
宇宙空間では人工衛星の増加に伴い、スペースデブリ(宇宙ごみ)問題が深刻化している。
こうした課題を解決するために注目されているのが、人工衛星の寿命延長やデブリ除去などの軌道上サービス(On-Orbit Servicing)を開発する株式会社アストロスケールホールディングス(以下、アストロスケール)だ。
本記事では、アストロスケールの主なミッション(2026年3月現在)と今後の打上げ予定について整理する。
アストロスケールとは
会社の概要
アストロスケールは、スペースデブリ除去や軌道上サービスを開発する宇宙企業である。
宇宙空間に存在するデブリの増加は、人工衛星同士の衝突リスクを高める要因となっており、将来的な宇宙インフラの安全性を確保するためにも早急な対策が求められている。
同社はこうした課題の解決を目指し、日本発の宇宙企業でありながら、グローバル展開を進めている。現在は日本を拠点とするほか、米国・英国・フランス・イスラエルなどにも拠点を持ち、各国の政府機関や宇宙機関と連携しながら事業を展開している。
主な事業
アストロスケールは、宇宙空間における持続的な利用を実現するため、複数の軌道上サービス分野の技術開発と事業化を進めている。
同社の軌道上サービスは以下のように分類できる。それぞれのサービスの実現に向け、複数の技術実証ミッションや商業ミッションを進めている。
1|ISSA(In-Situ Space Situational Awareness):観測・点検
ISSAは、軌道上に存在する人工衛星やデブリの状態を観測・点検するサービスである。
サービス衛星が対象物に接近し、カメラなどのセンサーを用いて状態を確認することで、衛星の異常原因の調査やデブリの状況把握などに活用される。
2|LEX(Life Extension/Refueling):寿命延長/燃料補給
LEXは、人工衛星の寿命延長を目的としたサービスである。
衛星は燃料が尽きると運用を終了することが多いため、軌道上で燃料補給などを行うことで、衛星の運用期間を延ばすことが期待されている。
3|Repair & Refurbishment:修理・改修
Repair & Refurbishmentは、軌道上で人工衛星の修理や改修を行うサービスである。
将来的には、衛星の一部機能の交換やアップグレードなどを軌道上で実施することで、衛星の価値を維持・向上させることが可能になると考えられている。
4|EOL(End-of-Life):運用終了後の衛星除去
EOLは、寿命を迎えた人工衛星を安全に軌道から除去するサービスである。
主に、あらかじめドッキング機構などを備えた「除去を前提に準備された衛星」を対象とする。運用終了後の衛星を大気圏へ再突入させることで、宇宙空間にデブリが残ることを防ぐ役割を持つ。
5|ADR(Active Debris Removal):既存デブリの除去
ADRは、すでに宇宙空間に存在するスペースデブリを除去するサービスである。
主に、除去を前提とした機構を持たない「準備されていない物体」を対象とする。ロケット上段や故障した衛星などの大型デブリは、衝突事故を引き起こすリスクが高いため、捕獲して軌道から除去する技術の開発が進められている。

直近(次回)の打上げ予定
アストロスケールの直近の打上げミッションとして予定されているのが、APS-R(Astroscale Prototype Servicer for Refueling)である。

APS-Rは、アストロスケールの米国子会社が開発している衛星燃料補給ミッションであり、打上げは2026年夏頃が予定されている。
このミッションでは、静止軌道上(GEO)にある米国防総省の衛星へ推進剤(ヒドラジン燃料)を補給する実証が行われる計画である。
また、米国防総省への燃料補給実証として、また、静止軌道上でのヒドラジン燃料補給実証として世界初の試みになる可能性があり、宇宙における燃料補給サービスの実現に向けた重要なステップとして注目されている。
軌道上サービスミッション一覧
ここでは、アストロスケールがこれまでに実施したミッションと、今後予定されている主な軌道上サービスミッションについて整理する。
ELSA-d(実証ミッション)
ELSA-dは、アストロスケールが開発したデブリ除去技術の実証ミッションである。2021年に打ち上げられ、軌道上でデブリ捕獲のための技術実証が行われた。
このミッションでは、サービス衛星と模擬デブリ衛星の2機を用いて、軌道上での接近・捕獲の技術を検証した。特に特徴的なのが磁力ドッキング技術である。サービス衛星が模擬デブリ衛星に接近し、磁力を用いて安全に捕獲する仕組みが採用された。
