「必要なデータがわかるのが強み」天地人が初の自社衛星開発へ!その理由とは?
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2025年1月27日、JAXAベンチャー 株式会社天地人は、「Thermo Earth of Love プロジェクト」(地表面温度観測衛星計画)を発表した。同プロジェクトは、複数の衛星データや地上データを組み合わせた「宇宙ビッグデータ」を活用して社会課題の解決に取り組む天地人が、自社衛星開発によって地表面温度観測を強化するプロジェクトである。

本記事では、同社が地表面温度を観測する衛星の開発に踏み切った理由や、その重要性についてご紹介する。

天地人とは

天地人は、「天」からの情報(衛星データ)を、「地」上の情報(地上データ)と組み合わせ、「人」々の(活動データ)生活を豊かにすることをモットーに掲げる企業である。

創業当初から単一の衛星データを用いるのではなく、ビッグデータとして捉えるという宇宙業界では特徴的なアプローチで事業を展開。

世界各国500機以上の人工衛星データと国や企業が保有する地上データ(地上センサのデータ、統計データ、GISデータ等)を重ね合わせてAIで分析することを得意とし、地球温暖化対策やインフラの老朽化、都市計画等の社会課題の解決に取り組んできた。

その中で同社は、衛星データとしては主に以下の3つを活用している。

  1. 衛星写真:国内外でも多くの民間企業が取り扱っている可視画像。地表をカメラで撮影するようなもので、天地人では自然の変化、都市部の変化、建物等の識別で活用。
  2. SAR画像:地表に発射した電波の反射を観測した画像。目には見えない情報を取得でき、政府主導で開発された衛星に加え、最近では民間企業も参入。天地人では地盤変動の分析に活用。
  3. 地表面温度:地面そのものの温度。気温が「大気(空気)」の温度を指すのに対し、地表面温度は「地面」の温度を表す。衛星の赤外カメラで取得可能。
天地人が活用してきた主な衛星データ
天地人が活用してきた主な衛星データ ©株式会社天地人

実は重要!?地表面温度観測衛星 開発の理由

天地人だから気づいた地表面温度の「価値」

上記3つの衛星データに加え、数々の衛星・地上データを扱う天地人が特に価値を感じているのが「地表面温度」である。

地表面温度は、物体がその温度に応じて放射する目に見えない光を「赤外カメラ」で捉え、画像として可視化される。静止気象衛星「ひまわり」シリーズや地球観測衛星「Terra」など、気象庁、JAXA、NASAをはじめとする各国の機関が運用する衛星によって取得されている特殊な情報だ。

この特殊性に加えて、地表面温度データの解析には大気による吸収・散乱の影響の補正等専門的な技術が必要であり、また衛星データを複数重ね合わせての解析は珍しく、気温データ等と比較してビジネスで活用が進んでこなかった。

しかし、近年の猛暑を背景に、気温だけでなく地面の熱さを把握すること自体の価値は高まっており、さらに天地人は、地球温暖化や気候変動の影響を捉え、災害リスクを評価する上で、地表面温度データが不可欠であると確信している。

同社はこれまで、地球温暖化対策や水道管などインフラの老朽化、農業の効率化、都市計画といった多様な社会課題に取り組んできた。その中で地表面温度データは、インフラの老朽化リスクの評価、再生可能エネルギーの適地選定、気候変動に対応した農業適地評価など、天地人のサービスにおいて重要な役割を果たしている。

天地人は、複数のデータを統合して分析するアプローチを強みとしてきたからこそ、地表面温度の持つ価値にいち早く気づくことができたのだ。

天地人は衛星データをどう使っているか
天地人は衛星データをどう使っているか ©株式会社天地人

そして、地表面温度データの価値に早くから着目した天地人は、JAXAのGCOM-C衛星や気象衛星ひまわり、さらには海外の衛星からの情報を統合し、独自の高頻度・高解像度な地表面温度情報を生み出す研究開発を進めてきた。

