
2025年6月3日、X-NIHONBASHI TOWERで開催された【SPACE DAY 2025】では、宇宙ビジネスとクラウド技術を融合した様々なセッションが展開された。
本稿では、セッションの注目ポイントを取り上げつつ、主催企業Fusicの魅力について記載している。
目次
Fusicについて
会社概要
株式会社Fusicは、データの収集・解析から、それを活用したシステムの開発・運用までを一貫して提供する技術トータルソリューション企業だ。
2003年に福岡県で創業。ソフトウェア開発を基盤としながら、クラウドコンピューティング、AI、IoTなどの先進技術をいち早く取り入れ、研究開発段階の最新テクノロジーを迅速かつ柔軟に社会実装することで、着実に市場での評価を高めてきた。
2023年には福岡県を代表するIT企業として東証グロース市場に上場を果たしたことで、県内外問わず注目を集めている。ブランドスローガンに「OSEKKAI × TECHNOLOGY」を掲げ、クライアント一人ひとりに丁寧に向き合い、伴走型で課題解決を支援する姿勢が同社の大きな特長だ。
Fusicの強みは、研究開発段階の先端テクノロジーを社会実装可能な形へと要素分解し、高度な技術力で再統合した上で、市場ニーズに適した提案を行う柔軟性にある。

クラウド技術を活用して宇宙業界に参入
Fusicは、高度な技術統合力と柔軟な提案力を強みに、近年では宇宙業界への参入を本格的に進めている。
特に、同社が10年以上にわたり培ってきたクラウドコンピューティング技術は、宇宙産業への参入を支える重要な柱となっている。
宇宙ビジネスの民主化が進展する中、膨大な衛星データ処理、AIによるリアルタイム解析、地上局との通信管理、宇宙ミッションのシミュレーションなど、クラウド基盤の活用がさまざまな場面で求められるようになった。
また、セキュリティの堅牢性やコスト管理といった観点からも、クラウド技術は宇宙ビジネスを支える中核インフラとして欠かせない存在となりつつある。

こうしたクラウド環境の整備により、かつては多額の設備投資や高度な専門知識を必要としていた宇宙関連業務が、迅速かつ柔軟に実施可能となり、スタートアップから大企業まで多様なプレーヤーが宇宙市場へ参入できる土壌が形成されつつある。
Fusicは、QPS研究所の地上局系システムの構築や、JAXA・電通・スペースシフトと連携して、衛星データを活用した圃場の観測、農作物の価格予想・収穫時期の推定を通じた広告最適化の概念実証等の取り組みを実施してきた。
研究機関や先進企業とのコラボレーションによって生まれた最先端技術をいち早く習得し社会実装してきた実績を持つFusicは、クラウドネイティブな開発力を武器に宇宙産業での存在感を高めつつある。


SPACE DAY 2025 ー 注目セッションを3つ紹介
SPACE DAY 2025では、東京大学の宮下氏、国内の主要宇宙ベンチャー企業であるアストロスケールやQPS研究所が顔を揃え、海外からはAxiom Spaceが参加するなど、豪華なセッションとなった。
今回は注目のセッションを3つピックアップして紹介する。(以下、セッション全体像)

衛星はシェアされて使い倒される時代へ!?
東京大学の特任准教授・宮下直己氏が描く未来の宇宙利用は、人工衛星が誰でも使えるインフラになるというものだ。つまり、かつてコンピューターが専門家だけのものから、クラウドサービスとして誰でも使えるものへと変化したように、衛星もまた、誰もが気軽に使える時代が来るようになるということである。
それこそパソコンのように衛星に接続して操作[※1]したり、必要なタイミングで機能を使ったりできる未来を宮下氏は想定している。

このような変化が起これば、衛星の使い方そのものが大きく変わるという。
宮下氏は、衛星ビジネスは使われていない衛星の時間や機能を他の人が借りられる仕組み、つまり「貸し借り」が進むと考えている。
これにより、衛星の所有者は使っていない時間を有効活用し、利用者は必要な分だけ衛星を使うことができる。これは、Airbnbのような空き部屋を貸し出すサービスや自家用車を他人が使うサービスに近い考え方である。
また宮下氏は、宇宙技術に関わる人々には、これまでのように自分たちで作ることにこだわりすぎず、もっと柔軟な発想が必要であるとし、すでに地上で広まっている仕組みや考え方を、宇宙にも持ち込むことで、より多くの人が宇宙の技術を活用できるようになると強調した。
とは言え、まだ解決すべき課題も沢山ある。
例えば、衛星の機能を地上から自由に変更する技術やセキュリティの問題、衛星同士がぶつからないようにする管理の仕組み。また、衛星を使いたい人が、必要な時間だけ手軽に借りられる仕組みづくりも重要になる。
これからの宇宙産業は、特別な人だけのものではなくなる。人工衛星は、まるでインターネットのように誰もが使える存在へと変わろうとしている。
宮下氏は、宇宙と地上の境界を越えて、多くの人が知恵を持ち寄り、新しい使い方を生み出していくことが、次の時代の大きな力になると語っていた。

