
NASAは2026年8月30日、次世代宇宙望遠鏡「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」を打ち上げた。
ローマン宇宙望遠鏡には、日本企業が製作した複数の精密光学部品も搭載されている。
本記事では、ローマン宇宙望遠鏡に実際に搭載された光学部品を製作した日本企業の中から、夏目光学株式会社、株式会社光学技研、三共光学工業株式会社の3社を取り上げ、それぞれの技術と役割を紹介する。
ローマン宇宙望遠鏡とは
広視野観測でダークエネルギーの正体に迫る
ローマン宇宙望遠鏡は、ダークエネルギーや太陽系外惑星をはじめ、宇宙のさまざまな謎を調べるNASAの大型宇宙望遠鏡である。
主力観測装置「広視野観測装置(WFI:Wide Field Instrument)」には約3億画素の赤外線カメラを搭載。ハッブル宇宙望遠鏡と同程度の角度分解能を持ちながら、一度に観測できる範囲は少なくとも100倍以上に達する。
この広い視野を生かして10億個規模の銀河を観測し、宇宙がどのように膨張してきたのか、物質がどのように分布しているのかを調べることで、宇宙の膨張を加速させていると考えられるダークエネルギーの性質の解明を目指す。
また、重力マイクロレンズを利用した観測によって、多数の太陽系外惑星を発見することも主要な科学目標の一つである。

系外惑星の直接観測技術を実証するコロナグラフ
ローマン宇宙望遠鏡には、主力観測装置WFIとは別に、NASAジェット推進研究所(JPL)が開発した「コロナグラフ装置」が搭載されている。
コロナグラフは、惑星を照らしている恒星の強い光を抑え、そのすぐ近くに存在する暗い惑星や塵の円盤を観測するための装置である。
装置内部ではマスクやプリズム、検出器、形状を細かく変化させられる可変形鏡などを組み合わせ、恒星の光を高い精度で抑える。
これにより、主に巨大惑星などの直接撮像を行いながら、将来さらに暗い地球型惑星を直接観測するための技術を宇宙空間で実証する。
このコロナグラフ装置への光学部品の提供が、日本によるローマン計画への主要な貢献の一つである。

ローマン宇宙望遠鏡を支える日本企業3社
ローマン宇宙望遠鏡のコロナグラフ装置には、日本企業が製作した複数の精密光学部品が搭載されている。
今回紹介するのは、夏目光学、光学技研、三共光学工業の3社である。

