
イプシロンロケットは、日本の小型衛星打上げを担う固体燃料ロケットとして、2013年の試験機打上げ以降、科学衛星や小型実証衛星などの打上げに活用されてきた。
本記事では、イプシロンロケットと、その改良型であるイプシロンSロケットの概要、次回の打上げ予定、これまでの打上げ実績について整理する。
目次
イプシロンロケットとは
イプシロンロケットは、日本の固体燃料ロケット技術を受け継いで開発された小型ロケットであり、国の基幹ロケットの一つである。H3ロケットのような大型ロケットとは異なり、比較的小型の人工衛星を効率よく宇宙へ運ぶことを目的としている。
イプシロンロケットでは、JAXAによる開発のもと、IHIエアロスペースが機体システムの設計・製造などを担ってきた。2013年に初めて試験機が打ち上げられ、その後、2022年の6号機まで打上げを実施。ただし、6号機は目標の軌道に衛星を投入できず、打上げ失敗となっている。
現在は、従来のイプシロンロケットの開発成果をもとに、改良型である「イプシロンS」への移行が進められている。イプシロンSでは、H3ロケットとの部品・技術の共通化などを図り、打上げ能力や運用性の向上を目指している。

※ロケットの図はイメージであり、実際の機体構造を正確に示すものではありません。
しかし、イプシロンSの開発は順調とはいえない状況が続いている。2023年7月には、秋田県の能代ロケット実験場で行われた第2段モータの地上燃焼試験で爆発・火災事故が発生。さらに2024年11月にも、種子島宇宙センターで実施された第2段モータの再地上燃焼試験で燃焼異常が発生した。
こうしたトラブルを受けながらも、イプシロンSは原因究明と対策を進めながら、開発が続けられている。イプシロンSの開発は、小型衛星を日本国内から打ち上げる能力を維持するうえで重要だ。特に、IHIエアロスペースによる将来的な打上げ輸送サービス化も計画されており、同社は小型・超小型衛星の打上げ市場への本格参入を目指している。

次回の打上げ予定
イプシロンロケットの今後の打上げ予定としては、改良型である「イプシロンSロケット」の実証機打上げが計画されている。
2026年2月に示されたJAXAの開発状況資料では、第2段モータの燃焼異常を受け、イプシロンSロケットの開発計画を見直す方針が示された。原因特定と対策検討には時間を要する見込みであることから、早期の打上げ再開に向け、強化型イプシロンで使われていた第2段モータ「M-35」を適用し、名称を「M-35a」とする方針が示されている。このM-35a適用形態は、早期の打上げを実現するための機体として「イプシロンSロケットBlock1」と呼ばれている。
現時点では、M-35aモータの地上燃焼試験を実施したうえで、2026年度中の実証機打上げを目標としている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 機体名称 | イプシロンSロケット実証機(Block1) |
| 打上げ日 | 2026年度 |
| 搭載衛星 | 不明 |
イプシロンロケットの実績
イプシロンロケットは、2013年の試験機から2022年の6号機まで、合計6機が打ち上げられている。