この技術は現在、誰でも無料で利用できるWebGISサービス「天地人コンパス」や、自治体・水道事業者向けの水道DXサービス「天地人コンパス 宇宙水道局」に活用されている。

必要なデータが分かるからこそ衛星の価値を最大化

地表面温度データの可能性を誰よりも信じてきた天地人は、今回「Thermo Earth of Love プロジェクト」を通じて、自社衛星の開発に踏み切った。これにより、地表面温度の観測体制を一層強化する。

「Thermo Earth of Love プロジェクト」
「Thermo Earth of Love プロジェクト」©株式会社天地人

従来、宇宙業界では自社衛星を開発し、その観測データを販売する「ハードウェア起点」のビジネスモデルが主流だった。しかし、天地人が推進するのは、『ソリューション起点の衛星開発』という世界的にも珍しい垂直統合型のアプローチである。

この取り組みの最大の強みは、『実際のビジネスを通じて、どのようなデータが本当に必要なのかを理解している』点にある。社会課題の解決に求められるデータの種類、解像度、観測範囲を見極めた上で衛星を設計することで、その価値を最大化できるのだ。

また現在、地表面温度データは、気象庁やJAXA、NASAなど、主に政府機関の衛星によって観測されており、天地人はこの領域に民間企業が参入することに大きな意義を見出している。

同社は政府機関だけでなく、民間が独自にデータを所有することで、地表面温度データが活躍する可能性をさらに広げていけると考えているのだ。

2027年打上げ!地表面温度観測衛星でできること

天地人が開発を進める「Thermo Earth of Love プロジェクト」の衛星は、2027年に打ち上げ予定だ。

この衛星の導入により、地表面温度の観測範囲を拡大し、解像度を向上させることで、天地人のサービスは大きく進化する

「Thermo Earth of Love プロジェクト」で実現すること
「Thermo Earth of Love プロジェクト」で実現すること ©株式会社天地人

具体的には、以下の分野での活用が考えられている。

① 上下水道インフラの維持管理の高度化

高解像度・高頻度な地表面温度データを活用し、上下水道インフラの維持管理を飛躍的に向上させる。特に、漏水検知の精度向上や、準リアルタイムでの監視による迅速な対応を実現し、水道管の劣化予測や予防保全に貢献。

さらに、地震や火山噴火などの災害時には、被害状況の把握にも活用可能であり、都市計画や防災対策の強化にもつながる。

➁ 農業分野における収穫計画の精密化

地表面温度データを活用することで、作物の生育状況をより精密に把握し、病害虫の早期発見や最適な品種選定を実現。

また、気候変動や土壌温度の変化を準リアルタイムで分析することで、収穫計画の精度向上を図り、持続可能な農業モデルの構築を支援する。

さいごに

いかがでしたか。

多種多様な衛星データや地上データからなる「宇宙ビッグデータ」の解析により社会課題の解決に取り組んできた天地人はまだビジネス活用が進んでいない「地表面温度」活用の可能性やその重要性にいち早く気付き、同データを取得可能な衛星を開発する。

衛星データを地上で活用する中で必要な衛星を開発するという同社の取り組みは世界的にも珍しいものであり、実際のビジネスに通じているからこそ、衛星の価値を最大化できるだろう。

また、民間企業が地表面温度のデータを持つようになることで、その活用がさらに広がっていくことが期待できる。

「Thermo Earth of Love プロジェクト」という名称には、地表面温度が教えてくれる地球からの温もり(Thermo Earth)と、地球への想いや愛情(Love)が込められている。

天地人は宇宙から地表面温度を観測・分析し続けることは、地球と人類の関係を足下から見つめ直すことだと捉えており、地表面温度という新しい情報を社会の「当たり前」にし、人々の暮らしをより豊かで安心なものにするソリューションへと昇華させることで、より良い未来を次世代につないでいくことを目指している。

参考

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