
人工衛星や国際宇宙ステーション(ISS)の運用は、衛星を打ち上げるだけでは成立しない。軌道上の宇宙機と地上をほぼ常時つなぎ、状態監視やデータ送信を行う通信インフラが不可欠である。
その中核を担ってきたのが、NASAが運用するデータ中継衛星システム「TDRS(Tracking and Data Relay Satellite System)」である。
本記事では、TDRSの仕組みや役割、そして今後の宇宙通信インフラの方向性について整理する。
目次
TDRSについて
TDRSの概要
TDRSは「Tracking and Data Relay Satellite System(追跡・データ中継衛星システム)」の略称で、米国航空宇宙局(NASA)が運用する通信中継衛星ネットワークである。
このシステムは主に高度およそ36,000㎞の静止軌道に配置された通信衛星によって構成されている。静止軌道の衛星は、地上に対しての地点が変わらなく、高度が高いため地球の広い範囲をカバーできるという特徴がある。
この特徴を活かし、高度2,000㎞以下の低軌道を周回する宇宙機と地上局の間で通信を中継する役割を担っている。
どのような衛星が利用しているのか
TDRSは、多くの重要な宇宙機の運用に使用されている。代表的な例としては次のようなものがある。
- 国際宇宙ステーション(ISS)
- ハッブル宇宙望遠鏡
- 地球観測衛星
- ロケット打ち上げ時のテレメトリ通信
特にISSでは、TDRSによって乗組員との音声通信や映像伝送、実験データの送信などがリアルタイムに行われており、TDRSは有人宇宙飛行を支える基盤の一つとなっている。

TDRSが必要な理由
TDRSが宇宙で必要とされる理由として、主に以下の3点が挙げられる。
1|低軌道衛星は地上局と通信できる時間が極めて短い
低軌道の地球観測衛星や有人宇宙船は地球を高速で周回するため、地上局との通信時間は1回あたり数分から十数分程度、1つの地上局と1日に通信できる合計時間は約1時間程度と、通信可能な時間が限られる。
加えて、衛星が地球の裏側に回った場合、通信は完全に途切れる。この問題の解決策として世界中に多数の地上局を配置することも考えられるが、コストや運用面で現実的ではない。
TDRSは静止軌道から広い範囲をカバーすることで、この制約を大きく改善している。2|ほぼリアルタイムで通信できるようになる
TDRSを利用すると、『宇宙機 → TDRS → 地上局』という経路で通信が行われる。
静止軌道の衛星は常に同じ地域をカバーできるため、低軌道の宇宙機が視野内にある限り通信を継続できる。これにより観測データの即時取得や、運用判断の迅速化が可能となる。近年は観測データの大容量化が進んでおり、リアルタイム通信の重要性はますます高まっている。
3|有人宇宙飛行では安全性に直結する
有人宇宙飛行では通信の安定性が極めて重要である。
例えば、ISSでは、生命維持装置の状態監視 、船内環境データの取得 、地上との音声、映像通信などがほぼ常に行われている。通信が途絶すれば安全性に重大な影響を与える可能性があるため、TDRSのような中継インフラは不可欠な存在となっている。
今後の宇宙通信インフラはどうなるのか
NASAは従来の政府主導型のデータ中継システムから、民間サービスの活用へと移行する方針を打ち出している。
また、低軌道コンステレーションやレーザー通信の発展により、通信インフラはより分散型・高速化していく可能性がある。
日本でもデータ中継技術の研究が進められており、JAXAは「こだま(DRTS)」などのデータ中継衛星を運用してきた。今後、地球観測や防衛用途の拡大に伴い、日本における宇宙通信市場も徐々に重要性を増していくと考えられる。
さいごに
TDRSはロケットや衛星そのもののように目立つ存在ではないが、宇宙開発を支える基盤インフラとして極めて重要な役割を担っている。
宇宙機のリアルタイム運用を可能にしたことは、有人宇宙飛行や地球観測の発展に大きく貢献してきた。
今後は通信ネットワークがさらに高度化し、衛星コンステレーションや軌道上データセンターと連携することで、「宇宙のインターネット」とも呼べる基盤へ発展していく可能性がある。
宇宙産業が拡大する中で、こうしたインフラの重要性は、今後ますます高まっていくだろう。








