2024年2月21日、衛星データ利用サービスの提供および小型衛星の開発・運用を行う株式会社Synspective(シンスペクティブ)が、同社が開発した小型衛星「StriX-3(ストリクス・スリー)」の打ち上げについて発表した。
本記事では、Synspectiveと同社の開発する「StriX」の特徴並びに、今回の打ち上げ情報についてご紹介します。
Synspectiveとは
Synspectiveは、地球を観測する小型SAR衛星「StriX」の開発・運用と、衛星データ解析サービスの提供を行う企業だ。
SAR衛星とはレーダーを利用する衛星で、光学カメラによる観測と異なり、夜間、曇りや雨などの天候にも左右されず定常的にモニタリングが可能。
地表面の形状の把握や物体を検出し、何がどのように変化したかを分析することで、主要な港湾サプライチェーンの可視化や地すべりなどの地盤の危険性などを知ることができる。
これにより、SAR衛星は災害や危機管理、環境モニタリング、サプライチェーン、経済トレンドなどを見える化する画期的な技術として評価されているのだ。
同社が開発する小型SAR衛星「StriX」は、これまでに実証機「StriX-α」、「StriX-β」と商用実証機「StriX-1」の3基を打ち上げ、宇宙実証に成功。
宇宙開発経験が豊富な有識者が開発した宇宙での動作実績・コスト・納期に優れた技術を選定・導入したことで複雑な検討作業や開発期間を省略し、会社設立後3年弱という短期間で、実証初号機から3基目まで確実な動作を達成した。
2024年では自社による量産施設を新設し、段階的にコンステレーション構築を進め、2020年代後半には30機による運用を計画。
世界のどこで災害が起きても約数十分〜1時間以内でデータを取得して分析し、災害対応の意思決定に資する情報提供が可能になるという。
たとえ夜間帯に地震や洪水などの災害が発生し、人が立ち入ることが困難な状況だったとしても、状況を迅速に観測し確認することができるのだ。
「StriX」の特徴
同社が開発する小型SAR衛星「StriX」の特徴は以下の3つ。
小型化・多数機生産に適した設計
Synspectiveの小型SAR衛星”StriX”は、これまでの大型衛星に比べて重量比で約1/10の小型化を達成。
また、品質安定性にも優れており、軌道上でも故障可能性が低く、多数機の安定的生産・運用に強みがあるという。
宇宙開発経験10~20年のベテランと航空機・自動車・家電製品開発経験者の融合による開発体制や大手自動車企業及び関連企業、宇宙大手企業との協業により技術・人的リソースを獲得し、衛星を開発しつつ、多数機生産体制を構築しているとのことだ。
展開時に大型SAR衛星と同等の長さになる折り畳みアンテナ
StriXでは、展開時に大型SAR衛星と同等の5mになる折り畳み方式のアンテナを採用。
軌道投入前は約80cm四方の立方体となっており、軌道投入後、宇宙空間で折りたたまっていたパネルが展開される。
このアンテナは、設計時に緻密な物理計算が必要である一方、一度設計が完了すれば製造や検査が容易となる。
また、他方式と比較して軽量で部品点数が少ないため量産化に向いており、さらに使用している電子機器の数が少ないため故障可能性が低く、安定的生産・運用に貢献するのだ。
他社の5倍の観測幅と大電力・大容量バッテリー
SAR衛星では観測可能面積が大きいほど、それに対応する発電・蓄電能力を確保することが難しくなり、制約が生じる可能性がある。
StriXは、観測幅を広げるために約2倍の太陽電池セルとそれに見合う大容量バッテリを搭載。
これにより、1観測あたり他社と比べて5~6倍という大幅に広い観測幅を実現している。
「StriX-3」の打ち上げについて
StriX-3の打ち上げ情報については以下の通り。
- 打ち上げ予定期間:3月9日(UTC)から14日間。
- 打ち上げロケット:Rocket Lab社 Electronロケット
- 打ち上げ場所:ニュージーランド・マヒア半島
- 投入軌道:太陽同期軌道、高度561km
最終的な打上げ日時は、日が近くなった段階で確定する予定で、ローンチミッションページにて最新情報を随時に公表するという。
これまで打上げたStriX-α、βにおいては実証機、そしてStriX-1は商用のための実証機という立ち位置であったが、今回打ち上げる「StriX-3」は新規設計の衛星ではなく、「StriX-1」と同じ設計理念に基づきつつ、これまでの知見を反映し製造・運用するもの。
「StriX-2」については準備を整えている状況で、近い将来に打ち上げる予定だという。
ミッション名「Owl Night Long」はあの楽曲とのオマージュ!
SynspectiveのSAR衛星「StriX」は、フクロウの学名である「Strix uralensis」にちなんで名付けられた。
夜間でもモノが見えるというフクロウの特徴はSARの特徴と同じであり、また、広げたアンテナが鳥の翼に見えるといったところが名前の由来となっている。
そして、「StriX-3」のミッションネームは「Owl Night Long」。
ライオネル・リッチーの有名な楽曲「All Night Long」のオマージュで、”owl(フクロウ)”と”all”がかけられている。
また、StriXの「夜通し(all night long)」地球を観測できるという特徴も表現しているとのことだ。
さいごに
いかがでしたか。
H3ロケット試験機2号機の打ち上げ成功、アストロスケールのスペースデブリ除去の実証衛星の打ち上げ成功と、日本の宇宙技術の進展が続いている。
この流れに乗り、StriX-3の打ち上げの成功にも期待したい。