試験機|惑星分光観測衛星「ひさき」
イプシロンロケット試験機は、2013年9月14日に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられた。搭載衛星は、惑星分光観測衛星「ひさき」である。
「ひさき」は、極端紫外線分光器を搭載した惑星観測用の科学衛星である。金星や火星などの地球型惑星の大気と太陽風の相互作用、木星の衛星イオから流出するプラズマなどの観測に用いられた。イプシロンにとっては初飛行であり、M-Vロケットの後継となる小型固体ロケットとしての実用性を示すミッションとなった。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 打上げ日 | 2013年9月14日 |
| 搭載衛星 | 惑星分光観測衛星「ひさき」 |
| 打上げ場所 | 内之浦宇宙空間観測所 |
| 結果 | 成功 |
2号機|ジオスペース探査衛星「あらせ」
イプシロンロケット2号機は、2016年12月20日に打ち上げられた。搭載衛星は、ジオスペース探査衛星「あらせ」である。
「あらせ」は、地球周辺に広がる放射線帯であるヴァン・アレン帯を観測する科学衛星である。高エネルギー電子がどのように生まれるのか、また太陽風の影響で発生する宇宙嵐がどのように発達するのかを明らかにすることを目的としている。2号機の成功は、イプシロンロケットが試験機に続き、宇宙科学ミッションの打上げ手段として継続的に活用されることを示すものとなった。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 打上げ日 | 2016年12月20日 |
| 搭載衛星 | ジオスペース探査衛星「あらせ」 |
| 打上げ場所 | 内之浦宇宙空間観測所 |
| 結果 | 成功 |
3号機|高性能小型レーダ衛星「ASNARO-2」
イプシロンロケット3号機は、2018年1月18日に打ち上げられた。搭載衛星は、高性能小型レーダ衛星(SAR衛星)「ASNARO-2」である。
ASNARO-2は、Xバンド合成開口レーダ(SAR)を搭載した小型地球観測衛星である。レーダを用いることで、雲や夜間の影響を受けにくい地表観測を行うことができる。この打上げは、イプシロンロケットが科学衛星に加え、地球観測分野の実用的な衛星にも対応できることを示した事例となった。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 打上げ日 | 2018年1月18日 |
| 搭載衛星 | 高性能小型レーダ衛星「ASNARO-2」 |
| 打上げ場所 | 内之浦宇宙空間観測所 |
| 結果 | 成功 |
4号機|革新的衛星技術実証1号機
イプシロンロケット4号機は、2019年1月18日に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられた。搭載されたのは、革新的衛星技術実証1号機である。
革新的衛星技術実証1号機は、小型実証衛星1号機「RAPIS-1」と、複数の超小型衛星・キューブサットで構成される実証ミッションである。
このうちRAPIS-1は、公募で選ばれた7つの部品・機器の実証テーマを軌道上で実証するための衛星である。1つの衛星に複数の実証機器を搭載し、宇宙空間での動作や性能を確認する役割を担った。
このミッションでは、RAPIS-1のほか、MicroDragon、RISESAT、ALE-1、OrigamiSat-1、Aoba VELOX-IV、NEXUSの計7基が打ち上げられた。複数の衛星をまとめて宇宙へ運んだことで、イプシロンロケットが相乗り打上げにも対応できることを示した事例となった。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 打上げ日 | 2019年1月18日 |
| 搭載衛星 | 革新的衛星技術実証1号機 |
| 打上げ場所 | 内之浦宇宙空間観測所 |
| 結果 | 成功 |
5号機|革新的衛星技術実証2号機
イプシロンロケット5号機は、2021年11月9日に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられた。搭載されたのは、革新的衛星技術実証2号機である。
革新的衛星技術実証2号機は、小型実証衛星2号機「RAISE-2」を中心に、複数の超小型衛星・キューブサットで構成される実証ミッションである。この打上げでは、RAISE-2のほか、HIBARI、Z-Sat、DRUMS、TeikyoSat-4、ASTERISC、ARICA、NanoDragon、KOSEN-1が宇宙へ運ばれた。
大学、高専、民間企業、海外機関など幅広い主体の衛星が搭載され、小型衛星の技術実証機会を支えるミッションとなった。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 打上げ日 | 2021年11月9日 |
| 搭載衛星 | 革新的衛星技術実証2号機 |
| 打上げ場所 | 内之浦宇宙空間観測所 |
| 結果 | 成功 |
6号機|革新的衛星技術実証3号機
イプシロンロケット6号機は、2022年10月12日に打ち上げられた。搭載衛星は、革新的衛星技術実証3号機、QPS研究所の小型SAR衛星「QPS-SAR-3」「QPS-SAR-4」である。
革新的衛星技術実証3号機は、小型実証衛星3号機「RAISE-3」と複数のキューブサットで構成される実証ミッションである。QPS-SAR-3とQPS-SAR-4は、革新的衛星技術実証3号機とは別枠の搭載衛星として打ち上げられた。
しかし、打上げは失敗に終わった。ロケットに異常が発生したため、JAXAは9時57分11秒頃にロケットへ指令破壊信号を送出した。6号機の失敗は、従来型イプシロンからイプシロンSへ移行する中で、信頼性向上と原因究明の重要性を改めて示す出来事となった。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 打上げ日 | 2022年10月12日 |
| 搭載衛星 | 革新的衛星技術実証3号機、 QPS-SAR-3、QPS-SAR-4 |
| 打上げ場所 | 内之浦宇宙空間観測所 |
| 結果 | 失敗 |
IHIエアロスペースが官民両面で関わる小型ロケット開発
イプシロン/イプシロンSロケットを考えるうえで注目されるのが、IHIエアロスペースが官民両面の小型ロケット開発に関わっている点である。
イプシロンSは、日本の基幹ロケットとして小型衛星打上げ能力を維持・発展させる役割を持ち、将来的にはIHIエアロスペースによる打上げ輸送サービス化も視野に入れられている。
一方、カイロスは、スペースワン株式会社が開発する民間小型ロケットである。スペースワンは、小型衛星向けの宇宙輸送サービスの事業化を進める企業であり、IHIエアロスペースは同社に出資している。
つまり、IHIエアロスペースは、イプシロンSではロケットの開発・製造や将来的な打上げ輸送サービス化に関わり、カイロスではスペースワンへの出資を通じて民間小型ロケット事業を支える立場にある。両者は小型衛星打上げという点では重なる部分があるものの、事業主体や開発の背景、IHIエアロスペースの関わり方は異なる。
この構図は、日本の小型衛星打上げ市場にとっても重要である。官の基幹ロケットとしての技術継承と、民間による商業打上げサービスの拡大が並行して進むことで、国内の小型衛星打上げ手段に厚みが生まれるためである。IHIエアロスペースは、イプシロンSとカイロスの双方に関わることで、官民両面から日本の小型衛星打上げ市場を支える存在になっている。
さいごに
イプシロンロケットは、日本の小型衛星打上げを支えてきた固体燃料ロケットである。2013年の試験機から2021年の5号機まで成功を重ね、小型科学衛星や実証衛星の打上げに活用されてきた。2022年の6号機失敗以降、大きな転換点を迎えており、次の焦点は、改良型であるイプシロンSの実証機打上げとなる。
H3ロケットが日本の大型基幹ロケットを担う一方で、イプシロンSは小型衛星向けの打上げ手段として重要な位置づけにある。今後、イプシロンSが打上げ再開に成功すれば、日本の小型衛星打上げ能力を再び強化する一歩となるだろう。
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