機能するかを確認する試験として位置付けられていた。

打ち上げ後、Spectrumは最大動圧点を通過し、第1段エンジンの燃焼停止、段間分離、第2段エンジンの点火を実施。その後、高度100kmのカーマン・ラインを越え、フェアリングを分離した。

さらに第2段による軌道投入のための燃焼を完了し、搭載していたペイロードの分離まで成功。Isar Aerospaceによると、欧州の民間宇宙企業が自社のロケットによって衛星を軌道へ投入したのは今回が初めてだという。

5機のCubeSatなどを搭載

今回のSpectrumには、5機のCubeSatと1つの実験ペイロードが搭載された。

CubeSatは、ベルリン工科大学の「CyBEEsat」、マリボル大学の「TriSat-S」、EnduroSatの「Platform 6」、ノルウェー科学技術大学の「FramSat-1」、ウィーン工科大学の学生チームによる「SpaceTeamSat1」である。

このほか、ドイツの宇宙企業Dcubedが開発する実験ペイロード「Let It Go」も搭載された。

今回搭載されたペイロードは、ドイツ航空宇宙センター(DLR)が実施した「Microlauncher Competition」に関連する公募を通じて選定された。Microlauncher Competitionは、ドイツの小型ロケット企業を競争形式で選び、ロケットの開発や商業化を支援する制度で、Isar Aerospaceは2021年にSpectrumで選定されている。

選定企業は支援を受ける条件として、DLRが公募で選んだ大学や中小企業などの小型衛星を実証飛行で無償輸送することになっており、今回のSpectrumにもその枠組みで選ばれたペイロードが搭載された。

©Isar Aerospace

欧州ロケット「Spectrum」とは

最大1,000kgを低軌道へ運ぶ2段式ロケット

Spectrumは、Isar Aerospaceが小型・中型衛星の打ち上げを目的に開発した2段式の液体燃料ロケットである。

全長は28m、直径は2m。低軌道(LEO)には最大1,000kg、太陽同期軌道(SSO)には最大700kgのペイロードを投入する能力を持つ。

第2段エンジンは複数回の点火に対応しており、いったんエンジンを停止した後に再点火することで、投入する軌道に合わせて必要なタイミングで推力を加えることができる。これにより、ミッションごとに求められる目的軌道に柔軟に対応できる設計となっている。

液体酸素とプロパンを使う「Aquila」エンジン

Spectrumの推進系には、Isar Aerospaceが独自開発した「Aquila」エンジンが採用されている。

Aquilaは高圧ターボポンプを備えた液体ロケットエンジンで、設計から製造までIsar Aerospaceが自社で手がけている。推進剤には液体酸素とプロパンを使用する。

Isar Aerospaceによると、液体酸素とプロパンは燃料の密度と推進性能を組み合わせた指標に優れ、機体設計の最適化につながるという。また、同社はこの組み合わせを環境負荷を抑えたクリーンな推進方式と位置付けている。

Spectrumの第1段にはAquilaを9基搭載し、1基あたり75kNの推力を発生する。第2段には宇宙空間での使用に適したAquilaを1基搭載し、真空中で95kNの推力を発生する。

設計から製造まで自社完結、量産工程を自動化

Isar Aerospaceは、Spectrumの設計や開発、製造、試験などをほぼ自社で行う体制を構築している。さらに、量産を見据えて製造工程の自動化を進めている。

例えば、エンジンの複雑な部品には金属3Dプリンターを活用。機体の主要構造には一体構造の炭素繊維複合材を採用し、その製造工程も自動化している。また、設計や製造のさまざまな工程を自動化することで、生産効率と品質の両立を図っている。

同社は現在、ドイツ・ミュンヘン近郊に4万平方メートル規模の新たな生産施設を整備している。Spectrumの3号機から7号機はすでに生産に入っており、新施設では将来的に年間最大40機を生産できる体制を目指す。

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初飛行は約30秒で終了 原因と改良点

2025年3月、ノルウェーから初飛行

Spectrumの初飛行は、2025年3月30日に同じくノルウェーのアンドーヤ宇宙港から行われた。

Spectrumは正常に発射台を離れたものの、飛行開始から約30秒後に飛行終了指令を受け、エンジンの推力を失った状態で海上へ落下。

一方、発射台からの離脱や飛行終了システムの動作などを確認できたことから、Isar Aerospaceは初飛行について、今後の開発に必要な飛行データを取得できたとしている。