将来の商業デブリ除去サービスに向けた基盤技術を実証する重要なミッションとなった。
| ミッション名 | ELSA-d |
| サービス | EOL |
| ロケット | ソユーズロケット |
| 時期 | 2021年3月22日 |
| 場所 | カザフスタン バイコヌール宇宙基地 |
ADRAS-J
ADRAS-Jは、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)のプロジェクトとして実施されている商業デブリ除去実証ミッションである。
宇宙空間に存在する大型デブリに安全に接近し、状態を観測・分析することが目的であり、2024年に打ち上げられ、世界初となるスペースデブリの周回観測を実現。
スペースデブリから約15mまで接近することにも成功しており、民間企業がデブリに対して近傍運用した例では世界で最も近い距離となっている。
| ミッション名 | ADRAS-J |
| サービス | ISSA |
| ロケット | Electron(エレクトロン) |
| 時期 | 2024年2月18日 |
| 場所 | ニュージーランド マヒア半島 (Launch Complex 1) |
APS-R
APS-Rは、アストロスケールが米国市場向けに開発している衛星燃料補給ミッションである。打上げは2026年夏頃が予定されている。
このミッションでは、米国防総省の衛星に対して燃料補給を行うことが計画されており、実現すれば米国防総省衛星への初の燃料補給ミッションとなる。
| ミッション名 | APS-R |
| サービス | LEX |
| ロケット | 未定 |
| 時期 | 2026年夏 |
| 場所 | 未定 |
ISSA-J1
ISSA-J1は、文部科学省「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3基金事業)」の一環として進められている、実際の大型衛星デブリ2機を対象に、接近および近傍での撮像・診断を行うミッションである。
2024年に開始された「ADRAS-J」で実証された技術をもとに、より高難度なシナリオに挑み、軌道上サービスの実現に向けた技術的信頼性と実績をさらに高める狙いがある。
| ミッション名 | ISSA-J1 |
| サービス | ISSA |
| ロケット | PSLV(Polar Satellite Launch Vehicle) |
| 時期 | 2027年春 |
| 場所 | インド東部 サティシュ・ダワン宇宙センター |
ELSA-M
ELSA-Mは、ELSA-dで実証された技術を発展させ、実際の衛星を対象としたデブリ除去サービスの実用化を目指している。
このミッションは、アストロスケールの英国子会社を中心に進められており、英国宇宙庁(UKSA)や欧州宇宙機関(ESA)などの支援を受けた欧州主導のプロジェクトとして開発が進められている。
複数の衛星を除去する商業デブリ除去サービスの実証ミッションとして位置付けられており、磁力ドッキング技術を用いて捕獲した後に大気圏へ再突入させることが想定されている。| ミッション名 | ELSA-M |
| サービス | EOL |
| ロケット | Spectrum |
| 時期 | 2028年4月期 |
| 場所 | 未定 |
ADRAS-J2
ADRAS-J2は、ADRAS-Jの成果を踏まえて実施されるデブリ除去ミッションである。このミッションもADRAS-Jと同様JAXAの契約に基づいて進められている。
ADRAS-Jでは大型デブリへの接近・観測が主な目的であったのに対し、ADRAS-J2では大型デブリ捕獲・除去の実証が計画されている。
| ミッション名 | ADRAS-J2 |
| サービス | ADR |
| ロケット | 未定 |
| 時期 | 2028年4月期 |
| 場所 | 未定 |
さいごに
近年、人工衛星の増加に伴いスペースデブリの問題が深刻化しており、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)などでも宇宙空間の持続的利用に向けた議論が進められている。
こうした背景から、デブリ除去や衛星寿命延長などを行う軌道上サービスは、今後の宇宙インフラとして重要な分野とされている。
アストロスケールは、技術実証に加え、APS-R、ELSA-M、ADRAS-J2などのミッションを通じて、軌道上サービスの実用化を進めている。今後のミッションの進展は、宇宙空間の持続的利用を実現する上でも注目される。
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