2023年11月21日、株式会社スペースシフトが、地球を観測する衛星の一種であるSAR衛星が取得した画像から新規に建造された建物を検知するサービスを「AWS Marketplace」上で公開したと発表した。
AWS Marketplaceはアマゾンウェブサービス(AWS)が展開するオンラインストア上であり、AWS MarketplaceにおけるSAR画像を解析するサービスの公開は世界初(※スペースシフト調べ)だという。
本記事では、このサービスの概要と、どのようなことに役立つのか紹介する。
目次
スペースシフトとは
はじめに、スペースシフトとは地球観測衛星から得られたデータをAIを用いて解析することで地球上のあらゆる変化を検出するソフトウェアを開発する企業である。
地表面や建造物のミリ単位の変動(沈下・隆起・傾き)を可視化するサービスや、水災発生時に浸水の範囲や深さなどの被害状況を把握するサービス、農作物の生育状況を解析して生産量や出荷時期を予測するサービスなど、様々なサービスを開発している。
サービスの概要と使用する衛星の特徴
今回スペースシフトがAWS Marketplaceにて公開したサービスはSentinel-1 衛星が取得した SAR画像を 解析するものである。
Sentinel-1衛星とはどのような衛星?
Sentinel-1衛星は欧州委員会(EC)と欧州宇宙機関(ESA)によって運営されている地球観測プログラム「コペルニクス計画」によって開発されたSAR(合成開口レーダー)衛星である。
SAR衛星は自ら電磁波を地球に向けて照射し、その電磁波の跳ね返りを観測することで地球表面の情報を取得。地球をスキャンするようなイメージで、X線画像やMRI画像のような画像が得られる。
昼夜、天気を問わず地表の観測が可能で、雲が多い地域や夜間の地表、さらには植生の下の地面の状態や土壌の湿度などといった地表の特徴を捉えることができるのが特長だ。
また、Sentinel-1衛星は衛星が地球上のあらゆる場所を観測することができ、さらに同じ地点を毎日ほぼ同じ時刻(※その地点での時刻)に観測する軌道に投入されている。そのため、その地点の「変化」の検出に長けていると言えるだろう。
取得したデータは無料で公開されており、気候変動など科学的研究、資源利用や環境保全、防災など、様々な場面で役立てられている。
新しい建物を建築するサービスの仕組み
今回スペースシフトが公開したサービスでは、撮影した時期の異なる2枚の画像をAIで解析することで建造物の変化を検出する。
SAR衛星のみならず、光学衛星によるカラー画像(※一般的に衛星写真と呼ばれているもの)と組み合わせて解析することにより、時系列変化を高精度に把握することができる。
新規建造物検出サービスが役立つこと
では、実際にこのサービスはどのようなことに役立つのだろうか。
ここでは、サービスの活用例として例を3つ挙げる。
1. 都市の動向把握と開発計画への活用
一つ目に、都市開発事業者は、都市部における新規建造物の情報から都市の変化を把握することで、地図データの更新や都市計画の策定に活用できる。
2. 建設予定地や周辺環境の状況把握
二つ目に、建設会社は、新規建造物の建設状況の把握を通じて建設予定地などの環境動向の把握または監視を行うことが可能。
例えば、競合のプロジェクト、騒音への苦情、日当たり問題など建設計画に影響を与える可能性のあるリスクを事前に識別し、対応策を講じられる。
3. 不動産データの蓄積と活用
三つ目に、不動産会社は都市部や市街地における新規建物の開発状況の把握を通じて、地域の動向把握や不動産の建設計画策定に活用できる。
これら3つの例以外にも、例えば新興国や過疎部などの地上データが不足している地域の現況や都市化への動向を読み取ることで経済指標の予測にも活用できるなど、新規建造物を検出するサービスは投資家、自治体、国家等幅広い人々に役立つだろう。
このサービスで得られる情報の中にはこれまで衛星データを使用せずとも取得できた情報ももちろんある。しかし、衛星データを使用することで世界中を迅速、広範囲に情報収集することが可能となるのだ。
AWS×衛星サービスのメリット
今回このサービスがAWS Marketplace上で公開されたとのことだが、これによりどのようなことが可能になるのだろうか。
AWSとはクラウドベースの製品やサービス[*1]を開発、提供、利用することができる世界最大のプラットフォームであり、インターネットを介してコンピューターの機能やデータを遠く離れたところから利用することが可能。
サービスの開発に必要な機能が多数提供されており、自身で一から開発するよりも簡単に開発できる。
そしてAWS Marketplaceで開発したソフトウェア製品やサービスを公開することで、AWSを利用する多数のユーザーがアクセスできるようになるのだ。
またAWSは、Sentinel-1 のデータ以外にもSAR 衛星データを無料のデータセット「Open Data on AWS 」として公開している。
つまり、今回スペースシフトが公開したサービスと Open Data on AWS を用いれば、世界中のユーザーが AWS 上の一貫した環境で、様々なSAR 画像の解析結果を簡単に入手することが出来るのである。
さいごに
いかがでしたか。
スペースシフトの新規建物検知サービスは、都市開発、建設業界、不動産市場など多岐にわたる分野での応用が期待されている。
AWS Marketplaceでの公開によってこのサービスは広範なユーザーにアクセスできるようになり、地球観測データを活用した新しい可能性を広げた。
今後の発展と普及が楽しみである。
注釈
[*1]クラウドサービスインターネットを介してコンピューティングリソースやサービスを提供するもの。例として、インターネット上にファイルを保存するGoogleドライブや、オンラインでのコミュニケーションツールであるMicrosoftのTeamsなどが挙げられる。