姿勢制御を失った原因を特定、2号機へ対策

Isar Aerospaceはその後、初飛行の原因調査を実施した。

調査では、タンクや配管などの圧力を調整する「ベントバルブ」が意図せず開いたことと、機体を回転させるロール動作の開始時に姿勢制御を失ったことが、飛行中の異常につながった発端として特定された。

同社は調査結果を受け、Spectrumの制御性に関わるシステムの耐性を強化。飛行時の制御に関わるソフトウェアを改善するとともに、環境条件の変化に対する余裕を持たせる対策を実施した。

その後、第1段と第2段についてそれぞれ統合燃焼試験を行い、2025年12月までに両段で30秒間の燃焼試験を完了。こうした試験を経て、2度目の飛行へ進んだ。

初飛行から約1年半。約30秒で飛行を終えたSpectrumは、2度目の飛行で第1段と第2段の飛行から軌道投入、ペイロード分離までを完遂したのである。

Spectrumは日本の宇宙企業も利用へ

Spectrumは、日本の宇宙企業が開発する宇宙機の打ち上げにも利用される予定である。

ElevationSpace、「あおば」の打ち上げで契約

ElevationSpaceは2025年3月、Isar Aerospaceとロケット打ち上げ契約を締結した。

契約の対象となるのは、ElevationSpaceが開発する宇宙環境利用・回収プラットフォームの初号機「あおば」で、Spectrumによる軌道投入を予定している。

ElevationSpaceはSpectrumを選んだ理由として、「あおば」を目的とする軌道へ直接投入できることや、柔軟に打ち上げ時期を設定できることを挙げている。

また、Isar Aerospaceの製造現場を視察し、高度に自動化された生産工程や、ロケットの設計・製造を自社で手がける体制から、技術力と信頼性を評価したとしている。

契約発表時には2026年後半の打ち上げを予定していたが、その後スケジュールが変更され、2026年8月時点では2027年以降の打ち上げを予定している。

「あおば」とは

ElevationSpaceが開発する宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」の初号機。宇宙空間で実験や製造などを行った後、成果物を地球へ持ち帰ることを目指す。

アストロスケールは2つのミッションでSpectrumを利用

アストロスケールグループも、「ELSA-M」と「ADRAS-J2」の2つのミッションでSpectrumを利用する予定である。

2026年3月には、英国子会社のアストロスケール英国が「ELSA-M」の打ち上げについてIsar Aerospaceと契約を締結。さらに同年9月には、日本子会社の株式会社アストロスケールが「ADRAS-J2」の打ち上げについて契約を発表した。

ELSA-Mの具体的な打ち上げ時期は現時点で示されていない。一方、ADRAS-J2は、2027年度の打ち上げが予定されている。

両ミッションとも高精度な軌道投入が求められることから、アストロスケールグループは、ミッションに応じた軌道への投入に対応できるSpectrumの柔軟性や軌道投入精度を評価。さらにADRAS-J2については、打ち上げまでにSpectrumの複数回の飛行が予定されていることから、その間に信頼性がさらに高まることも期待されている。

ELSA-M/ADRAS-J2

ELSA-M:アストロスケール英国が進めるスペースデブリ除去の実証ミッション。運用を終えたEutelsat OneWebの通信衛星に接近・ドッキングし、軌道から除去する技術の実証を目指す。

ADRAS-J2:JAXAの「商業デブリ除去実証(CRD2)」フェーズIIとしてアストロスケールが開発する宇宙機。地球低軌道に残る全長約11m、重量約3トンの日本のロケット上段に接近し、ロボットアームで捕獲したうえで軌道を下げ、除去する技術の実証を目指す。

さいごに

今回の軌道投入成功によって、Spectrumは開発段階のロケットから、実際に衛星を軌道へ運べる輸送手段として一歩前進した。今後は、後続機の打ち上げを重ねながら、どこまで安定した運用と打ち上げ頻度を実現できるかが焦点となる。

ElevationSpaceやアストロスケールなど日本企業もSpectrumの利用を予定しており、その成否は欧州だけでなく、日本の宇宙ミッションにも関わる。今後の打ち上げ実績や量産体制の拡大とともに、日本企業のミッションがどのように実現していくのかにも注目したい。

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スぺジョブ

参考

Isar Aerospace HP(2026-09-07閲覧)

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