1.夏目光学
夏目光学とは
夏目光学は、長野県飯田市に本社を置く光学メーカーである。レンズやミラーなどの光学部品を手掛け、精密な研磨加工や複雑な形状の光学部品を製造する技術を強みとしている。
航空・宇宙分野では望遠鏡用ミラーや観測機器向けの光学部品などを開発。
2026年4月には、名古屋大学や東京大学、理化学研究所などとの共同研究で、国産の高解像度宇宙X線望遠鏡の開発・性能実証に成功。夏目光学は、X線を反射させて集める特殊なミラーを、ナノメートル単位の精度で製作するとともに、従来より大幅に大型化し、望遠鏡に使用できる実用サイズでの製作を実現した。
完成したX線望遠鏡は、日米共同の太陽フレア観測ロケット「FOXSI-4」に搭載され、打ち上げに成功している。
恒星の強い光を抑える「マスク」の基板を製作
ローマン宇宙望遠鏡では、コロナグラフ装置に使われるコロナグラフマスク用の精密光学基板を製作した。
コロナグラフマスクとは、非常に明るい恒星の光を抑え、その近くにある暗い惑星を観測しやすくするための部品である。
夏目光学が担当したのはマスクそのものではなく、マスクを形成するための土台となる精密光学基板である。
この基板は北海道大学の研究者とともに開発され、夏目光学が持つ高精度の研磨加工やコーティング技術が活用された。コーティングとは、光の反射や透過を調整するため、光学部品の表面に薄い膜を形成する加工である。
コロナグラフでは、光学部品のわずかな形状の誤差や不要な反射光でも、恒星の近くにある暗い惑星の観測を妨げる可能性がある。そのため、マスクの土台となる基板にも高い加工精度が求められる。
2.光学技研
光学技研とは
光学技研は、神奈川県厚木市に本社を置く光学部品メーカーである。1978年に設立され、光を曲げたり、分けたり、性質を調整したりするための特殊な光学部品を製造している。
材料の加工から研磨、表面処理、組み立て、完成後の性能確認まで幅広い工程を手掛けていることが特徴で、宇宙・天文分野でも同社の技術が活用されている。
2024年には、同社が製作した光学部品「波長板」を使用する観測装置が、気球望遠鏡「SUNRISE-III」に搭載され、太陽観測に成功した。
光を2つに分ける「ウォラストンプリズム」を製作
ローマン宇宙望遠鏡では、コロナグラフ装置に使われる「ウォラストンプリズム」を製作した。
ウォラストンプリズムは、入ってきた光を振動する向きが異なる2つの光に分ける部品である。このとき利用するのが「偏光」と呼ばれる光の性質だ。
光には、進みながら振動する向きがある。その向きに偏りがある状態を「偏光」という。
惑星が恒星の光を反射すると、その光には特徴的な偏りが生じる。この違いを調べることで、恒星の光と惑星から反射された光を見分けやすくなる。
ローマン宇宙望遠鏡のコロナグラフには、日本側の提案によって、この偏光を利用した観測機能が追加された。
光学技研が製作したウォラストンプリズムで光を2つに分け、それぞれを比較することで、非常に明るい恒星の近くにある暗い惑星を観測しやすくする。
この観測のための光学系は、東京大学やアストロバイオロジーセンターなどの研究者が中心となって設計し、オプトクラフトも設計に協力した。光学技研は、その中で実際に光を分ける部品の製作を担当している。
3.三共光学工業
三共光学工業とは
三共光学工業は、東京都荒川区に本社を置く光学メーカーである。1929年に創業し、光学レンズの加工や、複数の光学部品を組み合わせた装置の設計・製作を手掛けている。
1967年に秋田県へ進出して以降、秋田を製造本拠地として光学レンズを製造。現在は美郷町、大仙市、横手市の3か所に製造拠点を構えている。
同社のレンズは、カメラだけでなく、レーザー加工機や半導体製造装置、検査装置など幅広い分野で使用されている。材料を削って形を整える工程から、研磨、表面処理、組み立て、検査まで、レンズ製造に必要な幅広い工程に対応できることも特徴である。
宇宙分野への実績もあり、2006年にはJAXAの太陽観測衛星「ひので」搭載品への貢献で感謝状を受けている。
偏光観測用の「集光レンズ」を製作
ローマン宇宙望遠鏡では、コロナグラフ装置の偏光観測に使用する集光レンズを製作し、JAXAを通じて納入した。
集光レンズとは、入ってきた光を集め、観測装置の検出部分へ導くためのレンズである。
このレンズは、光学技研が製作したウォラストンプリズムとともに、日本側が設計した偏光観測のための光学系を構成している。ウォラストンプリズムで光を偏光の違いによって分け、集光レンズなどからなる光学系で観測することで、惑星から反射された光が持つ偏光の特徴を調べる。
ローマン宇宙望遠鏡では、惑星から反射された光の偏光を利用することで、非常に明るい恒星と、その近くにある暗い惑星を見分けやすくすることを目指している。
日本企業の技術が将来の地球型惑星観測へ
ローマン宇宙望遠鏡のコロナグラフは、今回の観測だけでなく、将来、地球に似た太陽系外惑星を直接観測するための技術を実証する役割を持つ。
地球型惑星は、周囲を回る恒星に比べて非常に暗い。その姿を直接捉えるには、恒星から届く強い光を極めて高い精度で抑えながら、惑星から届くわずかな光を取り出す必要がある。
JAXAによると、ローマン宇宙望遠鏡のコロナグラフでは画像処理も組み合わせ、最大10億分の1に迫る明るさの差を見分ける高コントラスト観測を目指している。
こうした技術の実証成果は、NASAが将来の大型宇宙望遠鏡として検討する「Habitable Worlds Observatory」にもつながる。Habitable Worlds Observatoryでは、地球に似た惑星を直接観測し、その大気などを詳しく調べることが目標の一つとなっている。
さいごに
ローマン宇宙望遠鏡は、広視野観測によってダークエネルギーや太陽系外惑星などを調べる一方、コロナグラフを使って将来の地球型惑星観測につながる技術実証にも取り組む。
今回紹介した夏目光学、光学技研、三共光学工業は、それぞれ異なる光学部品の製作を通じて、このコロナグラフの観測性能を支えている。
宇宙望遠鏡のような大型プロジェクトでは、機体や観測装置そのものだけでなく、高い精度で加工された一つひとつの部品も重要な役割を担う。ローマン宇宙望遠鏡は、日本企業が培ってきた精密光学技術が、世界の最先端宇宙観測に活用されている事例の一つといえる。
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