[※1] SSH接続を含むDevOps的運用は常時ブロードバンド接続が実現した場合という前提付きの将来像。現状では限定的。
一般人が宇宙旅行に行ける時代は来るのか
続いて、若田光一元宇宙飛行士が所属する企業として注目を集めているAxiom Space のJapan Country Manager & Strategic Advisor for Asiaの田口優介氏は、Axiom Spaceの具体的な事業を3つ紹介した上で大衆向け宇宙旅行に関する展望について語った。

Axiom Space、3つの主要事業
今後のAxiom Spaceの主要事業としては、主に3つ掲げており、第一は、世界初の完全商業宇宙ステーションの建設・運用である。既存の国際宇宙ステーション(ISS)にモジュールを段階的に接続し、ISS退役後は独立運用へ移行する計画とのことだ。最初のモジュールは2027 年に打上げ予定で、構体は欧州Thales Alenia Spaceと連携して製造、2025 年内に組立開始が見込まれている。
第二は次世代有人技術の開発である。同社は、NASAアルテミス計画下で月面活動に供される船外活動服(EVAスーツ)のプライム請負企業として選定されており、高級ファッションブランドや通信機器メーカーと協業しつつ、デザインと素材の最適化を進めている。
第三は既存のISSを利用した有人宇宙サービスである。約9か月の訓練を経て、SpaceX「クルー・ドラゴン」に搭乗し、ISSに約2週間滞在する完全民間ミッションだ。次便(Axiom Mission 4)は 2025年6月上旬に打ち上げ予定である。
Axiom Spaceが次に注目する宇宙ビジネス
Axiom Spaceが4つ目の柱として次に注目しているのは、軌道上データセンタービジネスだ。地球観測衛星群は膨大なデータを取得するものの、帯域制約ゆえに地上へ降ろせず廃棄されるケースが多い。宇宙空間にストレージと演算リソースを配置すれば、前処理・学習・長期保存が可能になる。
Axiom Spaceは、今年(講演当年)10月に通信事業者ケプラー・コミュニケーションズのネットワークと連携し、実証衛星2基を投入予定だ。
その先は有人モジュール内に電力・熱制御を共有する「有人データセンター」を設置し、最終的には無人専用モジュールを多数連結する計画である。

民間宇宙旅行の展望
田口氏は、宇宙旅行について輸送費が今の100分の1まで下がらなければ大衆の宇宙旅行は難しいとし、本格的な宇宙旅行の大衆化まで数十年を要すると冷静に見積もっていた。
その一方で、SpaceXが開発するStarshipのような超大型再使用ロケットや地球間高速輸送が普及すれば需要が非線形に拡大し、価格も加速度的に低下すると見通しを話していた。
むしろ企業の場合は、軌道上ステーション、データセンター、月面活動などのインフラが整い始めた今こそが参画のチャンスだと田口氏は呼びかける。
ロケット輸送費の低減、ISS National Labの活用、異業種との協業が重なれば、宇宙は徐々に「遠い憧れ」から「拡張された生活圏」へと転じる。
大衆が自由に宇宙へ旅立つ日は、輸送と市場のブレークスルー次第で確実に近づいているとしつつ、産業各社は今が好気であるという見解が田口氏の結論であった。
「ふつうの」IT人材が衛星事業を支えている!?
小型衛星開発ベンチャー企業、アークエッジ・スペースの共同創業者、鈴本遼氏は、宇宙業界において「ふつうの」IT人材が自然に活躍できる環境を整えることの重要性を語った。
鈴本氏が描く未来像は、衛星本体やそこから得られる地理空間データを、Web技術をはじめとする「ふつうの」IT技術で動かし、誰でも「自由に」使える世界。
そのためには、Webエンジニアのような宇宙業界外で経験を積んだ人材を迎え入れ、彼らにとってこの業界全体が魅力的な場になるよう変えていく必要がある。 ―これがアークエッジ・スペースの採用と組織設計の根幹を成している。

創業期の仲間の1人は、鈴本氏が前職クックパッド時代の同僚であるWebエンジニアで宇宙開発経験はゼロであった。「アークエッジをソフトウェア企業のような文化にしたい。だから来てほしい」という鈴本氏の一言で参画を決めたという。
彼はその後、SlackやGitLab(現在はGitHub)、esa.ioといったツール群がすでに整備されていた社内環境を「家具家電付き物件」と形容し、「DASH島のような未開の地に挑むつもりで来てみたら、予想以上に整っていて拍子抜けした」と語っている。
その一方で、こうしたツールは整っていても使いこなしには課題があり、Webエンジニアだからこそわかる改善のポイントも多く見られたという。
こうしたエピソードを踏まえ、鈴本氏は、組織拡大のためには、ベストプラクティスを理解している人材を早い段階で仲間として迎え入れる環境を整えるべきであると考え、また会社の全体方針からもソフトウェア指向に寄せた組織づくりを目指した。
同社がソフトウェア指向に基づいた組織づくりにこだわる理由は、「ふつう」で「自由」な開発環境が、優秀な人材を惹きつける源泉となると考えているからだ。
制約の多い従来の衛星開発環境では、イノベーションが阻害されるだけでなく、エンジニアの意欲すら奪いかねない。だが、自分が慣れ親しんだツールで衛星に触れられる環境があれば、「面白そうだからやってみよう」と感じてもらえる可能性も高まる。
また、こうした思想は開発部門に限らず、組織全体に浸透している。
例えば、エンジニアリング部門はもちろんのこと、バックオフィスや管理部門においても、Slack WorkflowやGoogle Apps Script(GAS)を活用し、弁当の発注や各種申請書類の作成といった日常業務の自動化が進められている。
さらに最近では、全社員がChatGPTの有料ライセンスを利用できる仕組みも導入されるなど、業務の効率化が全社的に推進されている。
「Web 企業が衛星も作っている」状態が理想系であると鈴本氏は見解を述べた。
さいごに鈴本氏は、宇宙開発における技術基盤の話にとどまらず、「リアリティに寄り添う」の重要性を指摘した。
衛星本体や衛星データを扱っていると、それらの特性上、思考回路がグローバルな視点に寄ってしまいがちになる。現場の実態を自らの五感で感じ取り、そこで起きていることや本当に求められていることといった、リアリティを追求することも必要であると説いた。
例えば、衛星データ利活用では、衛星データが煩雑である等の課題が存在する。そうした下層の複雑さを意識させることなく、統一されたインターフェースによって、ユーザーのリアルな課題をラクにシンプルに安価に解決していく。
このような考え方が今回のテーマであるクラウドの考え方そのものであり、衛星データ利用だけでなく、衛星開発・製造・運用のすべてに貫かれる思想でもあると締め括った。
主催企業のFusicにインタビュー
SPACE DAY 2025の開催にあたって、Fusicで宇宙ビジネスを推進する方々に、イベント開催の背景と宇宙業界にどのようい参入したのかを伺った。その内容を紹介し、本稿の締めくくりとする。
― 宇宙✖︎クラウドに特化したイベントを開催した背景を教えてください。
(吉野)はい、宇宙業界はロケットや衛星のようなハードウェア主体の技術が本流なこともあり、どうしてもクラウドのようなソフトウェアの領域があまり語られない傾向にあります。
でも宇宙ビジネスの民主化にあたり、クラウド技術は非常に重要で、例えば、宇宙から取得した衛星データを一般ユーザーが使用するための基盤の多くには、AWS等のクラウドが使用されています。
日本の宇宙産業にどのように寄与するかを考えたときに、地道なイベントから少しづつ宇宙業界におけるソフトウェア・クラウドの重要性を知ってもらいたいと思い、2024年から開催しています。昨年は宇宙関連企業が2社しか集まりませんでしたが、今年は錚々たる顔ぶれが集まっており、いい意味で期待を裏切られました。
― 宇宙業界に新規参入する上でFusicが工夫したポイントを教えてください。
(室井)そうですね、やはり愛嬌じゃないですか。弊社が掲げているのは、いい意味での「おせっかい」でお客様との密なコミュニケーションを大切にしています。宇宙業界はまだまだ発展途上なこともあり、横のつながりも強いので、1つ人脈が繋がれば、あとは連鎖的に繋がっていきます。
(吉野)あと結局は、創業当初から研究開発段階のものを社会導入するために苦労してきた、とりわけクラウドの技術導入は弊社が得意とする領域であるので、取り組んできたことを順当に評価していただけているのではと思っております。
現在、JAXAの衛星データ基盤であるG-Portalのクラウド構築をPASCO様と共同で進めています。このようなお話を頂いたのも、クラウドでの環境構築能力と「おせっかいな」コミュニケーションを評価していただいた結果だと感じております。
― さいごに各々一言いただけますか。
(室井)宇宙界隈で「ソフトウェア」が主題になることは珍しいです。 ただ、宇宙産業がこれからよりロバストな産業になっていくには、喫緊のハードウェア開発も大切ですが、並行してソフトウェア技術の融合も積極的に推進していく人材が必要だと考えています。
そういった意味合いで、今回のSPACE DAY 2025のような、「宇宙産業の中でソフトウェアで活躍するThought Leaders」にスポットライトを当てる活動には価値があると思いますし、今後も同じマインドを持った仲間を増やして宇宙産業の発展に貢献していければと思っております。
(吉野)SPACE DAY 2025のテーマでもありますが、今後の宇宙開発はハードウェアだけではなく、ソフトウェア開発も重要になっていくと考えています。
Fusicは宇宙産業のソフトウェア面におけるサービス開発、支援を推進していきます。一緒に宇宙産業の未来を創っていく、パートナー企業や人材を募集しています。気軽にお声がけください。

さいごに
いかがでしたか。
SPACE DAY 2025の取材を通じて最も印象的だったのは、主催企業であるFusicのメンバー各自の丁寧な対応であった。
宇宙ビジネス関連のイベントは世界中で多数開催されているが、ソフトウェアやクラウド技術を軸に議論が展開される事例はまだまだ珍しい。特に日本では異業種から宇宙ビジネスへの参入に成功した事例も少ない中、異業種参入の同社が一定の存在感を発揮しているのは、このような細やかな気配りができることも関係しているのではないだろうか。